第21話 リアナのお皿
21話です
気が付けばもう辺りは暗くなり始めていた。
父さんは話の後に僕の稽古を予定してくれていたみたいだけど、そちらはもう暗くなるからという事で中止になり、代わりに父さんの稽古を観せてもらうことになった。
ラムサスさんの槍も凄かったが父さんの槍は明らかにその上をいっていた。
「……見えない」
何回槍を突き出したのか?
どの辺りを突いたのかはわかるが、先端は掠れてよく見えない。
横から見ていてこれだ。
もし正面に立っていたらどこを何回突かれたのかすら見えない自信がある。
父さんの槍は速すぎる。
そしてその槍の速度は天井知らずに上がっていく。
そして最後に今までの中で最速の槍を放つと、30m先の木に槍で突いた様な穴が空いた。
「今日はもう遅いしこんな所で良いだろう」
「凄いですね父さん。横から見ていても最後の方は何回突いたかわかりませんでした」
「伊達にこの槍で爵位は貰っていないという事さ。明日は勉強の後お前の腕も魅せてくれ。ラムサスは今日こそお前とやれると思っていたらしく、私が今日はジェリドと話したいと言ったら露骨に残念がっていたからな」
……なんとなくわかります。
だってラムサスさん朝から極悪人顔してましたから。
「それでは父さん。また夕食の時に」
「あぁ、また後でな」
リアナを抱いたまま屋敷に入ろうとした時兄さんとソシアさんも帰って来た。
「お帰りなさい兄さん、ソシアさん。デートは楽しめました?」
「お陰様でね。それはそうとリリアーナさんにリアナの事を話したら彼女顔を真っ赤にしてたよ? 良かったねジェリド? もしかしたら相思相愛かもしれないよ?」
今度は僕の顔が真っ赤に染まるのがわかった。
「に……兄さんリリーになんて言ったんですか!?」
「リリアーナさんにジェリドがこっちで元気にやれているか聞かれたから、最初は寂しかったみたいだけど、神獣をティムしてからはその神獣と仲良くなり、人間関係ももう大丈夫そうだって伝えたら……」
「……伝えたら?」
「神獣の事を聞かれたから『リアナ』と名前を付けて毎日一緒にお風呂に入り、布団で抱き締めて寝てる事や、リアナにはまだジェリド以外の誰も触らせてすらもらえないことを伝えたら、赤くなって何も話さなくなっちゃった」
「に、兄さん。それ……わざと?」
「なんのことかな? それより帰りに沢山お魚貰ったから今日は多分魚料理だよ? 楽しみだね」
そう言って兄さんは馬と荷物を使用人に預けてソシアさんを連れて屋敷に入っていった。
……僕はいったいどんな顔をしてリリーに会えば良いんだ……。
いっそのこと会わないとか?
……王立学園に入学するなら辺境伯の所に行くことになっているし多分それは無理だ。
そして僕自身がリリーに会いたいと思っている……。
《諦めが肝心よ》
「リアナ起きてたの?」
《さっきね、リリーの事好きなんでしょ?》
「どうなんだろ? 気にはなるけどよくわからないや」
《あれ? それ本音ね》
「どういう関係だったのかは気になるし、リリーは美人だけど、僕には記憶が無いからね」
《なぁんだつまらないなぁ》
「人の気持ちを読んでつまらないとか失礼な奴だな」
《神獣だから良いのよ。そうだ!!私がジェリドの縁結びの神様になってあげよっか?》
「僕の恋愛は自然で良いよ」
そして夕食まで部屋に戻って兄さんに教えてもらった事をノートで復習する事にした。
コンコンコンコン
部屋の扉が4回ノックされた。
ノック4回ということは使用人だ。おそらくローラかな?
「どうぞ」
「入るよぉ」
一礼して入ってきたのは案の定ローラだった。
最近はノックなしで入ることはないし、目立ったミスもしていない。……ただちょっと失礼なだけで。
「どうしたの?」
「夕御飯がいつもより遅くなるからその報告だよ。アウラ様達の帰りが何時になるかわかなかったから、準備が出来てなかったんだって。それで今はまだ作ってるとこだから、もう少しかかるよぉ。って言いに来たの」
「わかった。ありがとうローラ」
「じゃあまた出来たら呼びにくるね」
「わかった。またその時は頼むねローラ」
「はぁい」
ローラが部屋を出ようとした時、リアナがローラの胸に飛び込んだ。
「ふわわわ!なっなに!?」
リアナが肩までよじ登りローラの顔を舐める。
「ちょっな!? くすぐったいよ!?」
ローラがリアナを両手で掴み、自分に顔を向けさせる。
……!!
リアナがローラに触る事を許した!?
……リアナの奴、父さんとの話の時に起きてたな?
《ジェリド。この子に私を撫でても良いよって教えてあげて?》
「……わかりましたよ神獣様。その狸寝入りが得意な神獣さんがローラに撫でて欲しいんだって?」
《そこまで言ってな──》
「良いの!? じゃあ遠慮なく。こちょこちょこちょ」
《ちょっ!? それ撫でるの違う》
リアナは暴れるが、逃げようとはしていない。
どうやらリアナは父さんの話を聞いて、自分に触れる事を許したようだ。
僕も嬉しくなり、ローラと一緒にリアナをモフモフしてあげた。
しばらくそうして遊んでいると、ソシアさんが僕らを呼びに来た。
僕の部屋は兄さんの隣だし、ローラの姿が無かったことから兄さんを呼ぶついでに呼んでくれたらしい。
短時間のつもりがかなり時間がたっていたようだ。
リアナの毛並みが滅茶苦茶になっている。
やはり犬は偉大だな。
リアナをモフモフしていると時を忘れてしまう。
ローラは先に食堂に行き、僕らはリアナが毛並みを気にしたので、簡単にリアナをブラッシングしてから食堂に向かった。
食堂に着くと、やはり僕とリアナが最後だった。
リアナを軽く睨むがリアナからは
《私は悪くないもん。私を揉みくちゃにして毛並みを乱したジェリドとローラが悪いんだよ?》
と逆にこちらを睨み返しながら思念波が送られて来たので、僕はそっと顔を逸らして父さんと兄さんに遅れたことを詫び、そのまま席に着いた。
するとローラが自分の背中に両手を回し、堪えきれないとばかりに顔をニヤつかせながらリアナに近付く。
そしてそれに気付いたリアナが思わず後ずさる。
ローラはリアナの前までニヤつきながら接近すると、後ろに回していた両手をリアナの前に勢い良く掲げて見せた。
「ジャーン」
と言いながら掲げられた両手には、それぞれ1枚づつ木のお皿を持っていた。
リアナはそれがなにかよく分からなかったようで、目を白黒させている。
そしてローラがその木の皿をリアナの前に置き、その一方に水を入れた時、リアナはようやく気付いたようだ。
木の皿はパッと見かなり良く出来ていたが、そこはやはりローラというか、ちょっと抜けていたらしく、水を入れたらカタリと少し音をたてて傾いたように見えた。
水を入れ終わってもリアナはその木の皿から目を離さない。
《ジェリド……これローラが作ったの?》
「これはローラが造ったのかってリアナが聞いてるよ?」
「もちろん私が造ったんだよ!」
気付けばそこにいた全員がローラとリアナに注目していた。
ローラが水の入っていない方の皿を持ち上げて裏側を見せる。
するとそこには【LIANA】と彫られていた。
ローラがその木の皿をリアナの前に戻そうとしゃがみ込むと、リアナはローラの顔を舐めてから皿の前で行儀良く座り、お皿を眺めながら食事の始まりを待った。
「いつの間にかにローラはリアナに気に入られた様だな。リアナも待っていることだし夕食を始めよう」
「「はい父さん」」
そして食事が始まりすぐに兄さんが口を開いた。
「ローラはどうやってリアナに気に入られたの? 今お皿をあげたから気に入られた訳じゃないよね? 朝はもっとローラとリアナの間に距離があったし、さっきジェリドが来る前、ソシアにリアナがモフモフで気持ち良かったって言ってたよね?」
「分かりませんです。先程ジェリド様の部屋に行くといきなり触っても良いよと言われましたです」
「……なにかあったの?」
兄さんが僕を見ながら聞いてきたけど、食事時にローラの過去の話をするのもどうかと思われたし、なによりローラの前ではこの話をしたくなかった。
だが兄さんを無視する訳にもいかない。
……どうしよう?
「まぁそんな事は良いじゃないか? それより報告はちゃんと済ませたのか?」
父さんが僕にアイコンタクトを送ってきた。
父さんもリアナが昼の僕らの話を聞いていたことに気付いて話を逸らしてくれたようだ。
「……はい。僕もソシアも辺境伯領に着いた時に手紙を書いてそれぞれの手紙にお互い一言ずつ添えてアウル様とアルベド様に送りました」
「アルバートはなんと言っていた?」
「おめでとうと言って頂き、それぞれの誕生年のワインを頂きました。それと結婚式には呼んでくれ。と言われましたが、まだ気が早いですとお答えしておきました。その後は主にジェリドとリアナの話でしたね」
「そうか。まぁアルバートにとってジェリドは、リリアーナ殿と同じで、自分の屋敷で生まれ育った言わば息子のようなものみたいだからな。気になるのも仕方があるまい」
なんだか凄く嬉しくなって顔のニヤツくのを抑えきれなかった。
辺境伯に気にかけてもらっていることが嬉しい。
僕が辺境伯の屋敷で目を覚ました時、僕の記憶はすでになかった。
僕はあの時なるべく平静を装っていたけど、父さんが言った
『使用人の子ですら無くなった君を、タダでこのままここに置いてもらう訳にもいかないだろう』
あの言葉は本当に怖かった。
あの時僕はこれからどうしようか考えた。
でも考えれば考える程不安になるだけだった。
……不安だけじゃない、それ以上に怖かった。
なにもわからない……自分の名前すら思い出せない状態で、1人放り出されたらどうしよう?
なにをすれば良いのか? なにをしたらダメなのかすらわからない。
もし放り出されたら自分はこれからどうする事ができるのか?
そして、自分がしようとすることは正しいことなのか?
記憶が無くても善悪の判断はつくのか?
そんなことを考えている時に辺境伯は
『私は良いよ? ジェリド君を引き取っても』
と言ってくれた。
そして僕の事を愛しているとも言ってくれた。
辺境伯のその言葉に僕はあの時救われた。
「そうだジェリド。リアナの事を話した時に辺境伯から言伝を頼まれていたのを忘れてた」
「ほう? アルバートはなんと言っていたんだ? それとそれは私が聞いても良い内容なのか?」
「問題無いと思うよ? 『リリーが欲しくなったらまずは私の所に来い』だって? どう言う意味だろうねジェリド?」
兄さんにニッコリ笑いながら問いかけられた。
どうやらリアナの名前の由来は完全にバレているみたいだ……。
……でもジェリアーナにしなくて本当に良かった。
僕は兄さんの質問を笑って誤魔化した。
夕飯を食べた後、リアナがローラに触れることを許した事が嬉しくて、僕はリアナを目一杯構ってあげた。そしてお風呂では約束通りしっかり手洗いしてあげて、お風呂を上がってからはブラッシングもしてあげた。
「リアナそろそろ寝ようか」
《ジェリド……今日はローラの所に行ったらダメ?》
「ローラの所? ローラと一緒に寝るって事?」
《……うん》
「朝から比べると凄い気に入りようだね?」
《お皿……私のお皿嬉しかったから……。今まで朝と夜のご飯の時は1人で待ってて寂しかった。今までずっと1人だったのに、気付けば1人でいるのが寂しくなってた》
「見送ってくれる時いつも寂しそうだったよね?」
《昨日一緒に食べられたのは嬉しかったけど、昨日はお祝いだから許されただけだと思ってた。だから今日の朝、私も一緒に食べても良いよって言われてとても驚いた》
「昨日リアナの前で父さんから許可をもらってたのに、気付かないくらい嬉しかったんだね」
《さっき自分の名前の書かれたお皿を見て、これからはここで食べても良いよって言われたような気がしたの。もう寂しい思いをせずに、一緒に食べても良いんだって……凄く……凄く嬉しかった。……だから》
「行っておいでリアナ」
《良いの?》
「僕はね。でもローラはどうか知らないよ? それとローラの部屋はわかる?」
《私を断る奴なんていないもん♪
それと神獣の鼻を舐めてもらっちゃあ困るわね♪》
「ローラが専属で良かったね? 専属使用人以外はみんな相部屋だから、2人っきりにはなれなかったはずだよ?」
《部屋に誰かが居ても窓から吹き飛ばして2人で寝てやるわ♪》
「恐い恐い。じゃあお休み。リアナ」
《お休みジェリド》
そう言ってリアナは部屋から出て行った。
仲良きことは美しきかな。
レビューを頂いてからPVやブクマが凄いことに。
今までのPV数は、1日最高650くらいだったので、1,000PV目指して頑張るぞ。って思っていたのに、PV数が1日で12,123とかブクマが23人だったはずなのに140人とか(゜ロ゜;)
別の人のデータとあべこべになってたらショックですが、このデータが本当に合っているなら読んでいただいた方ありがとうございます。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
次回予告
次回はリアナがローラの部屋に出掛けた後、ジェリドの部屋をとある人物が訪ねます。
そして聞かされる話とは?
そして更にその後とある事件?が起こります。
次回【夜の訪問者】をお楽しみ下さい。
次回更新は2/18の0:700【夜の訪問者】を予定しています。