第23話 仙人現る!?
23話です。
皆様のおかげで、日間ジャンル別ランキング3日連続1位を獲得し本日も2位をいただきました。
日間総合ランキングも1位1位2位3位ときております。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
《私の為に使うのが勿体ないってどういう事よ!!》
1m以上離れているはずのリアナが、僕の心を読んで怒ってきた。
触れていないと心を読めないはずなのになんで? と思い、心の中でリアナに呼び掛けてみた。
(リアナもしかして聞こえてる?)
《聞こえてるわよ!だから私に使うのが勿体ないってどういう事よ!!》
(なんで聞こえてるの?)
《……今更なに言ってるの? 心の声なんていつも聞こえてたじゃない?》
(触れてなくても?)
《……なんで聞こえるの?》
(僕が聞いているんだけど?)
《……パワーアップ?》
「触れてなくても読まれるの!? イヤだよ!?」
《イヤってなによ!?》
「プライバシーが無くなる」
《良いんじゃない? 聞こえるのは私だけなんだし今更よ?》
確かにそうだけど完全に筒抜けになるのは嫌だな……。
《今何か考えてる?》
「考えてたよ?」
《聞こえなかったよ?》
「なんで?」
《……私に関係ないことをなにか考えてみて?》
リアナに関係ないことか……そうだな……この燭台って本当に便利だよね?
もしこれがなかったら、真夜中に火打ち石をカチカチ五月蝿く叩く事になるから、多分火はつけられなかっただろうな……
僕の兄さんはやっぱり凄い!
《聞こえないから、多分思念波覚えたんじゃない?》
「練習もなにもなく、いきなり使えるようになるもんなの?」
《私は最初から使えたよ?》
「なら喋りたいと思ったことだけ伝わるの?」
《……そんな感じかな? 厳密には相手のことを考えながら、多少の魔力を込めて話しかける感じだけど……》
「魔力込めてるつもりはないんだけど?」
《私も魔力込めなくてもジェリドには伝わるようになってるから、多分テイムの影響かな?》
「なんで今更?」
《血を舐めたから結びつきが強くなったんじゃない?》
「そんなことで強くなるの?」
《私が知ってると思う?》
リアナは僕に触れていたら僕の考えが読めたから、逆も出来るようになるのかな?
リアナを抱き上げてみる。
「……今なにか考えてる?」
《ジェリドに頭の中を読まれてるのかな? って、逆にジェリドの思考を読んでるけど、ジェリドは読めてないみたいね?》
「……読めないね」
《なんでちょっと残念そうなの?》
「やっぱり不公平だなと思って」
《女の子の頭を読もうなんてセクハラよ?》
「それはもう良いから。じゃあ読ませようとしてみてくれる?」
《わかったわ》
映像? ……リアナが見た風景かな? ……画面が少し暗い。
うわ!? いきなり天地が逆さまに!? 持ち上げられた!? 目の前にいるのはローラか? ローラに尻尾をもたれ……ローラが尻尾を噛んだ!? ……って
なんでローラは服を着てないんだ!?
《あっ送れたみたいね?
『リアナちゃんのモフモフを全身で堪能しちゃうよ』って言って服脱いでたよ》
「それを僕に見せないでよ!?」
《まぁローラだし良いんじゃない? 私の尻尾を噛んだ罰よ!!》
「それ僕が良くないよ!?」
《それよりもう血はついてないと思うけど、確認するんでしょ?》
「そうだったね……リアナ、一度床に降りて尻尾見せて?」
《はいどうぞ。尻尾の傷痕もちゃんと綺麗に治ってるか一応確認してね?》
「はいはい」
燭台の火を少し近付けて確認したが、血の痕どころか傷口も既になかった。
「もう大丈夫みたいだね」
《なら早く一緒に寝よ》
「ローラの所には行かなくて良いの?」
《ローラとなんて、もう二度と一緒に寝てあげない!!》
「寝ぼけてやったことだろうし、許してあげたら?」
《……お皿の件が無ければ、ローラはお父さんと再会してたと思うわよ?》
「……ある意味タイミング良かったんだね。寝ぼけてただけで、悪気があった訳じゃ無いだろうから許してあげてね?」
《もう舐めてあげないし、一緒になんて絶対寝てあげないけど、たまに私に触るくらいなら許してあげる》
リアナの対応が思っていたよりは大人の対応だったので少し嬉しかった。
もう二度と触らせない。くらいは言うかと思ったけど、なんだかんだ言って、かなりローラを気に入っているみたいだ。
ご褒美ってわけじゃないけど、今日はいっぱい甘やかしてあげよう。
「リアナ……じゃあ一緒に寝ようか?
今日は眠くなるまでモフモフしてあげるよ?」
《本当に!? じゃあ首の後ろからお願いねん》
「首の後ろ好きだよね?」
《だって気持ち良いんだもん。あと今日は噛まれて可哀想な私の尻尾も優しく撫でてね? 握っちゃダメだよ?》
「握るのはダメなんだ?」
《握られるとビクってなっちゃうからヤダ》
「そうなんだ? じゃあ眠くなるまでね」
《わぁい》
▽
コンコンコンコン
……あれ? 明るい……もう朝なのかな?
「ジェリド様まだ寝てるの? 入って良い? 返事がなかったら入るよ?」
「あぁごめんね、ローラ入って良いよ?」
「はぁい。じゃあ失礼します」
ローラが一礼して、ワゴンを押しながら入ってくる。
ワゴンには、着替えとコップと木のお皿と水の入った容器が置かれていた。
そう言えばローラも成長したなぁ。
最初はノック無しでドアを開けられ、次はノックと同時に返事も聞かずにドアを開けていたのに、今日はちゃんとこちらの反応を確認してから開けてくれた。
……あれ? よく考えれば当然のことだよね?
当然のことなのに感動してしまった……。
「あっ! リアナちゃんやっぱりここにいた! 一緒に寝てたのに起きたら居なくて寒かったんだよ?」
リアナはまだ寝ているようで聞いていない。
リアナを毛布代わりに使おうとしたからだよね?
……リアナの記憶越しにでも、裸を見たことがバレると困るので口には出さない。
「おはようローラ……変なことを聞くようだけど、もしかして昨日、お肉を食べる夢とか見なかった?」
「ジェリド様よくわかったね? この間のパーティーの夢見て色々食べたよ? 夜中に起きたときには食感まで残っていて幸せだったのに、リアナちゃんが居なくなってて寂しかったよ」
……多分その残っていた食感とやらは、リアナの尻尾なんだろうな。
「それはそうと、その木のお皿はリアナ用?」
「そうだよ? 実は合計3皿作ってあったんだ。こっちはこの部屋用だよ」
リアナが喜ぶと思ったので、僕はリアナを起こすことにした。
リアナは昨日尻尾に噛みついてきたローラが居たからか、起きてすぐ一瞬警戒したようにローラを睨みながら尻尾を逆立てたけど、ローラが昨日とはまた別の木のお皿を持って笑顔で立っているのを見て、徐々に尻尾が垂れていった。
「リアナちゃんはちょっと待っててね? 先にジェリド様の水を入れるから」
そう言ってコップに水を入れて僕に渡し、リアナの分もお皿に水を入れて床に置いた。
リアナは、待ってましたとばかりに水を飲み始めた。
そして尻尾は今ではもう既に、ゆっくりとだが確実に左右に揺れ始めている。
リアナもしっかり喜んでくれているようだ。
僕もコップの水を飲み、ローラにコップを返す。
リアナは水を飲み終わると、しゃがんでリアナをニヤニヤと観察していたローラの膝に前足をかけてローラの顔を舐め始めた。
もちろん尻尾は軽快に左右に揺れている。
昨日はもう舐めてあげないって言ったばかりなのに、現金な奴だ。
▽
朝食の席で、父さんが僕と兄さんに今日の予定について提案した。
「アウラ、今日は昼からジェリドを借りたいのだが良いか?」
「僕は別に良いけど、いきなりどうしたの?」
「ラムサスがジェリドとやりたがっていてな、そして私もそろそろジェリドの腕前を観てみたいんだ」
「……良いよ。じゃあ僕は昼からは作業部屋にいるから」
「悪いなアウラ」
「教えて頂いている身でありながらすみません」
「父さんが言い出したことだし、ジェリドが気にする必要はないよ?
それに元々ジェリドに勉強を教えていた時間は、自分の勉強や研究の時間だったからね、身を入れて研究に打ち込むだけさ」
「ではジェリド、また昼過ぎに庭に来なさい」
「わかりました」
▽
今日は遠出をせずに、兄さんの設計した水門をリアナと空中散歩? しながら上から眺めることにした。
上から見ると、地上から見るよりもそのスケールの大きさや、技術力の高さを感じる事ができ、兄さんへの憧れをより一層抱かせられる事になった。
なぜより一層かって? 兄さんはボタン式燭台やこの水門や土手に水路、足踏み式脱穀機……他にも色々発明している天才だ。
尊敬や憧れを抱かないはずがないじゃないか!
……ブラコンではないよ?
お昼ご飯はこの水門を上から眺めながら、リアナと一緒に空で食べることにした。
とても良い眺めだ。特に兄さんの水門が誇らしく、僕もリアナもサンドイッチを美味しく頂いていたんだけど、村の人に気付かれたらしく、地上に人集りが出来始めたので、リアナを抱いて走って撤退した。
因みにご飯を食べていたとき、リアナは本来の子犬サイズに戻って結界を張っており、その結界の上に僕が胡座をかいて座り、更に僕の膝の上にリアナが座って食べていたので、下から見ると僕が胡座をかきながら飛んでいるように見えたかもしれない……
リアナに乗らずに逃げたのは、いきなりリアナが大きくなったら、下にいる人が驚くと思ったからだ。
しばらく走ってからリアナに大きくなってもらい、乗せてもらって屋敷に帰り、父さんを待ちながらリアナと一緒に庭の大木にもたれ、リアナをモフモフしながら遊ぶ事にした。
気付けばいつものわんこ達も来て居たので、両脇に2頭ずつ抱きしめ、リアナをお腹に乗せて寝ることにした。
わんこに囲まれて幸せだ。
▽
「……リド? 起きろジェリド」
気付けば目の前に父さんがいた。
「おはようございます父さん。もう仕事は終わられたんですか?」
「仕事はまだ終わっていないが、ロイの村に胡座をかきながら空を飛ぶ仙人が現れたらしいんだが、心当たりはないか?
目撃した者の話を聞くと子供だったらしいんだが?」
「……ごめんなさい父さん、それ僕です」
「やはりそうだったか。報告に来てくれたロイの村の者に騒がせてすまなかったと謝って来なさい。
あと、ロイの村にも騒がせてすまなかったと謝罪してきなさい。
リアナに乗って行けばそう時間はかからんのだろ?
帰って来た頃には、私の仕事も片づいている頃だろうしな」
「わかりました。
報告に来てくれた方は走って来られたのですか?
もしそうならリアナに一緒に乗っ……」
《知らない人なんて乗せないわよ!!》
「走ってあの村からここまでは来ない。
馬で来たはずだから、彼にはそのまま馬で帰ってもらう」
「わかりました。ではその方はどちらに?」
「その仙人に心当たりがあったからな、応接間で待ってもらっている」
「すいません父さん。お騒がせしました」
その使いの方に謝罪をしてから、リアナに乗ってロイさんの村に向かった。
ロイさんの村までは30km前後あるので、馬だとどうしても休ませたりしなくてはならず、3時間以上かかってしまうが、リアナなら休むこともなくもの凄い速度で走れるので、20分程で着くことが出来た。
村の手前で地上に降り、リアナにも本来のサイズに戻ってもらって、後らは歩いて移動してロイさんの村に到着した。
最初に会った人にロイさんを呼んでもらい、ロイさんに騒がせてごめんなさいと謝罪する。
「ソシア様の魔法を真似して浮いてたのか? ちっこいくせにスゲェなお前。それとこのチビは初めて見たな? お前のペットか?」
《チビってなによ!!》
ロイさんが頭を撫でようと手をのばしたので、リアナがロイさんに牙を剥き出しにして威嚇した。
「おぉ!? 恐えな!!それはそうとどうやってここまで来たんだ? アルに使いを出してからまだ4時間もたってねぇぞ?」
「………………実はこの子は僕がテイムした魔獣でして、この子に乗って来ました。父さんは僕が魔獣をテイム出来ることを、他の貴族達……特に戦争をしたがっている貴族達にはあまり知られたくないようなので、一応秘密にしてもらえませんか?」
なにも考えてなかった。僕のミスだ……
ロイさんには下手なウソをつくよりは、神獣ということだけ伏せて内緒にしてくれるように頼むことにした。
移動速度の速い魔獣なんて幾らでもいるし、サイズを変えられる魔獣も、僕がこの領地に来てから最初に読んでいた図鑑にそれなりの数が載っていたから問題ないだろう。
甘い考えだとはわかっていたが、父さんとは仲が良さそうだったし、父さんが内緒にしたいことなら内緒にしてくれるかもと思いお願いした。
「別にそれくらい良いぜ? それよりアウラ様とソシア様が付き合い始めたんだってな? ちょっと待ってろ」
ロイさんはそう言うと、自分の家に入っていき酒瓶を1本持ってきた。
「貴族様から見たらあまり上等な酒じゃあねえだろうが、俺が用意できる中では1番上等な酒だ。祝いの品として持ってってくれ」
それからしばらくロイさんは、兄さんへの感謝の気持ちなどを僕に聞かせてくれて、兄さんのように立派になれよと僕の肩を2回叩いてくれた。
こういう所は父さんと一緒だな。
そしてやはり兄さんを褒められると僕も嬉しい。
兄さんの才能はブラッドリー家1番の自慢だ。
仙人の正体はジェリド君本人という落ちでした。
次回予告
次回はキルヒアイゼン家の遺伝的魔法特性と聖剣や聖槍のお話です。
キルヒアイゼン家の意外な過去。そして、辺境伯の実力が父さんから聞かされます。
次回【聖剣と聖槍】をお楽しみください。
次回投稿予定は2/ 25の10:00【聖剣と聖槍】です。