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第5話 ギルバート

《ジェリド。助けて……》

(ごめん無理。むしろ僕が助けてほしいくらいだよ)


 あ……足が痺れる……。


「二人とも、ちゃんと反省していますか?」

「反省してます。だから足、戻しても良いかな?そろそろ……限界が……」

「ダメです」

《ジェリド、私もそろそろ解放するように》

「リアナさんもダメですからね?」

《なんでよ!?》


 僕は現在、正座なる物をしながらリアナと一緒にレイラから説教を受けており、僕の足はビリビリ痺れ、リアナはほっぺたをフニーっと引っ張られながら、後ろ脚二本で人間のように立たされている。


「リアナさん。人間には法律という物があるんです。確かにローラちゃんは可哀想でしたが、あそこまでするほどの事では無かったはずです!」

《だってあいつはローラを泣かせ、フニー!?》

「聞こえなくてもわかりますよ?あの人に罪があるとするなら、旦那様への虚偽報告と、服を納品せずに得た不正受給だけです。決してあそこまでする必要は無かったはずです」

《あいつはローラを泣かせたのよ!?群れの仲間が傷つけられたらやり返すのが当たり前なんだから私は悪くないもん!》

「……ジェリド君。通訳をお願いします」


 リアナはほっぺたをフニーっとされながらも手──右前脚を上えとかかげ、Goと言わんばかりにレイラの方へと振り下ろした。


 なるほど、リアナは今のを僕に言えと言うんだな?

 ……勘弁して下さい。

 レイラは怒ると本当に恐いんだから。


 レイラは公私をしっかりと分ける、仕事中は笑顔で注意するに留めるけど、その分休みの日にはしっかり怒る。


 リアナがレイラの髪留めを勝手に拝借したのがバレた時、ローラの尻尾ブラシを勝手に拝借した余罪までレイラにバレ、レイラはリアナの拝借癖を治すため、リアナを今の姿勢で20分も説教し、ローラや他の先輩メイドがレイラに説教されているところを、僕は何度も見ている。

 かく言う僕も、レイラに長時間に及ぶお説教をされたことがある。でもまぁそのお陰で今の僕とレイラの関係があるんだけどね。


 ソシアさんは悪いところを指摘した後吊すが(ローラ相手の場合)、レイラは逆に説教魔なのである。

 そう言えば、母親の英才教育がそうさせたという噂話を耳にしたことがあったな……


「ジェリド君。答えてくれますよね?」


 現実とは無情だ。僕が必死に現実逃避をしているのに、現実は逃げている僕の心を逃がしてはくれない。

 レイラが僕に、まるでNOとは言わせませんよ?とでも書かれているかのような笑顔を向ける。


「……仲間がやられたら、やり返すのが当たり前だとリアナは言っています」

「それは獣の考えです。リアナちゃんはジェリド君のパートナーとして一緒にいるんですよね?ならばそういう考えは改めないと、ジェリド君に迷惑がかかり、リアナちゃんのことを嫌いになったり迷惑な奴って思われちゃうかもしれませんよ?それでも良いんですか?」

《そんなのやだ!!》


 リアナがほっぺたを抓られたまま首を左右に振ろうとして体が回る。


「ならこれからは人間のルールを守って下さいね?」


 リアナが首を縦に振り、レイラがリアナを抱き上げ引っ張っていたほっぺたを優しく撫でてお説教は終了した。


「素直なリアナちゃんは大好きですよ」


 最後にリアナの頭を撫で、レイラが僕に向き直る。


「ジェリド君ももう良いですよ」


 僕もようやく解放されたけど、地面の上に薄い布を引いたところに正座をさせられていたので、足が痺れてまだ立てない。でも痺れて立てないところを見せるのは嫌だったので、足を崩して回復を待ちながらレイラに話しかけることにした。


「今日のお説教は短いんだね?」

「私を説教魔か何かと勘違いしてませんか?私は相手が怒られるようなことをしたのが1度目であり、自分の非を認めたのなら、そう長々と怒ったはりしませんよ?」


 僕はリアナの前に軽く正座でお説教をされていた。

 僕がお説教をされたのは、あの時リアナを止めようとしなかったからだ。


 あの時の僕は、なぜかリアナと同じ思考に流され、ジムさんは悪くないとは思いながらも、リアナを止める気には……


 リアナが突如振り返り、遙か後方を睨み付けた。


《ジェリド!かなり強い奴が凄い勢いで近づいて来てるわ!》

「っ!?ローラ、レイラ。何かが来た!すぐにどこかに隠れて」

「「えっ?」」

《久し振りだなぁフェンリル。探したぜ?》

「《っ!?》」


 僕らの上を何かが通過し、同時に頭の中で声が響いた。

 ……これは……思念波?


《うわっ、最悪な奴が来た》


 通過した陰がゆっくりと旋回して戻ってきたらしく、僕らのいる場所は、空を飛ぶ大きな陰に隠される。


(リアナ!最悪な奴ってどういう事!?あれのことを知ってるの!?)

《知ってるどころか怨みまであるわ》

「怨みとは穏やかじゃねぇなぁ、フェンリル?」

「っ!?」


 今度は思念波ではなく別の声が響き渡る。

 少なくとも2人いる!!最悪な奴ってことは敵なのか!?


 ──ズドン──


 空にいた巨大な陰が突如消え、黒い何かが降ってきた。そしてその衝撃で土煙が巻き起こる。

 落下地点はローレンさんのお墓の後方10メートルといったところか……お墓の上に落ちなくて良かった。


《私はリアナよ。それに怨みがあるのは事実よ!》

「あれは虫歯程度で暴れ回ってたお前が悪いんじゃねぇか?」

《すっごく痛かったんだからね!?》

《だからって森の中で暴れんな。しかも俺らに噛みつきやがって》

《いきなり敵意むき出しで出て来るのが悪いんじゃない》

「でもそのお陰で虫歯が抜けたんじゃねぇか?」

《大人の歯まで抜けるかと思ったわよ!!》

「それも俺に噛みつくから悪いんだろ?」

《その後殴ったじゃない!》

「いやいくら俺でもフェンリルが、いきなり自分の腕噛んでたらビビるだろ!?」

《うるさい!!》


 リアナが一吼えすると、声のする方向に向かって物凄い突風が発生し、土煙を吹き飛ばした。するとそこには小さなクレーターのような物が出来ており、中から風など知らんとばかりに身長180㎝近い男が歩いて出て来た。

 男の皮膚は、真っ黒な鱗のような物で覆われており、背中には大剣を帯びている。


「相変わらず乱暴だな?」

《まだ子供だからな、多めにみてやるのが大人の器量だろ》

「それもそうだな。おいフェンリル。俺達は別に喧嘩するつもりはねぇ。ただお前に挨拶しとこうと思って探してただけだ」


 男が両手を広げ、俺達……リアナの方へと歩き出した。

 リアナはお座りをしながらその声に答える。……というかリアナと会話をしているということは、リアナの思念波が聞こえているのか?


《……なんの挨拶よ?》

「暫く森を留守にするからその挨拶だ」

《……なんで留守にするのよ?》

「……?理由を聞かれるとは思わなかったな。今年から王国の学校に通うからだが、それがどうかしたのか?」

《うわぁ……最悪》

「最悪ってなんだよ?俺と会えなくなるのが寂しいのか?お前も可愛いところあんじゃねぇか!」


 リアナの前まで来ていたこの男は、リアナの頭を撫でようとして、リアナの回転尻尾攻撃を手に食らう。


《逆よ!私達もこれから学園に通う事になるから最悪だって言ったのよ!!あんたの親には話が通ってるはずでしょ!?》

「はぁ?初耳だぜ?お前が学園に通う?……『私達』?そういやお前が人と居るところは初めて見たな……それにリアナってお前の名前か?お前に名前なんてあったのか?」


 僕らの事を一瞥し、またリアナと話し始めた。

 どうやら敵意は本当に無いらしいが、念の為にローラとレイラには出て来ないように後ろ手で来るなと指示を出す。


《私の友達。名前はそこにいるジェリドにつけてもらったのよ》

「へぇー?お前に気に入られるなんてすげぇな?ジェリドってこいつのことか?」


 僕達のことが初めて気になったらしく、今度は僕の所に歩いて来て、僕のことを上からマジマジと見下ろしながら観察を始めた。

 僕は別に身長にコンプレックスなんて感じて無いと思うけど、上から見下ろされるというのはあまりいい気がしない物だ。

 コンプレックスなんてきっと無いとは思うんだけど、近付かれすぎて僕からは見上げないと顔すら見えないというのはいかがなものか?

 そしてわざわざ僕の顔を見るために膝を曲げ、下から覗き込もうとされたらあまりいい気がしないのは当然だよね?


 僕はこの男に下から覗き込まれそうになった瞬間、踵を返してリアナの方へと歩いて行き、リアナを抱き上げてからこの男に話しかけた。

 決して身長差を気にした訳では……いいよ!気にしたよ!気にしたから距離を取ったんだよ!


「僕が先程リアナから紹介を受けた、ジェリド=ブラッドリーです」

「……お前フェンリルの声が聞こえてたのか?」

「はい。僕とリアナは会話が出来ます。それより、失礼ですがあなたがどなたか伺ってもよろしいですか?」

「あぁ悪いな。俺はギルバート=ドラゴニール。ドラゴニール家次期当主だ」

「ドラゴニール家の方でしたか。……お一人ですか?」

「?どういう意味だ?」

「先程違う方の声を聞いたのですが?」

《お前、もしかして俺の声が聞こえてんのか?》

「はい。聞こえています」

「……ん?お前……」


 この男はそう言うと、僕をじっと見始め、その黒目の部分が縦に割れたかと思うと、中から金色の瞳が現れ僕を見る。

 そして暫くすると、突如この男は僕を万遍の笑顔で抱き絞めた。


「痛っ!?なっなにするんですか!?」


 鱗がすっっっごく硬いっ!そして痛いっ!

 挟まれたリアナは大丈夫かと不安になったが、リアナはしっかり逃げている。


「お前俺らと同類かぁ!?オヤジ以外では初めて会ったぜ!?」

「同類!?どういうことなんですか?」

「は?なに言ってんだよ?お前がわかんねぇはずねぇだろ?」

「……今の僕には半年以上前の記憶がありません。だからあなたの言ってる意味がわからないんです」

「……本当にわかんねぇのか?」

「はい」


 この男、ギルバートさんは僕を解放し、悲しそうな表情を浮かべて頭を掻きながら視線を逸らした。

 リアナなら意味がわかるかと思ってリアナを見るがリアナはわからないと首を振る。


《どうやら本当にわかんねぇようだな?》

「そうらしいな、どうする?」

《忘れてんなら自分で思い出すべき事だと俺は思うぜ?》

「それには俺も賛成だ」

《なら代わりに守ってやろう》

「あぁ、そうだな。おいお前、ジェリドって言ったな?お前俺の舎弟になれ」

「……は?」

「お前を俺の舎弟にしてやるって言ってんだよ」

「……舎弟?……お断りします」


 ギルバートさんは僕の返答が理解できなかったらしく、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。


「……なぜだ?」

「僕には既に尊敬する兄がいます。ですから兄はその人一人で十分です。それに僕は今後、全力で成り上がるつもりです。だから誰かの庇護下に入り、それに甘えるわけにはいかないんです。ですからもし良ければ、僕とお友達になりませんか?」

「友達?」

「はい。お友達です」

《ギル、俺は賛成だ》

「へぇー?意外だな?俺はてっきり反対するかと思ったぜ?」

《友達ってのはある程度対等じゃねぇともたねぇだろ?その点こいつは色んな意味で対等だ。こいつは俺らとある意味同類だし、魔力量ならむしろ俺らより上だ》

「俺らより強いとでも言いてぇのか?」

《んな訳ねぇだろ?人間には限界がある。俺らより強い人間なんてありえねぇ。だが恐らく足引っ張られる程弱くもねぇ。それにお前、あんま友達いねぇだろ?》

「んなことねぇよ?ハルとかリオとか……」

《全員舎弟だろ?……つか俺らは実の兄弟じゃねえか?ってことはお前……舎弟ばっかで友達一人もいねぇんじゃねぇか?》

「それを言うならアビーだっていねぇだろ!?」

《国にいる竜は全員俺の友達だぜ?》

「……友達になってやる。感謝しろ」


 ギルバートさんは僕の方に向き直り、そっぽを向いて百面相をしながら握手を求めて手を差し出した。


「ありがとうギルバートさん」


 そして僕はその手をしっかりと握り締めた。

 今にして思えば、僕も記憶喪失後、使用人やペットじゃないちゃんとした人間の友達は初めてかもしれない。


「ギルで良い。それに敬語もいらねぇ。俺は今年16になったばかりだ。お前も入学って事はタメか上だろ?……にしては小せぇけど」

「小さいは余計だよ!僕も今16だよ。これでも半年足らずで4㎝は伸びたんだからね?」

「半年前はさらに小さかったのかお前?」

「……人より少し成長期が来るのが遅かっただけだよ!きっと」

《おいギル、俺からも挨拶させろ》

「おう。それもそうだな」


 そつ言うと、ギルの体を覆っていた鱗が皮膚の中に吸い込まれていき、褐色の素肌が姿を現す。そしてその背中の辺りからボトリとなにかが落ちる。

 落ちたと思われた物体は、どうやら落ちたのではなく、自分から飛び降りたらしく、見事に着地を決め、二足方向でテクテクと僕の足下まで歩いてきた。

 その物体の正体は、身長40㎝くらいのかなり濃いダークブルーの竜だった。


《俺はギルの片割れでライバートだ。ライで良いぜ?よろしくな。あとそこに隠れてる2人、危害はくわえねぇから出てきな?》


「「っ!?」」

「なになに今の声!?頭の中に直接聞こえたよっ!?」

「……やっぱりバレてましたか」


 レイラが僕に出ても良いですよね?という意図の視線を送ってきたので、僕は首肯でレイラに返し、ローラとレイラが大木の陰から姿を現した。そしてその光景を、リアナは信じられないとばかりにローラ達とライバートさん──ライを交互に見ていた。


《なんでローラ達にあんたの思念波が届いてんのよ!?》

《俺は人間から産まれてんだぜ?その上ギルとは一心同体であり、一身同体でもあるからな、こうやって話そうと意識すりゃあ話せんだよ》

《卑怯よ!あんたなんてどう見てもチビで変な竜じゃない!》

《んだとこら?お前なんてまだ乳歯生えてるチビ犬じゃねぇか!?》

《乳歯ならもう全部生え替わったわよ!》

《なら年長者をもっと敬え!》

《子供に対して大人気ない!》

《ガキって認めてんじゃねぇか!》

《ガキじゃないわよ!》

《どっちだよ!?》


 このやり取りはローラやレイラに聞こえているのかな?とふと疑問に思い2人を見ると、2人はライとリアナを見ながら、ライが話した時だけ反応を示していた。

 どうやら2人にはライの声だけが聞こえているらしい。するとローラが手を挙げながらライとリアナに問いかけた。


「はいはいはい質問。リアナちゃんっていくつなの?」

《《12(よ?)(だったよな?)》》

「「「えっ!?年下だった((の))(んですか)!?」」」

《いったい何歳だと思ってたのよっ!?》

「……リアナが何歳だと思ってたか聞いてるんだけど?」

「私もリアナさんが歳下だとは思っていませんでした……」

「私も全然思って無かったよ?」

「全員同時に答えない?」

「わかりました」

「はぁい」

「「「せーの」」」

ジ「50」レ「100 歳」ロ「1000」

《そんなに歳とってないわよ!!特に、ローラのバカァーーー》

リアナの年齢は12歳でした。

皆様はリアナは何歳だと思っていらっしゃったのでしょうか?


しかの こうへい様からジェリド君のファンアート頂きました。

http://20467.mitemin.net/i242195/


とても可愛らしく、それでいて芯が強そうな顔ですね。

現在のジェリド君のイメージにかなり近く、とても嬉しかったです。



次回予告

次回リアナはあることを修得しようと頑張り、ジェリドは自分の正体についてとある仮説をたて、それを辺境伯にぶつけます。

そのあることとはなんなのか?そしてジェリドの正体についての仮説とは?



次回【辺境伯のお屋敷】をお楽しみ下さい。

次回更新は5/16の07:00を予定しています。

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