表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/75

第4話 誓い後編

第5回ネット小説大賞の最終選考68作品に残りました。

ここまで書けたのも、お読み頂いている皆様の存在があればこそです。


これからも頑張っていこうと思いますので、出来れば応援よろしくお願いします。

「どうしてここにいるの?」

「ローラちゃんらしき人が馬車で森に入っていったと聞いて、慌てて家からこれを持って来たんだ」

「これはなんなの?」

「……ローレンのプレゼントだ。すぐに渡せなくてすまなかった。本当にすまなかった」


 ジムおじさんと呼ばれたこの人は、突如土下座をしてローラに謝った。


「なになに!?いきなりどうしたの!?」

「本当はすぐに渡しに行きたかったんだ。でも、村長が炭坑送りになったって聞いて、もしかしたら俺まで同じように炭坑送りになるかもしれないと思ったら怖くって……本当にすまない」


 なにが言いたいのかがよくわからない。そしてローラも明らかに困惑している。


「すいませんが、僕らにもわかるように最初から説明してもらえませんか?」

「……君達は?」

「僕はジェリド=ブラッドリー。ローラは僕の専属使用人です。ローラもあなたが何を言っているのかよくわかっていないみたいなので、わかるように順を追って説明してもらえませんか?」

「ジェリド=ブラッドリー?……ブラッドリー!?」

「はい」


 ジムというらしいこの人は、みるみる内に顔を青くしていき、脂汗までかき始めた。この人に後ろめたい所があるらしいことは明らかだ。

 現におそらくこの人は、ローラに懺悔しようとしていた。先程のローラの状態を見た僕には、この人の話をローラ1人に聞かせる気にはとてもなれない。そしてローラとローラのお父さんの為にも、この人を逃がすつもりもない。


 この人が自発的に話すのを暫く待ったが、なかなか話してくれずにどうしようかと思った頃、レイラが僕にアイコンタクトを送ってきたので、レイラに任せることにした。


「ジムさんと言いましたね。私はブラッドリー家使用人、レイラと申します。あなたはローラのお父様に纏わる事件の重要参考人のようです。

 あなたが話さないのであれば、ブラッドリー家に連行し、事情聴取をさせて頂きます」

「な!?」

「ローラのお父さんに纏わる事件は、旦那様もそれだけお気になされていると言うことです。それが嫌ならここでお話下さい。話さなければ旦那様の下へ連行しますよ?」


 このレイラの説得?により、ジムさんはポツリポツリとだが順を追って、おそらく自らの失態についても隠す無く話してくれた。


 話の内容を纏めるとこんな感じだ。


 ローラのお父さんは、ローラの成人の儀に合わせ、ローラに自らがデザインした服をプレゼントしようと考えた。しかし、ローラのお父さんには服のデザインを考えることは出来ても、それを実際に縫製する技術はなかった。


 ジムさんは服飾関係の有名店での修行を終え、高い縫製技術を身につけたが、デザインのセンスがなく、自らのブランド立ち上げの夢を諦めた。


 開拓村と言うのは勿論、村を作るための開拓作業をするのが仕事。食糧も支給されるし開拓作業員として働けば給金も出るが、医者や女子供を除けば、基本的には開拓作業員として働く義務をおう。その代わり開拓が完了した暁には、農地を貰うことも出来るし、自らの店を格安で建てることも出来る、その為ジムさんは開拓作業員として働き、自分の修業先だったお店の系列店をここに建て、店長になるためにやって来たそうだ。


 しかしジムさんは、開拓作業というものを舐めていた。

 毎日縫製作業という肉体労働はしてきたものの、縫製作業は細かい作業を丁寧に行うものであり、斧を持っての重労働とは訳が違う。そして、そんなジムさんの手助けをしてくれていたのがローレンさん。つまりはローラのお父さんだった。


 ローレンさんは村長から明らかな差別を受けていたが、食糧を管理し配給する村長に逆らうのを嫌った村の人達は、ローレンさんとは距離を置いていた。


 2人は次第に仲良くなり、ある日ローレンさんはジムさんに、自分がデザインした娘の服を縫製して欲しいと依頼した。

 依頼された服の数がそれなりにあったこと、そして完全な一点物のオーダーメイドであること、さらには、自分がそれを縫製するには、縫製作業を行うための機材が手元にはなく、修行先の店で借りることになるので、割高になることや、そもそもの日数が足りない可能性があることを説明したが、それでも頼むと言われて引き受けたそうだ。


 その時の依頼金額は金貨1枚。

 開拓村での給料およそ2ヶ月分だ。

 給料2ヶ月分とはいえ、ブラッドリー領の開拓村では、食糧は適量が支給されていたこと、そしてお金を使う場所もあまり無く、服などは質こそ良くないが、とても底価格で購入することが出来たため、ほとんどの人はお金は貯まる一方だった。ジムさんもそうだ。その為、ジムさんはお金に関しては心配していなかったそうだ。


 次の問題。それは日数だ。

 今回のプレゼントは、ローラの成人祝いのプレゼント。それに遅れるわけにはいかない。その為、ジムさんは村長に給金を減らしてくれても良いから、毎週働く日を1日減らしてくれと直談判に行き、見事成功した。


 ジムさんの労働日は月火木金土の週5勤務から、月火木金の週4勤務となり、ローレンさんとは開拓エリアを離され、勤務中にローレンさんに助けてもらうことは出来なくなったが、水曜日は日帰りで、土日は泊まり込みで元修行先のお店でローラの服を縫製した。


 そしてローラの服が完成目前となった頃、ローレンさんが熊に襲われ亡くなった。


 ローレンさんが亡くなったのは土曜日の夜で、その日ジムさんは修行先のお店で泊まり込みで作業をしており、ローレンさんの死を知ったのは月曜日の朝、鬼の形相をしたブラッドリー子爵が、本国の役人に村長を引き渡しているのを見た後、何があったのかを知人に聞くことで全てを知ったらしい。


 自分の代わりにローレンさんが、本来より1日多い週6日も働かされていたことを。

 食糧の配給量をローレンさんとローラだけ、極端に減らされていたということを。

 ローレンさんの給金だけ、自分達の半分にも満たなかったと言うことを。


 ジムさんはそれらの事を知り、鬼の形相をしたブラッドリー子爵を見て恐怖した。


 ローレンさんが死んだのは、半分は自分のせいかもしれない。

 ローレンさんは、ジムさんが1日休む代わりに1日多く働かされていたのだと理解したから。


 村長は確かに獣人を差別していたが、栄養失調でローレンさんを倒れさせるつもりはなかったはずだ。

 食糧の配給が少なかったとしても、お金が有れば食糧を買うことが出来たはずなのだから。

 しかしそのお金は、村長の知らないところで、自分が依頼料としてもらってしまい。ローレンさんは食糧を買うことが出来なかった。それ故に栄養失調に陥り、そのために起きた悲劇だと理解したから。


 その後ブラッドリー子爵は、事件について知る者を探し、事情を聞いて回り、ジムさんも事情を聞かれたが、恐くなり何も知らないと答えてしまったそうだ。


 その後ローラはお屋敷に連れて行かれてしまったが、ローレンさんがデザインしたローラへのプレゼントは、死に物狂いでジムさんが完成させたらしい。しかしジムさんは、事情聴取の際にブラッドリー子爵に嘘をついた事を思い出し、嘘がばれるのが恐くなり、渡せないまま今に至ったと言うことらしい。


 僕は、ローレンさんが死んだことに関して、もしこの人に罪があるとすれば、それは友人が差別をされていることを知りながら、それを自分可愛さの為に見過ごしたことだと思った。

 だってこの人は配給や給金の事までは知らなかったんだから。

 僕は、知らなかったことが罪だとまでは思わない。


 ……でも


 話を聞き終えたローラは、ゆっくりと箱を開け、中に入っていたスカートやズボン、シャツや上着を取り出し、自分の体に服をあて、墓石の方を向き震えるような声で話し始めた。


「パパ……とっても素敵な服をありがとうなの。でも、でもね、でもねパパ……私、もう、こんな、に、こんなに大きくなっちゃった。折角の、プレゼント、なのに、もう、私……もう着る、ことす、ら出来ないよ」


 リアナが心配そうにローラの横へと歩いていき、その顔を覗き込んで動きを止める。


 ──そして一陣の突風が、僕とレイラの間を駆け抜けた。


 ──ドゴンッ──


「ガハッ」


 音を聞いて振り返ると、そこには木に背中から打ちつけられたジムさんの姿があった。そしてその後、ジムさんの体はゆっくりと空に持ち上げられていき、ジムさんが悲鳴をあげる。


 何事かと思い、突風が来た方向……つまりはリアナの方を振り向くと、そこにはゆっくりとこちらを振り向き、牙を剥き出しにし、徐々に体が大きくなっていきながら吼えるリアナの姿があった。


「グワァオォォォォウ」

《よくも、よくもローラを泣かせたな!!お前は四肢をへし折ってから、地面に叩きつけてやる!!》


「ひぎゃぁぁぁあーー」


 そしてジムさんの体がゆっくりと宙へと浮いていく。


「リアナちゃん!?」

「リアナちゃん待って!!」


 レイラとローラが制止の声をあげ、ローラがリアナの尻尾に抱き付いた事で、リアナの動きが止まった。


「リア、ナちゃん。私の、ために怒ってくれたんだよね?ありがとう。でもね、パパが、パパが、見てるの。ジムおじさん、を傷つけたらね、きっとパパが、悲しんじゃう」


 リアナは、尻尾に抱き付くローラをしばらく眺めると、元の姿に戻り、ローラの涙で濡れた頬や目元を舐める。そして2mくらいの高さまで浮かされていたジムおじさんは、そのままボトリと落とされ解放された。


 ジムさんは懸命に逃げようとしたが、すぐさまレイラに捕まった。


「逃げられるなんて思わないで下さいね?ローラちゃんのお父さんの事件について、あなたに非はないかもしれません。ですがあなたは、領主である旦那様が、事件解明の為に動かれたとき、旦那様に虚偽申告をした件について旦那様の下で釈明して頂きます」

「そんっ……はぁ、はぁ、そんな!?話せばっ、子爵の下にはっ、連れて行かないと言ったじゃないか!?」

「話さなければ連れて行くと言っただけで、話せば連れて行かないなんて言ってませんよ?」


 レイラがかなり意地悪な言い方をしているが、父さんの性格からすれば、おそらくこの人を罰することはない。単なるケジメの意味だろう。


「もしそれが嫌なら、ローラちゃんに渡した服を、ローラちゃんが着られるようにもう一度仕立て直してから、ローラちゃんに直接渡しに来て謝って下さい。そうするのであれば、背中の打ち身も私が治して差し上げます。もちろん旦那様への報告はしなければなりませんが、そちらは私の方から手紙にて報告をさせて頂きます」


 手紙を書いてもジムさんは、父さんに直接報告をしに来いと言われるかもしれない。それは当然ジムさんにもわかっているはずだ。それでもジムさんが選ぶ答えはおそらく……


「お願い……します」


 そうだろうと思った。

 レイラがローラを振り返る。


「勝手に話を進めてしまいましたけど、ローラちゃんもそれで良いですか?」

「あ、ありがとう」


 レイラはローラに確認を取り、ジムさんの腰や背中の治療を始めた。するとジムさんは、ものの数秒で治ってしまったらしく、そのまますぐに立ち上がる。


「打ち身や骨折は切り傷とかとは違って、魔法でも時間がかかるって聞いていたんだけど、結構すぐに治せる物なんだね?」

「私の血筋は治癒魔法に特化しているんです。母は魔法が使えませんが、私も従姉妹も治癒魔法は得意なんです」


 そう言うとレイラは、ローラに振り向き手を差し出した。


「ではすみませんが、そちらをお借りしても良いですか?」

「はい」


 レイラはローラから箱ごと服を受け取ると、箱から服を取り出し、一着一着広げて確認しては丁寧に畳んでいく。

 ジムさんに箱を渡し、ジムさんが離れていくのを確認してからローラに話しかけた。

 

「珍しいデザインですが、とても良い服だと思います。辺境伯のお店で売られていてもおかしくないくらいに」

「レイラちゃん。ありがとう」


 おそらくはお世辞だ。それでもそのお世辞が嬉しいと、泣き顔を懸命に笑顔に変えるローラを見て、僕はローラのお父さんの前で誓いをたてることにした。


「ごめんローラ。前、開けてもらっても良い?」

「ジェリド様……ありがとう」


 ローラが僕の意図を酌み取り、場所を空けながら礼を言う。

 僕が屋敷に来たばかりの頃から考えると凄い成長だ。そして今も、僕らに心配をかけまいと、涙で濡れた顔で笑顔を作る。


 まるで私は大丈夫だよと言わんばかりに。


 そう、ローラは笑うんだ。

 どんなに辛くても。

 そして僕はその事を知っていた。……いや、知った気になっていた。

 今日のローラを見て、その事に気付かされた。

 自分のお父さんが自分の目の前で熊に食い殺された場所。そんな所、恐くて仕方が無かったはずだ。実際ローラは会話すらまともに出来ないくらいにいっぱいいっぱいだった。でも、それでもローラは笑顔を作ろうとしていた。


 お父さんの最後のプレゼントを見て、そしてそのプレゼントを、自分がもう着ることすら出来ないと知って涙を流した。

 それでもローラは、涙を拭い目を真っ赤にし、目元を腫らせながらももう笑顔を作っている。


 本当に強い子だ。

 僕はローレンさんの墓前で左膝をつき、右膝をたて、右拳を心臓の前に、左拳を腰の後ろに回して頭を垂れた。

 これは騎士が自ら誓いを立てる時の最大級のポーズだ。

 僕は騎士ではない。でも、なぜかこれが1番相応しいと感じた。


「ローレンさん。僕が先程ローラに紹介して頂いたジェリドです。ローラはいつも、笑顔を絶やすことなく頑張ってくれています。泣いているのを見たのは、今日が初めてです」


 ローラに涙は似合わない。ローラにはいつも心の底から笑っていて欲しいし、幸せになって欲しい。いや、こんなに辛い思いをしても、必死に頑張り僕らに笑顔を見せ、大丈夫だよと伝えてくるこんな子が、幸せにならないなんて間違っている。

 だから僕は、ローラのお父さんの墓前で誓いを立てる。


「ローラは必ず、僕が責任を持って幸せにしてみせます。だから安心して逝って下さい」


 ローラが幸せになれるように、僕はこれから全力で上を目指して成り上がろう。

 僕が成り上がれば、ローラの生活にも余裕が出来るし、ローラに好きな人が出来、ローラが望めばその恋や相手を全力でサポートする事も出来るだろう。

 そしてもし、もし僕の問題がどうしようもない物だったとしたのなら……その時は必ず、ローラを幸せに出来る相手にローラを託すことを、僕はローラのお父さんの墓前で誓った。


「……レイラちゃんが言ってたより凄いことになっちゃった」


 ローラがぼそりと何か言ったので、僕は立ち上がって振り向くと、ローラとレイラが、真っ赤な顔をして立っていた。


「……ロポーズ……初めて見てしまいました」

「初めてされちゃったの……」

「?」


 ポーズ?あぁ騎士の誓いのポーズの事か、今思うと少し恥ずかしかったな。


《ジェリド……ちゃんと責任とりなさいよ?》

「責任?もちろん取るよ?」


 その為にローラのお父さんの墓前で誓いを立てたのだから。

 その後暫く、なぜかローラとレイラの言動がおかしかった。


 僕はリアナを抱き上げリアナを撫でる。


「ローラの為に怒ってくれてありがとうリアナ。僕もちょっとスッとしたよ。でもリアナ。いくらなんでもやり過ぎだ」


 そしてリアナの頬をかなり強く引っ張った。

やり過ぎ感があったのでかなり修正しました。


学園編ならさっさと入学しろと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、もうすぐ入学しますので、しばしお待ち下さい。


感想欄にしかの こうへい様からジェリド君のファンアート頂きました。

私は絵が下手で、自分では書けないのでとても嬉しかったです。

凄く可愛らしくて私の投稿開始当初のイメージよりも良いくらいですので是非ご覧下さい。


【次回予告】

次回はリアナがレイラにお説教されちゃいます。そして四大公爵家のあの人が初登場。ついでにリアナの年齢も明らかに!

次回登場する四大公爵家はどこの公爵家の人なのか?そしてリアナの年齢はいくつなのか?


次回【ギルバート】をお楽しみ下さい。

次回更新は5月13日土曜日10:00に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『嫁がダメなら娘になるわ! 最強親子の物語』下記のリンクから読めます。自信作ですのでこちらもぜひお願いします

https://t.co/OdPYRvFC5n

上のリンクをクリックすると読むことができます。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ