第22話 夜の訪問者
22話です。
皆様のおかげで、数日前まではPV70件前後だったこの作品が、火曜日から土曜日の朝のランキング更新までの5日間、日間ランキングのジャンル別
ハイファンタジー部門
12位6位3位2位1位と大躍進をさせて頂いております。
24話を予約投稿した時点では、日間総合ランキングでも1位となっておりました。
日間とはいえ総合ランキングで1位となっていたのです。
自分でも信じられなかったので、確認の為2度書きました。
本当にありがとうございます。
これからも頑張らせて頂きますので、今後ともよろしくお願い致します。
コンコンコンコン
部屋の扉を開けてリアナを見送った直後、部屋を誰かにノックされた。
リアナ……じゃないな。リアナならノックなんてせずに思念波を送ってくるはずだから違う。
確か4回ノックだったよね?
4回ということは使用人?
でもこんな時間にいったい誰が……?
「はい。……誰ですか?」
「ソシアでございます」
ソシアさんがこんな時間に来るなんて……いったい何の用だろう?
とりあえず部屋の扉を開けて招き入れる。
「ソシアさん、こんな時間にどうしたんですか?」
「夜分遅くに申し訳ございません。私がアウラ様の部屋から退室した時、ちょうジェリド様がリアナ様を見送る所のようでしたので、夜分で失礼かとは思ったのですが、ジェリド様に一言お礼をお伝えしたく思い、ご挨拶に伺いました」
「リアナに様なんていらないですよ? それとお礼とはなんのお礼ですか?」
「ローラの事です」
「あぁ……なるほど」
「先程アウラ様がご入浴されているとき、旦那様から、旦那様とジェリド様の会話をお聞きしました。私の勝手な願いから、まだ未熟なローラを専属としてつけた事を、まず謝罪させて下さい。そしてその事を知ったうえで、ローラを専属として認めていただき、ありがとうございます」
ソシアさんが深々と頭を下げる。
「確かに最初はなんでこんな人を? と思いました。人がいないならともかく、執事もメイドも十分な数はいるのに、なんで敬語すら話せないローラが僕の専属として付けられたのか? 養子の分際で在りながら、そう思いました」
「……」
「敬語はともかく、最初に会った時なんてノックも無くいきなり部屋に入ってきて着替えを覗かれるし。着替えを覗いたのに、僕のことを女と勘違いして風呂には入ってくるし。
馴れ馴れしいし、食い意地はってるし。でもその馴れ馴れしさのおかげで僕は気付いたときにはここに馴染めていました。ローラの過去を知り、それでも笑顔で頑張るローラの強さを知って気に入ったんです。そしてリアナもローラを気に入った。確かに今はまだ、敬語も満足に使えないかもしれませんが、頭は悪くないしソシアさんが教育してくれている。なら、ローラは案外掘り出し物じゃないですか?」
僕はソシアさんに感謝の気持ちを込めて笑いかける。
ローラを僕の専属使用人に推薦してくれてありがとう。
僕はソシアさんの人選に満足しているよ? っとソシアさんに伝わるように。
「……あなたという人は。本当に変わった方ですね?」
ソシアさんにもしっかりと伝わったらしく、笑顔で返してくれた。でも、変わった方ってどういう意味だろ?
「騎士公……というのは親が領地を持っており、その領地を貰って世襲された方達からすると、人によっては酷く目障りな物のようで、私は今まで何度もそういう方達から侮蔑の言葉を頂いております」
「……なんで?」
「『一代限りの騎士公と言うのは、所詮その血になにも期待が持てない単なるイレギュラー。領地を統治していく能力もなく、ただただ一芸に秀でただけの、勘違いした馬鹿な雑種』とある貴族の方々から頂いた言葉です」
「なに……それ?」
「他にも似たようなお言葉を多数賜りました。騎士公とは、所詮は単なる名誉貴族であり、本物の貴族ではないと……」
「自分達は、ただただ親か先祖が偉いだけで、自分達がなにかしたわけでもないのに……なんでそんな?」
「選ばれた貴き血を、受け継いでいるからだそうです」
「血?」
「はい。ですがその考え方は、あながち間違いではございません。ストラーダ家からしか、アルベド様は産まれません。レッドリバー家の者は、例外なく武術に長けるそうですし、他の四大公爵家も同様です。魔力特性には、遺伝するものと遺伝しないものがございます。私の場合は、元々魔力は強かったのですが、これが遺伝かどうかはわかりません。そして、調べようにも家族はすでにおりません」
そういえば父親は熊に襲われたって父さんから聞いたな。
なら母親や兄弟は?
「母はローラと同じで、私を産んで死にましたし、兄 弟や姉妹はおりません」
「でもそういう遺伝的な魔力特性が、貴族全員に有る訳じゃないですよね?」
「世襲が許されるほど優秀と認められた物達の血縁は、皆優秀なのだそうです」
「そんなバカな!?」
「騎士公というのは、一部の貴族からは軽蔑の対象なのです。ですから、ジェリド様に頂いた言葉に驚きました。そしてなにより……嬉しかったのです」
「……なぜそれを今?」
「私がアウラ様とお付き合いさせていただけたのは、良くも悪くもジェリド様のおかげかと思われますので」
「……僕の?」
なぜ僕のおかげなんだ? そして良くも悪くも?
「はい。アウラ様の告白を受け……そ……その節はお見苦しい姿をお見せいたしました」
ソシアさんが、恥ずかしそうに頭を下げて謝罪した。
「あ……えぇっと……お気になさらずに?」
「アウラ様から告白されて、私は告白を受けるかかどうか少し迷いました」
「迷われたんですか?」
僕はてっきり、ソシアさんは意識を取り戻してから即決して来たのかと思っていた。
「私は、次期領主となられるアウラ様とお付き合いさせて頂くため、旦那様に貴族になって帰って来るので、その時にアウラ様が受け入れて下されば、旦那様も交際を認めて下さい。と、約束致しました」
ニュアンスは少し違うけど、父さんから聞いた内容とほぼ同じだ。
「しかし私は、騎士公にしかなれませんでした。そんな私が、アウラ様とお付き合いさせていただくことで、アウラ様にご迷惑がかかる様なことになるのでは? と、私は危惧しました。そしていつの間にか、騎士公となった自分を恥じていたのです」
「……」
恥じる必要なんてどこにもないじゃないですか!? と、一瞬僕の思いを言いそうになったが、ソシアさんは兄さんの告白をすでに受けている。
「騎士公という物を恥じていた私にとって、ジェリド様のお言葉は心にしみました。騎士公とは、恥じる必要などない物だ。王国から認められた証であり、本当は胸を張っても良い物なんだ!と。あの言葉を聞いた時、私はとても嬉しかったのです。
旦那様やアウラ様にも、再会した時におめでとうと言っていただきましたが、私はその頃には騎士公と言う物を恥じていたために、気を使われたとしか感じられず、恥ずかしいとしか思いませんでした。
ジェリド様が、私のことを騎士公のソシアと知って、突如謝罪し敬語に戻された時にはわけが分かりませんでした。
たかが騎士公ごときに、子爵家の方がなぜ? と。
そしてジェリド様は、子爵家の一員であるジェリド様より、騎士公でしかない私の方が比べるべくもないほどに偉いと仰いました。
まるでそれが、当然だと言わんばかりに、逆になぜそんな事を聞くのか? と、不思議そうに私を見られたとき、本心から言われているのだと感じました。
本心からその様な事を言われたと感じたのは初めてでしたので、あの日は内心とても動揺してしまいました。
私にとっては実の妹の用に大切なローラを、逆さ吊りにしたままだと言うことも、忘れてしまうほどに」
そう言えば、ローラが限界を迎えてしまいそうになって大変だったな……。
あの時はちゃんとトイレに間に合ったのかな?
トイレに着いた時に、誰かが入ってたら面白いことになってたかもしれないな。
……僕はsadistじゃないよ?
「それから少しずつジェリド様の人柄や性格を知り、お世辞やウソをつく方ではないと感じた時、やはりあの言葉は本心からの言葉だったのだと知り、それまで恥じていた騎士公という称号を、誇らしくさえ感じるようになりました。だから私は、すぐにアウラ様にお答えすることが出来たのです。本当にありがとうございます」
面と向かってそんなことを言われて恥ずかしかったので、僕は照れ隠しに一言だけ返す事にした。
「すぐに来すぎでしたけどね? 何はともあれ、おめでとうございます」
ソシアさんが恥ずかしそうにお辞儀を返してから、僕にイタズラっぽい笑みを向ける。
「もし私がアウラ様の正妻となり、アウラ様が爵位を継がれれば、身分上私は子爵の妻となり、ジェリド様は平民となるのに、私をイジメてもよろしいのですか?」
ソシアさんが僕にこんなに気を許して話してくれたのは初めてだ。
だから僕も、笑いながら返すことにした。
「なら僕は、兄さんが子爵になる前に、まずは男爵になることにします。1度くらいなら、兄さんに敬語を使っていただくのも面白いかもしれませんしね?」
するとソシアさんが、真面目な顔で一礼した。
「そうですね。敬語の話は置いておくとして、ジェリド様にはぜひそうなって頂きたいと思っております。私に話して頂いた、上に立つものとしての考え方……大変ご立派だと感じました。そして、それをただの言葉だけで終わらせず、行動で示される日が来ることを、ローラの保護者として願っております」
ローラの保護者か……。
「僕が仮に本当に国から領地を貰えた時に、ローラがしっかり成長していれば、僕はローラを連れて行きます。もらった領地の場所によっては、離れ離れになってしまい、なかなか会うことすら出来なくなってしまうかも知れませんがよろしいのですか?」
「旦那様から辺境伯より頂いたジェリド様の評価をお伺いした上で、専属に推薦致しました。ですので、その点に関しましては元より覚悟の上でございます。ジェリド様の人柄を知った今、ローラを連れて行かれることに対して、希望はあれど、不満はございません。……ただ、ローラに手を出されるときには、是非とも一言頂きたく思います」
ローラに手を?
……確かに見た目は可愛いが、涎を人の服の裾で拭くようなローラを好きに?
……うん。ないな!
でも無いとストレートに言うと、角が立つかも知れない……。
「わかりました。その際は一言断りをいれさせて頂きます」
「お待ちしております。夜分に長々と失礼致しました。今後ともローラを、よろしくお願い致します。本日は、これにて失礼させて頂きます。おやすみなさいませ、ジェリド様」
笑顔で一礼されたけど、待たなくても良いからね?
「はい。おやすみなさいソシアさん」
ソシアさんが部屋から出て行った。
結構長いこと話してしまっていたようだ。
僕は布団に入り寝ることにした。
リアナとローラは仲良くやっているかな?
▽
《フギャャァァーーーーーー!!!?》
突如流れてきた思念波で思わず目を覚ます。
「な……なに!?」
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ……ガチャン
《ジェリドッ!!》
部屋の扉が突如開き、リアナが僕に飛び着いてきた。
「リアナ!? いきなりどうしたの!?」
《ジェリド!痛い!痛いの!!》
「リアナ、どこが痛いの!? それとなんで痛いの!?」
《尻尾が痛いの!ローラに噛まれたっ!!》
……なんで?
《ローラの横で寝てたら、いきなり私を持ち上げて、なに? って思ったら『骨付き肉』とか言って、いきなり噛んだ!》
……あぁそういう事ね、流石はローラ……食い意地がはっている。
《そんな事より痛いのジェリド!》
「僕の傷を治したみたいに、治せないの?」
《尻尾の付け根だから、上手く舐められない》
「舐められないと治せないの?」
《舌で舐めればすぐ治るけど、舐めないと数分かかっちゃう》
「数分で治るんだ?」
《……今ジェリド、数分で治るなら我慢しろって思ってるわね?》
「言わなくても伝わるのって、素晴らしいね」
《やだ痛いのやだ治してジェリド》
「いやいや……どうやってさ?」
《舐めたら治る》
「届かないんでしょ?」
《舐めてよ!?》
「嫌だよ汚い」
《汚くないもん!!》
「尻尾の付け根ってお尻のとこだよね? ……排せ」
《レディに失礼!!それに洗って貰ってからしてないもん》
「僕が舐めても意味ないでしょ?」
《気分よ!》
「気分で舐めたくないよ!?」
《痛い痛い痛い痛い痛い痛い》
「ってリアナ、血が出てるじゃないか!?」
《だから噛まれたって言ったじゃない!》
「シーツに血が垂れる。拭く物もないから外に出て?」
《怪我して痛がってるのに外に出てろっていうの!?》
……流石に今のは可哀想な発言だった、ゴメンねリアナ。
《ゴメンと思うなら舐めてよ》
「……人の心を読んで、弱みにつけ込むのはどうかと思うよ?」
《……あ……血が垂れる》
「ちょっと待って!?」
思わず尻尾の付け根の血を舐め取ってしまった。
仕方がないから、綺麗に舐めてあげる。
毎日綺麗に手洗いしていて本当に良かった。
《ありがとうジェリド》
「傷口どこ?」
《もう塞がってるよ?》
「……なんで舐めさせたの?」
《ジェリドが頑固だったから、意地でも舐めさせようと思ったの。血は魔法で止めてたから垂れてないよ》
「……確認するから布団には入らず、一度床に降りて待ってて? 今燭台に火をつけるから」
そして僕は燭台を手に取り、親指でレバーを引いてから人差し指でボタンを押した。
レバーを引くと、中に入っている小さな魔石が1つ中の台座に装填され、ボタンを押すことによりその小さな魔石が持ち上がり、大きな魔石にぶつかることで反応し、小さな爆発が起きて燭台に付着させてある可燃性液体に着火し、蝋燭に火が着く仕組みだ。
この可燃性の液体は毎回塗る必要はあるけど、液体自体が安価な上に、筆で少し塗る程度で良いために使用量も少なく、元々よく蝋燭とセットで売られていたものだ。
その代わり燭台は、魔石の発生させる爆発に耐える必要があるため、魔石だけの交換は出来なくなっており、中の小さな魔石は特注品以外は基本150個入りで、魔石が切れる度に燭台ごと買い換える必要がある。
因みにこの燭台は、兄さんの発明品だ。
今までは、炎魔法の使い手以外はどこかから火を持ってくるか、火打ち石で燭台に火をつけていたそうだが、これがあれば炎魔法が使えなくてもボタン1つで燭台の蝋燭に火を着けられる。
辺境伯を通じて販売されている、大人気商品だそうだ。
燭台の装飾に関しては、無骨な物から辺境伯のお抱え職人が丹誠込めて彫り上げた最高級品まで、様々なニーズにお答えしているらしく、その製造場所はブラッドリー領内の辺境伯領との境界線付近にあり、辺境伯のお抱え職人も通って貰っている。
元々は工場などの初期投資の問題から、辺境伯領で作る方向で話が進みそうだった所を、兄さんが元々のブラッドリー家とキルヒアイゼン家の利益分配率を、こちら側が下げる事を条件に辺境伯に出資させ、ブラッドリー領で製造する事で合意。
安価な物なら一般的な平民家庭でも、十分購入し続ける事が出来る金額で販売され、逆に最高級品に関しては、王家御用達となっている為、その普及率は凄まじく、数年後には王国内の家庭に一家に1つ以上置かれる事になるだろう、ブラッドリー家最大の資金源だ。
その功績から、ブラッドリー子爵領は、開拓が順調に進めば、伯爵領に格上げされるという噂まである。
ちなみに、開拓村のオムロさんに任せている養鶏場の費用は、全額この燭台の売り上げから出ているそうだ。
まさにブラッドリー領自慢の逸品だ!
辺境伯を通して販売しているのは、職人を借りることも理由の1つではあるが、1番の理由はコピー商品が出回るのを防ぐためだ。
キルヒアイゼン家、特に公爵領は衣服の販売で大成した領地であり、他の物流に関してもゴールドマン大公の次に幅が利くらしい。そして辺境伯は、仲間にはとても優しいが、敵対者には容赦が無いことで有名らしく、辺境伯に逆らってまでコピー商品を出す勇気のある者はまずおらず、いたとしても、そこから表立って買おうとする貴族もまずいない。
それになにより、高級品以外は薄利多売の商品だ。
ライバルが現れたとしても、質と金額の両面でまず負けない。
蝋燭の製造には手を出さず、元々販売していたところから買ってもらう形を残し、燭台を製造していた貴族の領地には、キルヒアイゼン家とのパイプを作らせた。
職人の行き来の自由と、1つの家につき1番安いタイプのボタン式燭台を3個だけ、完全原価で購入する権利を与える事で、軋轢を最小限に抑えるという辺境伯の政策も功を奏しており、悪い噂がたつこともなく、辺境伯の派閥も広がったと父さんが言っていた。
リアナの為に使うのは勿体ない気がするけど、これを見る度に、僕の兄さんは凄い!って、誇らしくなるんだよね。
《私の為に使うのが勿体ないってどういう事よ!!》
……ん? リアナは床に座っていて、僕からは1m以上離れている。
つまり僕とリアナは触れていない……。
今僕、言葉に出してなかったよね?
……なんでリアナが聞いてるの?
第一章が30話前後で完結予定なのですが、当初の予定としましては、ちょうどその終了時期に歓送迎会シーズンに突入する事と、小説での戦闘シーンの書き方を勉強するために、1ヶ月程休載を予定していたので、ストックがあまりなく、これからは同日投稿等はしばらく出来なくなると思います。
ですが、大まかなストーリー自体は投稿初日から決まっており、問題の戦闘シーンもありましたが、読者様からのアドバイスのおかげでなんとかなりそうなので、トラブルさえ無ければ週2回投稿は続けられると思います。
これからも記憶喪失からの成り上がりをよろしくお願い致します。
これからしばらくは、水曜日と土曜日の週2回投稿で頑張りたいと思います。
ただし、2/22は私の厄日なので、次回は2/21火曜日の投稿となります。
次回予告
触れてすらいないのに、リアナに心を読まれてしまったジェリド君。
リアナとジェリドの間に何がおきたのか?
そして、ロイさんの村に仙人が現れたと父さんの元に報告が来ます。
その仙人の正体とは?そしてその仙人の目的とはなんだったのか?
次回【仙人現る?】をお楽しみ下さい。
次回投稿は2/21の07:00【仙人現る?】を予定しています。