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第2話 旅路

この作品をお読み頂いている読者の皆様、休載が長引いてしまい申し訳ございませんでした。

「「……え?」」


 僕の思考をレイラの声がぶった切り、馬車が走り始めた。


 僕の横を歩いていたリアナが、御者席の手前まで駆けて行き、こちらを向いてお座りの姿勢で僕を見た。

 リアナは右前脚で自らの口元を数秒隠し、その後、御者席に座るレイラの方を向いて……つまりは僕らに背を向けてから、わざわざ僕らに尻尾を二回振り、その後御者席に座るレイラの膝の上に飛び乗った。


 どう見ても驚く僕らをおちょくって喜んでいる。

 そしてあえて僕に思念波を送らず、なんの疑問もなくレイラの膝の上に飛び乗ったことから、今回の件、レイラとリアナは絶対グルだ。


 リアナが今した右前脚で口元を隠したあの仕草……あれはソシアさんのコーディネートをレイラに頼んだ報酬に、レイラ要望のポーズをしようとしたとき、ローラの揚げ足を取ったレイラが、僕を嵌めてドレスまで着させられた時にレイラがしたのと同じポーズだ。


「なんでレイラちゃんがここにいるの!?」

「私も辺境伯に呼ばれているからよ」

「あっ!レイラちゃんもしかしてお仕事?」


 パチパチパチ


「ローラちゃん正解」

「やったぁ!」


 ローラが御者席の方へ走っていき、レイラの左隣に腰かけてレイラの左腕に抱き付いた。


「相変わらず甘えん坊さんなんですから」


 レイラがローラの頭を撫でると、ローラは気持ちよさそうに目を細めながら口元を緩めた。


「仕事?」

「レイラちゃんは辺境伯のお人形さんをしてお小遣いをもらってるんだよ」

「……辺境伯のお人形さん?」


 確かにレイラは綺麗だけど、お人形さんをしてお小遣いって……辺境伯にそんなしゅ


 ──コツン──


「ふぁう!?……レイラちゃん痛いよぉ」


 レイラがローラの頭を撫でていた手を拳骨に変えて、ローラの頭の上に落とした。


「ローラちゃん?その言い方だと辺境伯にも私にも失礼だって、ちゃんとわかってる?ジェリド君も変な想像しないで下さいね?」


 僕とローラは素直に頭を下げた。


「レイラちゃんごめんなさい」

「ごめんレイラ。それで本当はどんな仕事をしているの?」

「……例えば今後販売される予定の服を皆様の前で私達が順番に着ていき、その姿を皆様に見てもらい、購入するかどうかの判断材料にしてもらいます」


 新作発表会の時に服を着るモデルさんの一人ってことか。


「でもそれがなんでお人形さんなの?」

「辺境伯のお店での販売時、畳まれている服を見てもイメージがわきにくい方の為に、あらかじめ服を着せておく人形があるんです。その人形の中には私をモデルに作られている物も多数ありますので、ローラはそれの事を言っているのだと思います」

「あぁ!人形のモデルって、辺境伯のお店に置いてあるっていうお着替え人形のこと?」

「多分それのことですね。私もその人形のモデルの1人なんです」


 なる程、その仕事でレイラも辺境伯の屋敷に呼ぶ予定だったから、辺境伯は今日を指定したのか。


「子爵やアウラ様へのご挨拶は先に済まさせていただき、ジェリド君とローラちゃんを驚かせるために馬車で待っていたんです。ジェリド君も立ったままだと危ないですよ?」


 僕は荷台から御者席の方へ移動し、レイラの右隣に腰掛けた。


「レイラは本当にこういうサプライズが好きだね?」

「そうですね。ですがジェリド君程じゃないと思います」

「僕がサプライズを企画したのは、兄さんの誕生日とその前日だけだよ?」

「あの時のソシアさん、可愛かったですよね。私、あれからサプライズが大好きになりました。つまりジェリド君のせいですよ?」

「僕のせいね……そしてリアナも今回のサプライズの共犯だったと」

《私の鼻ならレイラがどこにいるかなんて、すぐにわかっちゃうからね。昨日のうちにレイラからお願いされていたの。サプライズ大成功ね》

「はぁ……まぁ一緒に行けること自体は素直に嬉しいからもう良いよ。それより御者を代わるから、手綱を貸して?」

「私なら馴れているから大丈夫ですよ?」

「レイラにずっと御者を任せて、自分は馬車の座席にふんぞり返っているなんて出来ないよ」

「それを言うなら、私がジェリド君に御者を任せると、私は遣えるべき家の方に御者をさせる使用人。っという風に周りからは見られるのですよ?」

「それなら専属のローラが御者をするの!」

「……ローラって馬車の御者、したことあるの?」

「ないけどきっと出来ると思うの」

「ローラちゃん。今度教えてあげますから、そういうことはきちんと訓練してからにしましょうね?」

「……わかったの」


 ローラが少し落ち込んだらしく下を向く。

 何かフォローしてあげ──


「聞き分けが良いローラちゃんは大好きですよ」


 レイラがローラの頭を左手で抱き締めながら右手で撫でる。そしてリアナをローラに渡し、リアナがローラの顔を舐める。それだけでローラの機嫌は直ってしまい、スカートの中の尻尾が揺れる。


 流石レイラ。親友なだけあってローラの扱いになれている。


「リアナちゃんってとっても温かいんだよ?冬にも思ったけど湯たんぽみたいに温かいんだよ?」

《湯たんぽ!?神獣の私が湯たんぽ!?》

「ポッカポカなっ!?」

《湯たんぽなんて許さないんだから。ジェリド。ローラに訂正するように言ってやって!》

「リアナちゃんいきなりどうしたの!?尻尾が当たって痛いよ!?」


 リアナが訂正要求をしながら、ローラに尻尾ビンタを繰り返すが、ローラがそれをなにかの遊びと捉えて笑いながらじゃれ合い始める。


 リアナの声は僕にしか聞こえない。だから僕がリアナの要求をローラに伝えなければ、ローラはその事にこのままだと気付けない。


 もちろん僕に、リアナの主張をローラに伝えるつもりはない。


「ローラとリアナは相変わらず仲が良いね」

《ジェリド!?》

「私とリアナちゃんはとっても仲良しだもんね!」

《ジェリド?もしかしてさっきのこと、根に持ってるの!?》


 さっきの事ってなんだろう?よくわからないなぁ。

 リアナは現在ローラからの反撃を受け、お腹をこそぐられて悶えている。

 ローラとリアナは本当に仲が良いよね。


「じゃあローラも落ち着いたことだし、レイラ。御者を代わるよ」

「ジェリド君。私の話聞いていました?」

「もちろん。使用人が遣える家の人間に御者をさせるのは見栄えが悪いって話だったよね?」

「そうです。いくら非番とはいえ、そんな風に思われるのは嫌ですよ、私?」

「僕もレイラに御者をさせて後ろで寛いでいるなんて出来ないよ。なら僕がレイラに御者の仕方を教わりながら御者をすれば良いんじゃないかな?」


 レイラが、なに言ってるのこの人?みたいな目で僕を見る。


「実は僕もまともに御者ってしたことないんだ」

「はい?」

「馬車に乗るのは記憶にある限りこれが3回目で、初めての時は父さんと一緒に座席に座っていただけだし、2回目は【アウラ】の町からの帰りに、父さんの所に馬車を移動するのに少し手綱を握っただけで、御者の経験ってほとんど無いんだ」

「ならどうやって馬車で辺境伯の所まで行くつもりだったんですか?」

「前々から御者を付けてもらえることはラムサスさんに聞いていたから、その人に任せるつもりだったんだ」

「なるほど、そういうことですか。私もラムサスさんには、私が行くことは教えないで下さいとしか言っていませんでしたからね」

「今後のためにも馬車の操作方法はその人に教わろうと思っていたんだ。ただそれがまさかレイラだとは思わなかったけどね」

「わかりました。では馬車の操縦について簡単に一通りお教えしてから御者を一度代わります」

「なら私も一緒にレイラちゃんに教わりたい!」

「……そうですねぇ」


 レイラが言葉を濁しながら僕の方をチラチラと見てくる。レイラとしては、教えるのは構わないけど、同乗者たる僕の意見も聞いておこうということみたいだ。

 初心者運転ってちょっと怖いしね。でもそれを言うなら僕も一緒だ。ゴメンねレイラ。

 僕は苦笑しながらも、首を縦に振ってレイラに良いよと伝えた。


「わかりました。ではジェリド君の後に教えますね」

「レイラちゃんありがとう」


 それから僕とローラは、レイラに馬車の御し方について実演付きで教わり、まずは僕から御者をする事になった。

 馬には何度か騎乗経験があったこともあり、僕はすぐに馬車の御し方をマスター出来た。

 レイラの教え方も、次期メイド長候補と言われるだけあり、とてもわかりやすかった。


 レイラ本人は次期メイド長について否定しているけど、レイラのお母さんはソシアさんの前のメイド長であり、現在のハウスキーパーでもある。

 そのお母さんに小さい頃からあらゆる英才教育をレイラは受けてきたらしく、僕や大半の使用人達は、次期メイド長はレイラになるだろうと思っている。


「ありがとうレイラ。最初の休憩まで僕が御者を続けても良い?」

「そうですね。最初の休憩はロイドさんの村にされます?」

「そうだね。そこからローラに交代にしようか。ローラもそれで良い?」

「その前にちょっと寄って欲しい所があるんだ」

「「……」」


 僕は思わず言葉に詰まる。隣に座るレイラからも息をのむ音が聞こえてきた気がした。


 僕は、ローラがソシアさんに引き取られてから、収穫祭のあの日まで、屋敷の外に出たことが無かったことを、収穫祭の日にソシアさんから『あの子を屋敷外へ連れ出してくれてありがとうございます。あの子が屋敷に来てから、ブラッドリー家の敷地の外に出たのは今日が初めてなんです』と、お礼を言われたことで知っている。


 屋敷の外には街道があるだけで、その街道や屋敷の周りには森が広がり、森の中には熊もいる。だからローラは収穫祭のあの日まで、一度も屋敷の周りから出たことが無かったらしい。そしてあの収穫祭の日以降も、ローラはブラッドリー屋敷の敷地内からは出ていない。

 つまり、屋敷の外でローラが知っている場所は限られている。

 収穫祭の日にローラが行ったのは【アウラ】の町だけで、時間的にもあとは素通りしたはずだ。しかしその【アウラ】はロイドさんの村よりも辺境伯の領地寄りにある。


 他にローラがこの辺りで知っていそうな場所と言えば、それはおそらく、ブラッドリー家の屋敷に来る前から知っていた場所であり、そしてロイドさんの村の手前には、僕が意図的に避けようと思っていた場所もあった。


「良いけど……ローラはどこに寄りたいの?」

「ロイドさんの村の手前にある、第6開拓村に寄って欲しいの」

「ローラちゃん……その村は」

「……その村って、昔ローラが暮らしていた……」

「そうなの。そこにお父さんのお墓があるはずだから、お父さんに挨拶してからいきたいの」

「……ローラちゃんは大丈夫なんですか?今まで一度も帰ったことなんて無いはずですよね?」

「ジェリド君もレイラちゃんもいるからきっと大丈夫なの。それに今日行かないと、もしかしたら一生お父さんに『私を助けてくれてありがとう』って、お礼を言えなくなっちゃうかもしれないの」

「……そうだね。ローラが良いならそこでローラのお父さんのお墓参りをしてから行こうか」


 第6開拓村。そこはローラが昔お父さんと暮らしていた村。そしてローラのお父さんが、ローラを助けるためにローラの目の前で熊に襲われた村だった。

お久しぶりです。

約1ヶ月休載させていただきましたが、またこれからどんどん書いていこうと思います。


次話を書くのは日曜日の予定ですので、多少変わるかも知れませんが、次回はこんな感じの内容にする予定です。


【次回予告】

次回、ジェリド達一行はローラのお父さんのお墓参りの為、第6開拓村へと立ち寄ります。

お墓参りの最中、ジェリド達の前にとある人物が現れ、ローラのお父さんの当時の願いを知ることになります。

そしてジェリドは、ローラのお父さんのお墓の前で誓いをたてます。その誓いの内容とは?そして現れた人物とは誰なのか?


次回【誓い】をお楽しみ下さい。

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