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俺はいったい何者だ? 記憶喪失からの成り上がり  作者: どんちゃん
第一章・現状把握とブラッドリー子爵領
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第25話 ラムサスさんとの手合わせ

 25話です。

 戦闘シーンを期待して下さっていた方、お待たせいたしました。私にとっての課題の1つである戦闘シーンスタートです。

「ではお前に合いそうな槍の型をいくつか見せよう」

「はい! お願いします。ですがもし良ければその前に、ラムサスさんに僕が真似ようとした型を、もう一度実演してもらえないでしょうか?」

「……ラムサス、頼んでも良いか?」

「その程度のこと、無論構いません」


 ラムサスさんの型を見せてもらい、その違いを痛感させてもらった。

 その後、父さんに槍の型をいくつか見せてもらい、それらを真似てみると、ラムサスさんの型とは比べものにならないくらい簡単に出来た。

 やはり僕は、父さんの言うように旧エルガンド帝国の型を習っていたのかもしれない。


 父さんに見せてもらった槍の型を、一通り終えてから父さんの方を振り返ると、ラムサスさんが口角を釣り上げて小さな鎧を持ちながらこちらを見ていた。


「ジェリド、そろそろラムサスと打ち合ってみるか? ラムサスが持っている鎧を着れば、魔力の籠もっていない攻撃からは、身を守ってくれる。もっとも、衝撃はそのまま伝わってしまうがな」

「……鎧に覆われていない所を攻撃されたら、死んじゃいますよね?」

「それも大丈夫だ。この鎧は装着者の魔力を自動的に吸収し、結界を張ってくれる」

「鎧に蓄える魔力は、私が限界まで注ぎ込みましたので、当分は吸収される事もないと思われます」

「ラムサスがお前とやる為に、地道に魔力を注ぎ続けていたのを見たときは笑ってしまったが、おかげで数発くらいならくらっても、鎧に魔力を吸われることはないはずだ。これならジェリドの中のリリアーナ殿の魔力が暴走する心配もないだろう」


 僕は心の中で膝を着いてうなだれる。

 ……ラムサスさんとやらないという選択肢が、ついになくなった。


「わかりました。どこまでやれるかはわかりませんが、やれる所までやらせてもらいます」

「あぁ、期待している。ラムサスも鎧は着けておきなさい」


 僕は覚悟を決め、鎧を着けて槍を持ち、ラムサスさんと対峙した。

 しかし僕には確信があった。

 先程父さんに教えてもらった型でラムサスさんと槍を撃ち合えば、確実に僕は負ける。


「ではジェリド、好きなタイミングで始めていいぞ? ラムサスもそれで良いな?」

「わかりました」

「もちろんです旦那様」


 キィンッ


 ラムサスさんが父さんの方に視線を向けた瞬間、僕はラムサスさんに突きを放った。だが、予想通り僕の槍はラムサスさんの槍によって軽く弾かれる。

 ……そう、予想はしていたんだ。むしろ当たらないと思っていたからこそ、ラムサスさんに不意の一撃を放ったのだから。

 僕が弾かれた槍を戻そうとした時には、既にラムサスさんが槍を構えていた。


「相手が油断している隙を見逃さない。それ自体は良い判断です」


 ガギンッ……ズザザァー


 僕の槍が戻るタイミングを見計らい、ラムサスさんは槍による横凪の一撃を放った。

 僕はかろうじて槍を縦にして防いだが、受けきれずに2m程吹き飛ばされた。


「飛ばされても着地の時には体勢を立て直し、瞬時に槍を構えたことは賞賛します。ですが」


 ラムサスさんが僕に連続で突きを放つ。

 僕はそれをなんとかかわしながら、ラムサスさんが3回突く間に2回程度突きを放ち、左右後方に下がりながら応戦する。……しかし間合いは徐々に詰められていき、手数も防御に回されて更に減り、避ける方向もどんどん限定されていく。このままでは、横凪の攻撃で吹き飛ばされる。


 ──パキンッ──


 ダメ元でラムサスさんの胸元めがけて放った僕の突きに対し、ラムサスさんはそれを放つ直前に、僕から見て左後方にバックステップしながら槍を縦に振りぬいた。

 僕の突きはラムサスさんに読まれた上、槍の矛先をラムサスさんの槍に叩かれ、呆気なく折られてしまった。


「やはりジェリド様にはまだ、生身で槍を扱うのに必要なだけの筋力が足りておりません」


 ……ラムサスさんに言われなくてもわかっていた。


 僕はラムサスさんの型を一度真似、気付いたことが2つあった。


 1つ目は、ラムサスさんの動きを真似た時の僕の動きは、ラムサスさんよりの動きより、槍の速度も体捌きも遅かったということ。


 2つ目は、ラムサスさんの型は、突きを主体にした物ではなく、突きはあくまでも相手の回避する方向を限定・誘導し、そこに横凪の一撃や叩きつけを打ち込む為の布石にしか過ぎないということ。


 その後、僕が父さんに教えて貰ったのは、前後左右に細かく動きながら突きを主体に戦う、速度重視のスタイルだが、その速度においてラムサスさんに負けている。

 

 ラムサスさんに折られた僕の槍は、堅い材質の木を使い、更に漆を塗って強度を高めた物で、重さは3㎏前後。

 それに対してラムサスさんの槍は、恐らく鉄で出来ている。


 ちょうど今日、ロイさんの村で見せて貰った水門の設計図に書かれた計算が正しければ、鉄の比重は7.85t/㎥。

 ラムサスさんの槍の太さは3㎝前後で、槍の柄の長さは約2mの十文字槍。

 刀身の重さは分からないので、そこは考えずに、槍の柄の部分の重さだけを考えてみても。


 0.015×0.015×3.14×2×7.85=0.01109t≒11.1㎏


 つまり刀身を除いても約11㎏もあり、刀身まで入れたら12㎏くらいあるかもしれない。


 その重たい槍を持ちながら、僕より速く動き、僕より速く突き、更に動きに無駄がなく槍の精度でも負けているのだから、勝てる理由が見当たらない。


「……簡単に諦めるのですね? 旦那様はアウル様に、何度絶望的な力の差を見せつけられても、その瞳はギラギラと好戦的に輝いました。今私に勝てないのは仕方がありませんが、すぐに勝つことを諦めるとは……少々見込み違いでしたか……では、一槍入れて終わりと致しましょう」


 ラムサスさんが無表情で槍を腰ダメに構え直し、槍を少し後ろに引く。

 元々実力の差が有りすぎたんだ。

 勝てる訳がなかったんだ。

 体格が全然違うし修練して来た月日が違う。

 それに僕が教えてもらった槍の型はスピード重視の型なのに、スピードで劣る僕が勝てる訳がないじゃないか

 今まで見た中で、1番速いラムサスさんの突きが放たれた。



 ▽



 僕は見覚えのない森にいた。

 槍を構えた背の高い人がいるが、顔はわからない。

 

『こんなの勝てる訳ないよ!』

 僕の口が勝手に動きそのような事を言うが、その声は幼い。

『まだそんな事言ってんのか? さっき俺が手本見せただろ?』


 背は……140㎝くらいかな? 僕の視点も下がっていてよくわからないけど、肩より下まで伸びたストレートヘアの細身の……女の子? のような髪型に体型の人にそんなことをいわれた。

 ……口調からは少年のような気もするが、声からはどちらか判断できず、こちらも顔がわからない。

 どうやらここには、僕ら3人しかいないようだ。


『君は特別だよ。素人相手ならともかく、修練を積んだ槍使いに対して、普通の人は剣で勝てる訳がないんだ。それに大人と子供のハンデまであるんだよ? 体が違いすぎるよ』


 ……あの槍を持った人と、剣の修練の最中なのかな? 


『……お前、自分が普通の人なんてよく言えたな?』

『……それはそれ、これはこれってお姉ちゃんが……』

『……シスコン』

『……違うよ?』

『説得力ねぇなぁ……。あとお前は毎回ごちゃごちゃ考えすぎだ。お前の身体で実演してやるからこっちに来い』


 この子は話し終わると同時に僕の腕を掴む。


『……僕の身体で?』

『お前に降霊術の応用で憑依して、お前の身体でやってやるよ。武術は身体で覚える物だ。俺の動きをちゃんと覚えとけよ?』

『……僕、キルヒアイゼン様の家系じゃないからそんな事出来ないよ?』

『俺がやるから関係ねぇよ』

『ちょっ……引っ張らないでよ!? 心の準備が!!』


 僕はこの子に腕を引かれたまま、大きな木の下まで歩いて行く。

 準備が出来ていない様なことを言っているのに、体は一切抵抗しようとしていない。


『じゃあ憑依するけどちゃんと見てろよ?』

『人の話を聞いてよ!?』

『知らねぇよ。聖剣持ちとして心も鍛えろ』


 聖剣持ちってなんだ? 


『憑依出来ましたら教えて下さい。今度は全力でいきます』

『憑依完了だな。もう良いぜ?』

『では参ります』

《参らないでっ!!》



 ▽



「ジェリド様っ! 起きて下さいジェリド様っ!」


 僕の身体が揺すられ、その不快さから目を覚ます。

 目の前にはソシアさんが切羽詰まった顔でいて、僕のお腹の上にはリアナが、兄さんもソシアさんの後ろから僕の顔をのぞき込んでいる。


《ジェリドッ大丈夫!? 痛いところはない!?》

「ジェリド様!? 目は覚めましたか!? 身体に異常はございませんか!?」

「……ソシアさん? それに兄さんまで……どうされたんですか?」


 気付けば僕は地面に寝ていたらしい。

 ソシアさんが僕の背中に手を回し、上体を起こしてくれている。


「ジェリド、それよりまず自分の身体に異常はないかをまず教えて?」


 兄さんが変なことを言う。リアナにも痛いところがないかを聞かれた。

 異常がないか? ……言われてみれば、少しダルくて頭がボーッとするくらいかな? 

 なんというか、半端に寝て起きたような感じだ。


《……良かった。思ったより全然大丈夫そうね》

「身体が少しダルくて頭も少しだけボーッとしていますが、異常という程の物ではないです」


 兄さんとソシアさんがホッとしたような表情になる。

 リアナも表情こそわからないけど、声から安堵したように感じられた。

 どうしたんだろう? ……そう言えばなぜ僕はここで寝ているんだ? 

 寝る前は……そうか、僕はラムサスさんの横凪の一撃をくらって気絶していたのか。

 それで皆が心配してきてくれたんだ。

 鎧はなんともなっていない。気絶はしたものの、怪我もたぶんしていない。

 用意してくれたラムサスさんには、感謝しないといけないな。

 それはそうと、つまりさっきのは、気絶している間に見た夢だったってことなのかな? 

 もしかしたら、あれが走馬灯って奴なのかな? 

 もしそうなら、あれは僕の過去の記憶? 


「ジェリド様! 魔力は使わないで下さいとお願いしたじゃないですか!? なぜ使われたのてすか!?」


 ……魔力? ……何のこと? 

 言われた意味がよくわからない。


「どういうことですか? 魔力? 僕はラムサスさんの一撃をくらって気絶していたんですよね?」


 全員が顔を見合わせる。

 

「ラムサスさんならジェリドにやられて、あそこに倒れてるよ?」


 僕にやられて倒れてる? ……兄さんはなにを言ってるんだろう? 

 兄さんはそう言いながら、僕から見て左前方、ソシアさんの陰に隠れた方向を指差した。

 ソシアさんが体をズラしてくれたのでそちらを見ると、僕がソシアさんにされているように、父さんに上体を抱き起こされたラムサスさんが、10mくらい離れた所にいた。

 


 僕から2mほど離れた位置には、短くなったラムサスさんの槍が転がっている。

 なぜラムサスさんまで倒れているんだ? 

 そしてなぜラムサスさんの槍が短くなっているんだ? ……元々別れる構造だったのか? それとも……。

 ……兄さんはさっき、ラムサスさんが僕にやられて倒れてるって言っていたけど、僕には僕がラムサスさんにやられる所までしか記憶にない。

 ……いや、正確にはやられると思った所までしか記憶にない。

 そもそも、先程までは庭にいたのに、なぜ僕らは森の中にいるんだ? 


 ……僕はいったい何をしたんだ? 

 今回の戦闘シーンは2話仕立てです。



 次回予告

 次回はジェリド君が気絶している間に何があったのか?ジェリド君ならではの方法でその真相が明らかになります。

 はたして、その方法とは?そしてジェリド君の実力は?



 次回【手合わせの真相】をお楽しみください。


 次回更新は3/4の10:00を予定しております。

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