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第8話 ヴァーウェンへ

 コンコンコン


「どうぞ」

「ジェリド様おはよう。昨日はちゃんと眠れた?」

「あぁローラか、おはよう。結局もう1人の僕の正体まではたどり着けなかったけど、辺境伯のおかげで久し振りによく眠れたよ」

「そうなんだ?……って、ローラか。はヒドくない?」

「それもそうだね。ごめんねローラ?辺境伯のお屋敷だから、なんとなくリリーが来たのかな?って思ったんだ」

「リリアーナ様がなんで来るの?」

「うん?だってここ、辺境伯のお屋敷だし?」

「辺境伯のお屋敷だからってなんで リリアーナ様が起こしに来るの?」

「だってリリーはこの屋敷のメイドだし……前にこの屋敷で起こしてくれたのはリリーだし?」

「えっ!?だって昨日お夕飯家の人と一緒に食べてたよ!?」

「ローラやレイラも一緒に食べてたよね?」

「あれは『ブラッドリー家でのジェリドの様子も聞きたいから一緒に食べなさい』って辺境伯に言われたからだよ?」

「あぁ、あれは辺境伯が気を利かせてくれたんだよ」

「辺境伯が?」

「うん。僕とリリーは辺境伯が言うには姉弟のように育ったらしいんだけど、辺境伯と僕は、僕が屋敷に着いてからずっと執務室で話しちゃってたから、姉弟の時間が取れなくなっちゃったのを気にしてくれたんだと思うよ?」


 昨日はあの後も、セドリックさんが夕食の準備が出来たと知らせに来てくれるまでの間、ずっと執務室で辺境伯に色々な話を聞かせてもらったし僕からもたくさん話した。


 辺境伯の執務室に置いてあった槍が、辺境伯のお兄さんの形見であること。

 辺境伯が知る僕の過去の話。

 僕とリリーや、辺境伯の令嬢達との関係等色々教えてくれた。

 時折シェリアが辺境伯をジト目で見ていたけど、


 自分の事を襲撃者の可能性があると思っていたと僕がどの様ななんの備えもせずに執務室に来たのは何故か?

その間に1度辺境伯はセドリックさんを呼び、ローラやレイラも同席させるように言っていたから、多分その時にリリーの事も言ってくれたんだと思う。


「『姉との時間を奪ってしまい悪かったね』って言ってくれていたから、もしかしたら今日の朝食も一緒に食べられるかも知れないね」

「ジェリド様はリリアーナ様の事が大好きなんだね?」

「記憶には無いけど、どうやら僕はお姉ちゃんっ子だったらしいからね」

「ふーん?」

「それはそうと、そろそろ着替えるね。今日はローラも朝食一緒に食べるんだよね?準備できたら呼ぶから、(ローラ)の部屋で待ってて?朝食が出来たら誰かが呼びに来るらしいけど、その前には呼ぶから」

「はーい」


 ローラが出て行くのを確認し、僕はいつものようにパジャマから私服へと着替え始めた。

 しかしパジャマを脱ごうとお腹の辺りからたくし上げている最中に、いきなりノックも無しに僕の部屋の扉が開く音がして動きを止める。


「……おはよう。お兄ちゃん」

「え!?なに!?お兄ちゃん?」


 僕の視界は現在パジャマで隠れている。

 誰が来たんだ?僕は思わずそのままの体制で動きを止め、来訪者の正体を考える。

 若い女の子の声?この声は確か昨日……


 考えている間にその来訪者は僕の下まで歩いてきて、僕のお腹に抱き付いた。


「えっ!?ちょっ!?」


 慌てて服を着直そうとするが、僕の顎の辺りにこの声の主の頭があり、服を着ることが出来ない。


「だ、誰!?ちょっとリアナ!?誰」

《………………》

「リアナ!?まだ寝てるの!?野生の勘はどうしたの!?」

「……わからない?」

「っ!?その声……!アリシアちゃん?」

「……違う」


 脇腹がギュッと抓まれる。


「痛っ!?」

「……私、エリシア。アリシアじゃない」

「エリシアちゃん?ごめんね。声が似てたから」

「……良い。今は、幸せ」

「えぇっと、エリシアちゃん?悪いんだけどちょっと離れてくれないかな?」

「……やだ」

「やだと言われてもこのままじゃ着替えられないし……」

「……ん?……そのまま脱いだら良い。……ジェリドの初めて。私が貰う」

「ちょっ!?エリシアちゃん!?意味わかって言ってるの!?」

「……当然。そうすればジェリドはもう私を置いていかない。……ジェリドは私の物」


 そう言えばエリシアちゃんは、僕がいなくなったせいで泣いていたってシェリアが言ってた。それにアリシアちゃんもリリーも悲しんでくれたって。

 辺境伯からも愛して貰えている。

 この屋敷の人も、ブラッドリーの皆も、いい人ばかりだ。

 記憶は無くしたけど、僕はこんなにも皆から愛されている。

 僕はパジャマを脱ぎ、エリシアちゃんの紫色の綺麗な頭を撫でる。

 エリシアちゃんはアリシアちゃんと双子の姉妹で、エリシアちゃんが妹だ。

 2人とも身長は145㎝で細身の体をしている。目は薄く綺麗な青色で髪には緩いウェーブがかかっている。

 正直今の僕には一瞬だと見分けが付かないくらいそっくりだ。

 ただ昨日の夕飯後に少し話してみてわかったけど、話し方や表情はかなり違った。

 姉のアリシアちゃんは表情豊で快活に話し、妹のエリシアちゃんは表情の変化や口数が少なく、声の抑揚もあまりない。


「ゴメンね?僕はエリシアちゃんの物にはなれないんだ」

「……どうして?」

「僕は僕に期待してくれている人達の為に、そして自分の為にも貴族を目指しているんだ。だから今は頑張らないといけないんだ」

「……私を娶れば子爵位と男爵位がついてくる。一石二鳥」

「いやそうじゃなくて自分の力で」

「……お姉様の方が良い?なら正妻はお姉様に譲る。私は第2夫人でジェリドは次期辺境伯」

「いやそうじゃなくてね?それにそんな簡単に」

「……いくよ?お父様はジェリドなら良いってお姉様に言ってた」

「いやそれはありがたいんだけどね?」

「……ありがたい。頂く?」

「頂かないよ!?」


 コンコンコン


「すみませんジェリド。こちらにエリシア来ませんでした?」

「あ、アリシアちゃむぐ!?」


 エリシアちゃんが僕の口を手で塞いだ。


「……あぁアリシアちゃん。僕は知らないよ?」

「……ジェリド。すいませんが入室させて頂いてもよろしいですか?」

「……今着替えてるから後でも良いかな?」


 ガチャ


「エリシア。声帯模写をしているつもりでしょうが全然出来てませっ!?2人ともなにしているんですか!?」


 なにをしている?少し今の状態を考えてみる。僕は着替えの最中にエリシアちゃんに抱き付かれ、その後パジャマの上を脱いでいる。つまり僕は半裸だ。そしてエリシアちゃんは、そんな半裸の僕に抱き付いていて、僕はエリシアちゃんの頭を半裸のままで撫でている。

 ……あれ?これって客観(アリシアちゃん)的に見たら……アウト?


「……まざる?」

「まざりません!!いきますよエリシア」

「……待ってお姉ちゃん。まだお兄ちゃんを食べてない」

「食べる!?まっ、待ちませんし食べさせません!!」


 バタン


 アリシアちゃんがエリシアちゃんを連れて、僕の部屋を後にする。


「……あれって冗談だったのかな?……それとも……本気?」



  ▽



 その後僕らは、呼びに来たメイドに連れられて食堂へと行き、

僕とローラは予定通り辺境伯達と一緒に朝食をとることとなった。

 僕とローラは客人扱いということで、辺境伯を含む全員が席に着いた後に呼ばれた。

 その中にアリシアちゃんとエリシアちゃんの姿があったのは当然としても、何故かその中にはリリーが同席しており、なおかつその後ろには何故かレイラが控えていた。


「おはようございます辺境伯。それにアリシアちゃんとエリシアちゃんもおはよう」

「うんおはようジェリド」

「おはようございますジェリド」

「……おはようジェリド」

「それにリリーとレイラもおはよう?」

「おはようございますジェリド様」

「おはようジェリド。どうしたの?そんな不思議そうな顔して」

「……リリーが同席しているのはまだなんとなくわかるんだけど、なんでレイラが後ろに控えているの?しかもジェリド様呼びって事は仕事モードだよね?それにメイド服のデザインがいつもと違うのはなんでなの?」

「それは今日から私がリリアーナ様の専属メイドとなったからです」

「どういうこと?レイラがリリーの専属メイド?」

「改めて自己紹介しておくわ。私の名前はリリアーナ=キルヒアイゼン。そちらにいらっしゃるアルバート=キルヒアイゼン公爵の兄、ロバート=キルヒアイゼン辺境伯の娘よ」

「そして私は、リリアーナ様のお母さんの妹の娘ですので、リリアーナ様とは従姉妹にあたります。本日からリリアーナ様の専属メイドとなりました、レイラと申します。以後お見知り置きを」


 レイラが優雅に一礼しながらそう答えると、リリーがレイラを呼んでデコピンを食らわせた。


「痛っ!?」

「レイラ?リリーで良いって言ったでしょ?」

「自分も公私はしっかりわけていたくせに」

「なにか言った?」

「気のせいだと思われます」


 レイラが完璧なお辞儀と笑顔でリリーに返す。


「君達にはこれから、一緒に王立学園へ入学し、そして卒業して貰う。ジェリド、これからはリリーに変な虫がつかないように君がちゃんと面倒をみてくれると期待している。しっかりとリリーとレイラを守ってやってくれ。では朝食にしよう」


 そしてその後、僕ら4人とリアナは辺境伯の屋敷をあとにし、ヴァーウェンを目指すのであった。

ネット小説大賞最終選考に見事落選しました。

予想通りとはいえ、やはり落選は悲しい物ですね。


これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

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