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俺はいったい何者だ? 記憶喪失からの成り上がり  作者: どんちゃん
第一章・現状把握とブラッドリー子爵領
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第18話 ラムサスさん

18話です

 ラムサスさんが馬車を引いて現れた。

 いや、馬が引いてるわけじゃなく、ラムサスさんが馬車の荷台を引いているから人力車? 

 ……どっちでも良いや。


「馬車の荷台に入れて持ってきたのか?」

「はい。色々試されると思いましたので、種類だけでもと揃えて持ってまいりました」


 ……すごい量だ。

 剣だけで小さいのから大きいのまで20本は下らない。

 槍は長さや刃の位置が違うのが合わせて10本以上。

 ハンマーに戦斧に変な棒……とにかく色々あった。そしてなぜか小さな防具があったのは見なかったことにしよう。うん。そうしよう。


 とりあえず手合わせとか物騒な事にならさそうなのは弓だな。

 弓は6種類あり小さいのから大きいのまで色々あった。

 体が小さいから1番小さい弓を選んだと思われるのが嫌だったので、中くらいの弓を使うことにした。


 弓と矢を持ち馬車から降りて、木にでも打ち込んでみようと思い手頃な近さの木を探す。


 あっ、昨日のわんこ達だ。あ、いや狼だっけ? 

 4頭が仲良く並んでこっちを見ていた。

 思わぬ観客が──ん? わんこの後ろに大きな影が?

 わんこ達は気付いていないようだけど……あれ、なんだろう?

 ……あれは──熊っ!?

 しかもあの熊! わんこ達を狙ってる!!


 そう思った瞬間、僕は一瞬で矢をつがえ、気付いたときには矢を放っていた。


 自分達に矢を射られたと勘違いしたわんこ達が驚いて逃げようとするが、真後ろから熊の悲鳴のような鳴き声を聞き、そちらに目を向け、逃げる方向をこちらに変えた。


 矢は見事に熊の右目に命中し、怒り狂った熊がわんこ達の後ろを追いかけるような形でこちらに向かって走り出した。そしてそれを見て父さんが槍を構える。


「父さん!犬は殺さないで!!」


 ──斬──


 熊の首が落ちた。

 わんこ達は僕にすり寄りながら震えている。

 よっぽど恐かったんだね? 

 もう大丈夫だよ? 

 わんこ達を抱き締めながら、もう大丈夫だよと笑顔を向ける。

 ……わんこじゃなくて狼だっけ? 

 もうこれからはわんこで良いや。


「父さん。ありがとうございます」


 父さんが信じられない物を見るような目で僕を見ていた。


「熊までの距離は約40mあった……それを狙って目に当てたのか?」


 どうなんだろう? 

 確かに熊は狙ったけど、あの瞬間はとにかく射ないとわんこ達が熊にやられると思って射ただけだ。でも肩や胴体に当たっても止まらないと思って、射る瞬間に目に当たれと思ったのも事実。


「わかりません。射た時にはとにかく当たれと思って射た気はしますが、射た瞬間は目に当たれと思っていました」


「……凄い早打ちだったな」

「急がなければこの子達が危ないと思い、咄嗟に射ました」

「……もう一度今度はそうだな……あの木のこの傷跡を狙ってみてく……れっ!」


 父さんがそう言いながら槍を突き出すと、30m先の木に槍で突かれたような傷跡が付いた。

 ……なんで槍で30m近く離れた木に傷が付くの? 


「……凄いですね」

「この程度はどうということはない。アウル殿ならこれくらいの距離の木など、傷と言わずに一振りで纏めて切り裂く。それより早く射てみてくれないか?」


 僕が弓を構えようとしても、わんこ達は僕から離れようとせず、どうしようかと思ったが、すぐにリアナが全員尻尾と前足を器用に使って回収してくれた。そして言われたとおりに矢を射てみると、見事に真ん中に当たった。

 我ながら凄いな……もしかしたらとは思っていたけど見事に当たった。

  

 父さんが満足そうに頷いて、また数本の矢を僕に渡しながら同じ的を狙うようにと指示をした。

 言われたとおりに狙ってみたら、残りもしっかり命中した。

 それを観た父さんが、僕の横に立って笑顔で肩をバシバシと2回叩いてくれた。


 痛い……絶対力加減がおかしい。

 痛いんだけどこの痛さが父さんの喜びの強さなのかと思うと、ちょっぴり嬉しかった。


「ラムサス。なにか投げて的に出来るものはあるか?」


 父さんがラムサスさんを呼んだので吊られて振り向くと、既に兜にロープを繋げた物を極悪な表情で口角を吊り上げながら持って立っていた。

 ローラなら悪魔がいるって言うんだろうな……。


「言う前に準備してくれていたのか? 流石はラムサスだ。ジェリド、今度はこの兜を投げるから矢を当ててみてくれ」


 言うやいなや、兜を山形の軌道で大遠投した。

 慌てて矢を射るが矢は外れてしまった。

 その後数回繰り返したが当たる感じはしない……。


「移動する的には当てられないが、固定の的にはなかなかの精度だったぞ」


 父さんがそう言うと、また僕の肩を叩いてくれた。

 今度は痛くない……全部外れてしまったし、喜んでは貰えなかったみたいだ。

 ラムサスさんも表情が割と普通に戻っている。

 ……ラムサスさんの表情が戻ったのは嬉しいことだよ? 


「弓はもう良いな。次は棍棒だ。型は私が幾つか代表的なのを見せるから真似てみてくれ。その後は戦鎚と戦斧を試してみよう」

「わかりました」


 父さんの見様見真似で、この3つを試してみた結果、戦鎚を使ったときには眉根を寄せていたけど、棍棒と戦斧に関しては満足して貰えたようだった。

 気付けばラムサスさんの表情もまた極悪人に戻っている。


「……さて、ここからが楽しみだった2つだな」

「えぇ本当に楽しみです。槍と剣はそちらに幾つか用意させて頂きました。私は今の内に体を温めておきます」

「まだやらせるかはわからんぞ?」

「辺境伯の目が曇っていなければ大丈夫でしょう」


 ラムサスさんが本日1番極悪な笑みを浮かべてそう言うと、槍を持って少し離れた所で僕らに背を向けたまま槍を腰だめに構えて動きを止めた。

 ……なんで体を温める必要があるの? 

 ……もしかしなくても僕とやる気だよね? 

 ……こんなに可愛い僕をいじめるつもりなの? 

 ……自分で可愛いって言っちゃった……。

 少し自分の心に後悔していると、ラムサスさんが槍を突いたり振り回したりし始めた。


 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュブオン……ブンガツブオンブオンヒュ


 ……あれとやるの? 

 今ラムサスさんがしたのは、高さを散らした物凄い連続突きから腰の高さに右から左への横凪の一撃を放ち、勢いそのままに左回転しながら跳びあがる。

 槍は横方向の動きから気付けば縦回転に変化しており、体が一回転すると同時に上段からの叩きつけを放って着地する。そしてその叩きつけが地面に当たるとその反動を利用し、左下から右斜め上に切り上げを放った。

 切り上げを放ったときに槍を腰と脇で挟み腰を左に捻る事により、切り上げが通り過ぎた瞬間にはまた槍が左に動き頭の位置を狙うかに見えたが、その動きは途中で止まり一瞬で槍を引き頭の高さに突きを放ったのだ。

 その後も凄い勢いの突きを放ったり、槍をブンブン振り回したりしていたが、その全てが一切の淀みのない綺麗な動きだった。

 今までに何千何万と繰り返してきたのであろう事がよくわかる。そんな洗練された動きだった。


《はは♪あの人間凄いねジェリド♪応援してるから頑張ってねん♪》

「……」

「ラムサスめ……いつになく嬉しそうだな。私がお前を連れてきた時に、アルバートから聞いたお前の評価をラムサスに話したんだが、その時からお前とやるのを楽しみしていたみたいだったからな」

「……そうなんですか」


 父さん……余計なことを言わないでくれませんか? 

 下手すると僕、殺されちゃいますよ? 


「ではそろそろ見せて貰おうか? 私もアルバートの話を聞いた時から楽しみでしょうがなかったんだ」


 父さんが子供のような笑顔でそんなことを言う。

 さっき父さんに誉められるのはとても嬉しかった。

 僕はとても単純な性格らしい。

 父さんにもう一度誉められたい。

 しょうがない……やるか。

 さて……どちらの武器を先に試そうかな? 

 剣と槍……どちらの武器の方が武器として強いかと言えば当然槍だ。

 剣と槍ではリーチが違いすぎるし、実際父さんもラムサスさんも今持っているのは槍だ。


 だが、なぜ最後に楽しみだと言って残したのがこの2つだったのか? 

 戦斧と槍ではなく、剣と槍にした理由はなんだ? 

 槍は一番メジャーな武器だし妥当だ。

 なら剣を残したのはなぜだ? 


 槍が主流の中で、槍と相対した時の相性では剣よりも戦斧の方が数段マシだ、戦斧は防具の上からでも致命傷を負わせられ、なおかつ、突き出すように持って戦えば、小さな盾を前に突き出しながら戦うような形になり、剣よりも槍を数段受け流しやすい。

 そしてその形状や材質にもよるが、基本的には剣よりも折れにくい。


 実際戦場で槍の次によく使われる武器は戦斧だ。

 剣は持ち運びに便利で、護身用としては大変優れている為、槍使いも戦斧使いも戦鎚使いでさえある程度のレベルで扱える者は多いが、そういうセカンドウェポン的な意味合いで用意したのだろうか? 

 ……違う。

 それならわざわざ最後に見たいと言って残すはずがない。


 ……ご託はやめよう。

 ラムサスさんが馬車の荷台を引いてきた時に、最初に僕の目がいったのは、数ある武器の中でもなぜかこの小さな片手剣だった。

 多分僕は記憶をなくす前は剣を使っていたんだ。


 武器と言われて最初に思い浮かんだのは片手剣だった。

 そしてこの剣を見たとき、この剣を手に取りたいと思った。

 しかし僕はこの剣を使いたくないと思った。

 自分でも意味がわからない不思議な感覚だ。

 でもなぜか心が惹かれて仕方がなかった。


 自分でもよくわからないこの気持ちを一旦抑えて冷静になろうと、先に槍を試すことにして槍を持つ。


《良かったね? あの人とやらなくてすみそうだよ》


 突如リアナからそんな思念波が来たけど、どういう意味だろう? 


「パーティーだよパーティーだよパーティーだよパーティーだぁ」


 突如ローラが大声でそんな事を叫びながら、満面の笑みを浮かべて現れた。


「いたいた!ジェリド様を発見連れていきまぁす。

 あれ旦那様までいたですか? 

 旦那様も早く食堂に行くですよ? 

 ジェリド様と旦那様を連れてかないと、食べさせてもらえないのです!!

 今日はお肉もシチューも何もかもが食べ放題の飲み放題なのです!!ジュルリ……あ……涎が……ゴシゴシさぁ行くです」

「涎を平然と人の服の袖で拭くな!!」

「そんな細かいことは気にしないよ?」

「された側は気にするよ!?」

「細かいことを気にしているから、ジェリド様は小さいままなんだよ?」

「……ローラ?」

「チビが嫌なら細かいことは気にしたらダメだよ? 昔お父さんが、細かいことを気にするような奴はでかくはなれないって言ってたよ? だからきっと、ジェリド様は細かいことを気にしているからチビなんだよ。細かいことは気にせず大きい男になるんだよ?」

「ローラ実は僕動く的にうまく弓を当てられないんだだからローラは良く動くし的になってくれないかな? うんそれが良いそうしようさぁローラ早く僕の腕を離してどこかに向かって走ってくれるかな? 今の僕はローラになら当てられる気がするんださぁ早く」


 ちょうどローラに引っ張られて馬車の荷台の横に居たので、弓と矢を手にすると、さすがのローラも動きが止まった。


「……息継ぎなしで音程も変えずによく言えたね?」

「うん。多少落ち着いてきたよ。ありがとうローラ、僕の弓の練習に付き合ってくれて、さぁローラ、はやく僕の腕を放して走ってくれないかな? 流石にこの距離で腕を持たれたままだと矢を射られない」

「……射なくて良いよ?」

「ぜひローラをこの矢で射させてほしいんだ」

「前も言ったけど私のハートは簡単には射抜けないよ?」

「大丈夫。意味が違うしそんな気ないから。僕の望みは物理的にこの矢でローラを射ることだから」

「そんな事されたら痛いと思うよ?」

「僕の心の痛み程じゃないと思うから大丈夫、気にせず射抜かれてくれれば良いから」

「……途中で切り上げるのは残念だが、アウラの祝いの席の方が大切だ。続きはまた改めて見させて貰おう。ラムサスもそれで良いな?」


 ラムサスさんは残念そうにしながらも頷いてくれた。


「さぁ行こうアウラとソシアの祝宴だ」

 戦闘シーンですら無いのですが、人の動きを書いて伝えるのは難しいですね。


 第2章からは戦闘シーンをいくつか入れる予定なので、それまでに少しはマシになるように努力します。



 次回予告

 次回は1話まるまるパーティーです。

 パーティーです。……パーティー以外に書けることが……ない?

 布石の回となりますので、もう1話同日投稿致します。



 次回【祝宴】と次次回【父さんの懺悔】をお楽しみ下さい。



 投稿予定は2/11の10:00【祝宴】

 同日投稿で18:00に【父さんの懺悔】を予定しています。

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