第26話 手合わせの真相
26話です
戦闘シーンって本当に難しいです(>_<)ヽ
……僕はいったい何をしたんだ?
「ジェリド様、もしや覚えていらっしゃらないのですか?」
「はい。僕が覚えているのは、僕の槍の矛先をラムサスさんに折られて、その後ラムサスさんが突きを放った所までです」
「……とにかくまずは、魔力の流れを確認させてもらいます」
ソシアさんが両手を僕に向けて目を瞑る。
「ソシア、すまないがジェリドが大丈夫そうならラムサスも診てやってくれ」
「……はい、わかりました旦那様。
ジェリド様の魔力自体は落ち着いているようです」
ソシアさんは、父さんに振り返ってそう言うと立ち上がり、途中何度も僕の方を真剣な表情で振り返りながらも、父さんとラムサスさんの方に小走りで駆けていった。
2人の元に着いてすぐ、ソシアさんは父さんになにかを言ってから、ラムサスさんの体を診始めた。
ラムサスさんは口から少量の血を流し、目を閉じたまま動かない。どうやら気絶しているようだ。
「魔力も体も大丈夫ってことだけど、本当に覚えてないの?」
「はい……いったい何があったんですか?」
「……ごめんね。僕は部屋で燭台を弄ってたからよく知らないんだ」
兄さんがラムサスさんの方を見たので、吊られて僕もそちらを見ると、ちょうどラムサスさんも目を覚ましたところのようだ。
ラムサスさんは僕と目が合うと、凶悪な表情でニヤリと笑い、父さんに何事かを話して立ち上がり、何も持っていなかったはずのラムサスさんの手には、突如槍が現れる。
父さんとソシアさんが慌てて止めに入り、ラムサスさんは非常に残念そうにしながらも、また父さんに何事かを言って頭を下げて腰を下ろした。
「ラムサスさんもなんとか大丈夫そうだね。来た時には2人とも気絶していたから心配したけど、2人共無事で良かった。じゃあ僕は燭台に火を付けたまま来てしまったからもう行くけど、訓練も程々にね?」
「はい、ありがとうございます兄さん」
兄さんは、燭台の火を消すのを忘れて来てしまうほど僕らを心配してくれたのか。
最近少し兄さんが恐かったから、もしかしたら僕、兄さんに嫌われてるのかな? って思い始めていたところだったので、ちょっと嬉しかった。
《ブラコンなの?》
「ブラコンでもシスコンでもないからね?」
《シスコンは聞いてないんだけど?》
「……」
《それはそうとさっきの手合わせ、私を通して見れるんじゃない?》
「……リアナって思ったより頭良いね」
《思ったよりってなによ!?》
「まぁまぁ、良いから映像観せてよ」
《良くないからね? 私をなんだと思ってるのよ?》
「以心伝心の大切なパートナー」
《……よくわかってるじゃない? ジェリドがそういうなら見せてあげるわん》
リアナは尻尾をぶんぶん振りながら映像を送ってくれた。
……あっ来た来た。映像は流れているのに音がないというのは変な感じだな……
リアナから送られてきた映像は、僕の槍の矛先が折られる所から始まった。
リアナは、僕とラムサスさんをほぼ真横から見ていたらしく、とても見やすかった。
構図は僕が左でラムサスさんが右だ。
槍の矛先を折られた僕は、諦めた様な表情になる。
ラムサスさんが僕に話しかけるが、僕の表情はふてくされた様な表情になるだけだった。
こうして自分を振り返るとその態度は最悪だった。
ラムサスさんには悪いことをしたな……これにはラムサスさんも呆れてしまっていたのかもしれない。
そしてラムサスさんは、無言で槍を腰ダメに構えて槍を引き、突きを放った。
……ここまでは記憶通りだったが、ここから先は気絶してしまい記憶にない。
僕は自分の槍を縦に構えてラムサスさんの十文字槍の横に伸びた刃の部分に槍を当て、槍の威力を多少殺すことには成功したが、それでも槍は止まらずに、僕の左胸の辺りに槍の直撃を受けて吹き飛ばされ、受け身も取れずに地面に落ちた。
倒れた僕は動かない。
ここまではほぼ予想通りだったが、このまま終われば先程の状況とは食い違う。
槍を受けた僕は、しばらくすると何事も無かったかのようにスクッと起き上がって槍を捨て、代わりに右手には白銀の刀身を持つ剣がいつの間にか握られていた。
画面が僕から右方向に外れ、ラムサスさんと父さんを映した。
父さんは驚きつつも喜んでいるようだった。
ラムサスさんも極悪な表情になり、声こそ聞こえないが間違いなく『ハーハッハッハー』みたいな笑い方で、声を出して笑っているということだけはわかった。
画面が僕に戻ると、僕は無表情で立ち尽くしていた。
さっきはあまり良く剣までは見られなかったけど、画面が戻り、先程の白銀の刀身を持つ剣をもう一度見た時、僕の胸は高鳴りそして理解した。
あれは僕の剣、月虹だ!
白銀の刀身に白い持ち手、刀身はやや短く、60㎝くらいしかない少し小さな両刃の剣で、厚みも殆ど無く、一見貧弱に見える剣。
僕の知る剣というものは、一部の例外を除けば基本、叩き切る物であり、長さにかなり幅こそあるが、基本的には折れないように刀身は太く、そこそこ厚い物だ。
なのに僕の剣は、短く、細く、どこまでも薄い。
槍どころか剣と打ち合っただけでも一合で折れてしまいそうなその剣。
でも僕は、この剣が絶対折れないと見た瞬間に確信した。
この剣は絶対に折れず、曲がらず、刃こぼれすらしない、彼からもらった僕の剣で……。
……彼? ……彼って誰だ? 僕は誰からこの剣を貰ったんだ? そもそもなぜ僕はこの剣の名……
僕が動いた! 正に目にも止まらぬ速さと言えたが、流石はリアナだ。僕の動きを完全に捉えている……のだが、速すぎてこの映像少し気持ち悪い、そのうえ頭に直接流れるから目を背ける事すら出来ない。
ラムサスさんもしっかり僕の動きに反応して動いているが、最早人間の動きじゃない。
《観るのやめる?》
「ありがとうリアナ。大丈夫だからそのまま観せて」
僕はそのままラムサスさんに真っ直ぐ接近を試みるが、ラムサスさんは、以前見た父さんの槍にも迫る程の速度で連続突きを繰り返し放ち、僕が剣の間合いまで入る事を許さないように後退しながら槍を放つ。
僕は全ての突きを体捌きでかわすか、剣で逸らすかしながら接近を試みる。
ラムサスさんの槍の軌道が、僕が剣を持つ右側では無く、僕から見て左側に多くなり始めるが、僕はあまり気にしていないかのように捌いていく。それにしびれを切らしたように、ラムサスさんが突きのモーションから、左下から右上への逆袈裟に変化させた切り上げを放った。
しかし今までに比べると少し大振りだ。
僕はその切り上げを、しゃがみ込むようにして回避し、再度飛び込もうとするが、ラムサスさんは槍を肘と腰で挟み、強引に腰を左に回すことにより槍を戻し、今度は僕の首の辺りを狙う。
僕はもう一度しゃがみ込んで槍をかわした。ラムサスさんの体と槍は左に流れていて、槍を振れるような体勢ではない。
今度こそ僕は迷わず胸元に飛び込む、ラムサスさんは対応できない……はずだったが、ラムサスさんは自分の槍を左手の掌で叩くことで、また槍を強引に変化させて横凪に僕を狙う。僕は既に飛び込んでおり、今度ばかりは回避も槍を反らすこともできず、かろうじて剣を盾にする事で、槍の直撃だけは防いだものの、僕の体は3m程吹き飛ばされた。
普通槍を剣でこんな受け方をすれば、剣は折れてしまうものだが、僕の剣は僕が思った通り、あんなに細い刀身にもかかわらず、折れるどころか刃こぼれすらしていない。
僕は着地と同時にラムサスさんに再度突撃し、ラムサスさんはまた突きを放ちながら先程の倍以上の速度で後退していく。
僕とラムサスさんはリアナから離れ始めたが、リアナが走って追いかけてくれたおかげで、僕らの攻防は継続して観られる……が、今度は上下に揺れて気持ち悪い。
そして視界に一瞬入った父さんも、走って僕らを追いかけている。
気持ち悪いのを我慢しながら観ていると、ラムサスさんは突きを放ちながら、後方にあった木の方へ大きく跳ぶと同時、持っていた槍を僕の方へ投擲した。
僕はその槍を、スライディングで避けたが、その間にラムサスさんを見失ってしまったようでキョロキョロしている。
斜め後方から見ていたリアナは、ラムサスさんが後方に跳んだ後、木を蹴って上に跳んだのを見ており、僕とラムサスさんを交互に見ていたので、ラムサスさんの位置を捉えていた。
ラムサスさんは木を飛び移り、大きな木の枝の上に隠れて下にいる僕の様子を窺っていた。
僕は剣を正眼に構えて動きを止める。すると、白銀の淡い光を放っていた僕の剣の刀身が、一瞬白銀色に輝やき、その後徐々に黄色く染まっていった。
ラムサスさんはその光景を目にして、終始極悪人顔だった表情に、恐怖の色が混ざる。
しかしそれも一瞬のこと、ラムサスさんは首を勢いよく左右に振り、それを止めた時にはいつも以上に口角を吊り上げた極悪人顔に戻っていた。
ラムサスさんは目の前にあった団栗のような木の実をもぎ取ると、僕の後方にある木に向かって投げた。
そして、投げると同時にラムサスさんも飛び降りる。
落下の最中のラムサスさんの手の中に、突如として槍が現れそれを手に握る。
ラムサスさんは木の上から落下の力を乗せた叩きつけを狙っているらしく、槍を頭の後ろまで振りかぶった状態で落ちてくる。
僕は、木の実が当たる音は無視し、まるで既にラムサスさんが上に居たことを知っていたかのように、すぐさま空を見上げたが、すでにラムサスさんは渾身の叩き付けを僕に向けて振り下ろそうとしていた。
それに対して僕は、左に上半身と左足だけを高速で動かして左に跳ぶように見せかけ、それにラムサスさんが反応した瞬間、右に跳んでラムサスさんの叩き付けから逃れた。
ラムサスさんは、槍を地面に当てた反動を利用して逆袈裟に僕を狙うが、僕はそれを読んでいたかのように、またしゃがみこんでラムサスさんの槍をかわした。
今度は僕の番とばかりに胸元に飛び込もうとするが、ラムサスさんの左手には、いつの間にかナイフが握られており、僕の突撃に対してカウンター気味にナイフを投げ、僕の体制を崩させた。そしてその間にラムサスさんは槍を肘と腰で挟み、腰を強引に回転させることで横凪の1撃を放つ。
間合いが無いうえ、体勢も崩しているため回避は出来ないし、剣を盾にすれば先程の焼き直しだ。
だが僕は、今度は先程とは違い崩れた体制から剣を逆袈裟に振って槍を迎撃した。
槍の柄の部分と剣の刀身がぶつかる。
ラムサスさんの槍は、確認こそ出来ていないがおそらくこちらの槍も鉄製だ。
それに対してこちらは剣の中でも異様に刀身の細い剣。
この2つが真っ向から打ち合えば、間違いなく槍が勝つ……はずだったが、今回勝ったのは僕の剣の方だった。
剣と槍が触れた瞬間、僕もラムサスさんも、まるで素振りでもしていたかのように、何の抵抗も感じさせることなく剣と槍を振り抜き、切られて短くなったラムサスさんの槍が飛ぶ。そして事前にそうなることを知っていたかのように、僕はラムサスさんの懐に飛び込み、今度こそラムサスさんの懐を取ることに成功した。
ラムサスさんは一瞬驚愕の表情を浮かべながらも槍を手放し、一瞬で懐に入り込んだ僕の顔目掛けて右の拳を放つ。
僕はその拳を左手で体の外側に受け流しながら胴を剣で水平に一線。ラムサスさんの防具を真っ二つに切り裂いた。
僕は映像を見ながら、これで決まったと思ったけど、映像の中のラムサスさんと僕は、これでは止まらなかった。
ラムサスさんは、僕の顎目掛けて前に出されていた左足で膝蹴りを放ち、僕は剣の柄の部分を垂直に落としてその膝を迎撃しながら、更にラムサスさんの鳩尾に、左の拳を叩き込んだ。
ラムサスさんの体がくの字に曲がり、頭の位置が下がった瞬間、僕はお返しとばかりに左の膝を顎に叩き込んだ。そしてラムサスさんが怯んだ隙に側面に回り込み、もの凄い勢いで後頭部に強烈な回し蹴りを放ち、ラムサスさんを蹴り飛ばす。
ラムサスさんは僕に蹴られる瞬間、その事を察知して前方に跳んで威力を逃した。
その事もあり、ラムサスさんは数メートル飛んでから前のめりに頭から地面に激突し、それでも止まらずに、体が2回転してからようやく止まった。
画面が左に移り父さんを映し出す。
父さんがなにかを言っているが、僕は剣を正眼に構える。
既にラムサスさんは気絶している。これ以上はやりすぎだ!!
父さんの手に突如として槍が現れ、リアナの視点はどんどん高くなりながら僕の方に近づき始める。
父さんの動きが止まった。そして、風に流されていた落ち葉も止まる。
……まるで時間が止まったかのような光景の中、リアナだけが走り出す。
……違う。動いているのはリアナだけじゃない。
僕も静止したままではあるけれど、今視線がリアナと合い、何かを言ってから視線を手元の剣に戻した。
そして僕の剣が元の白銀色に薄く、弱くだが光輝き始めた。
……僕はこんな場面に不謹慎だとは思ったが、とても綺麗だと思いながらその光景を眺めてしまった。
刀身が元の白銀色に完全に戻ると、剣の姿は徐々に薄れていき最後には消えてしまった。
リアナが僕の下に着くと同時に、落ち葉や草木が風に吹かれて動き出し、僕もそれと同時に倒れ込み、大きくなったリアナが僕を受け止める。
リアナは父さんの方を振り向くと動きを止めた。
父さんがなにかをリアナに言い、リアナが頭を縦にふると、父さんは槍を消してラムサスさんの下に行く。
ここで映像は終了した。
《こんな感じよ?》
「……これ……本当に僕がやった事なの?」
《たぶん観られたのならそうだと思うわよ? 考えてる内容も一致してるし》
「……」
僕は立ち上がり、ソシアさんによって、頭に包帯を巻かれようとしているラムサスさんのそばに歩いて行き、ラムサスさんに頭を下げようとした。
「ラムサスさん。ラムサスさんをこんな目に合わせてしまい、ご……」
ラムサスさんの大きな手が僕の前に翳されて、言葉と頭を下げようとした動作を止められる。
「久し振りに楽しい勝負が出来ました。今回は私の完敗でしたが、次回は私も霊槍でお相手させて頂こうと思いますので、簡単には負けませんよ? そして勝者が敗者に謝罪するのは、敗者にとってなによりの屈辱です。今回は私が負けてジェリド様が勝った。それだけのことです。私と戦ったときのジェリド様の魔力は、完璧に制御されていました。意識を失われている事には途中で気付きましたが、私はジェリド様がその絶大な魔力を纏い、洗練された動きで私と闘うその姿に喜びを感じて戦い続けましたので、怪我に関しては自業自得です。それに私も遠縁とはいえ、レッドリバー家の親戚筋です。レッドリバーの親戚筋の中では凡才ですが、常人とは比べ物にならないくらいに丈夫で、回復も早いですから大丈夫です」
「その事については、今私もソシアから怒られた所だ。すまなかったジェリド、ラムサスが言ったように、魔力自体は完璧に制御されていたので大丈夫だと思い、2人の戦闘を見続けてしまった。……いや、途中でおかしいとは思ったのに、お前の実力を見たくてラムサスが気を失うまで止めなかったんだ。2人ともすまなかった」
父さんが頭を下げたので、僕とラムサスさんが大丈夫ですと言って頭を上げてもらおうとしたが、ソシアさんが父さんに追い討ちをかけた。
「まったくです! ジェリド様が手加減していなければラムサスはおそらく死んでいます。ジェリド様は意識を失いながらも魔力は制御していたということですが、あんな莫大な魔力が暴走していたら、ジェリド様を含めて全員死んでいたかも知れません。リアナ様もです!」
僕の横にいたリアナがビクッと反応して目をパチパチさせる。
《えっ!? なんで私が怒られるの? おかしくない!?》
(わからないけどお願いだから今は黙って聞いてて!)
思わぬ所で思念波? を僕から飛ばせるようになったことが功を奏した。
内緒話が出来るおかげで、リアナがソシアさんに何かしらの反応を見せる前に止められた。
リアナからは苦情の思念波がどんどん来ている。
ソシアさんがラムサスさんの包帯を巻き終わるとリアナに振り返る。それに対してリアナは
《聞いてやろうじゃない》
と、わざわざ僕に思念波を送りながらお座りの体勢になる。
ふんぞり返って聞くような言い方をしながらお座りって……礼儀正しいというかなんというか……
「リアナ様ならジェリド様がおかしいと感じた時、すぐにでも止められたはずです! 何故すぐに止めていただけなかったのですか!? それとも時を司る最速の神獣というのは、まだ子供のジェリド様も止められないのですか!?」
リアナは一瞬で顔を逸らし、僕へ送られていた抗議の思念波も止まった。
そう言えば、落ち葉や父さんが止まった中で、リアナと僕だけ動いていたけど、時を司るってあの力の事なのかな?
落ち葉や父さんが止まった後、なぜかリアナの速度も落ちた気がしたけど……あれ? ……それよりなんで僕まで動いていたんだ?
ソシアさんの全員に対する怒りの説教は、それから5分ほど続き、その後我に返ったソシアさんは、僕と父さんとリアナに土下座で謝罪した。だが僕らは全員、むしろこちらが本当にごめんなさいと謝り返した。
次回更新は3/8の07:00【嫉妬】をお楽しみください。