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俺はいったい何者だ? 記憶喪失からの成り上がり  作者: どんちゃん
第一章・現状把握とブラッドリー子爵領
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第17話 歓喜の父さん

 ど……どうしよう? 

 兄さん……もしかしてわざと……わざとなの!? 

 さっきの告白とキスで、1人で歩けないような状態になっていたソシアさんが、顔を真っ赤にして兄さんの前に戻ってきてする話なんておそらく返事しかないよね? 


 ソシアさんのこの感じ──

 告白を受けるつもりだ!

 絶対そうだ!


 10歳の頃から兄さんと結婚するために行動していたソシアさん……。


 努力で騎士公にまでなったけど、名誉貴族だから約束を守れていないと言って父さんに頭を下げ、メイドになってこの若さでメイド長にまでなったソシアさん──


 兄さんと歳はあまり変わらなくみえるから、メイドになってから大した時間はたってないよね? なのにもうメイド長をしている。

 つまりそれだけの努力をおそらく兄さんの為にしてきたソシアさん。


 そしてついに兄さんがソシアさんにプロポーズし、その返事をしに来たところに!!


 ──僕が居て良いの? 


 ──絶対だめだ!!


 僕もソシアさんも気まずすぎる!

 なんとしてもこの場から立ち去らなければ──!

 ……というか、ソシアさんからなにかを感じる。

 ここにいたら命の危機かも知れない。

 それぐらいのなにかを感じる……。

 なんとかしなければ……。

 でも、どうやって? 


《助けてあげよっか?》

(リアナ!? どうして隣の部屋にいるはずのリアナが僕の心の声を聞いてるの?)

《……あのねぇ、声に出さないと聞こえないよ? 私は顔だけじゃなくて耳も鼻も良いから、そこに誰がいてどういうやり取りをしているのか、今まで聞いてたから知ってるんだぁ。ベルで起こされたから、その怖い女が告白されて倒れる所もバッチリ聞いてるもん》


 なる程。それでこの部屋の状況を知って僕を助けようと。

 リアナ……なかなかの忠犬ぶりだ。


《助けてあげる代わりに今日のブラッシングは1時間ね♪? あっ、お風呂で洗うときにはブラシを使わず手で優しく洗うのも追加して……そうだ! 1日だけにする必要なんてないんだ。1週間毎日それでお願いねん♪。了解なら咳払いをお1つどうぞぉ》


 ……な、なんて勝手な! 人が困っているときに足元見て交渉してくるなんて……僕の感動を返せ!

 しばらく愕然としていると、更にリアナから思念波が送られて来た。


《……なら5日でどう? 困ってるんだよね?》


 あれ? 勝手に譲歩してきた。

 もう少し待てば更に譲歩してくれるかな? 

 いやブラッシングもリアナを洗うのも楽しいし、リアナが凄く喜ぶから正直それくらいは全然良いんだけどね? 

 僕が困っているのを利用して、リアナの思い通りになるのが気にくわないだけで。


《……私のブラッシングと手洗いはそんなにイヤなの? 両方ともされてる時とても幸せな感情が流れてきてたよ? 私を洗うのもブラッシングするのも大好きだよね? イヤじゃないよねジェリド?》


 リアナから泣きが入った。

 調子には乗ってたけど、可愛そうだし実際助けて欲しいからリアナに頼もう。


 コホン


《だよね? イヤじゃないよね? ジェリドはリアナが大好きだもんね? もう仕方ないなぁ。これから毎日手洗いとブラッシングを受け入れてあげるよぉ》


 勝手に内容が毎日に変更されたうえ、僕が望んでやってることになってる?


 手洗いはリアナがベッド以外で寝ることを頑なに拒んだけど、そのままベッドに入ると汚れるという理由でお風呂で手洗いしてあげて、それをリアナが気に入っただけだ。


 ブラッシングはリアナがブラシを持ってきて、僕に渡してやってくれと頼んだからやっただけだ。


 もっともブラッシングも元々綺麗な毛並みが更に綺麗になるし、リアナをモフりながらさせてもらってかなり楽しかったからまたやりたいけど、元々はリアナが望んだことだ。


 しかもブラシがどこにあったのかを聞いたら、ローラの部屋にあったから持ってきたと窃盗を自供したため、ローラに謝りに行く羽目になったし。


 ……もっともローラは、ブラシがなくなっていることにすら気付いておらず、無くした時用のスペアブラシを10本も出してきたから、リアナが盗んだブラシはローラに頼んで譲って貰ったけどね。


 正直この時、僕は悪い意味でさすがはローラだと思った。

 ダメになるからとかではなく、失くすからと言う理由で同じブラシのスペアを10本なんて、普通は持たないよね? 


 それはそうと、どうやって助けるつもりかな? 

 ふと窓を見ると、そこには最初に会った時のリアナがいた。

 つまり体高3mで、体長は尻尾抜きでも4m以上のリアナがそこに居た。

 ──ここ、3階なんですけど? 


 リアナが窓を前脚で器用に開けて僕を掴むと、そのまま外に連れ出した。


 僕らが外に出た後、まるでリアナの行動がなにも見えていなかったかのように、兄さんとソシアさんが驚き窓の外の僕を見つけて安堵していた。


「どうやって浮いてるの?」

《あの恐いメイドの真似だよ》

「凄い早業だったね? 兄さんもソシアさんも僕が外に出てから僕が居ないことに気付いてたよ」

《フェンリルの瞬間速度は、全生物の中で最速だから当然ね》


 へぇ、そうなんだ? 

 窓を割らないようになのか、割とゆっくり僕を連れ出したように見えたんだけど……。


《……ジェリド、今のが見えてたの?》

「人の心を勝手に読まないでよ?」

《触れてたら勝手に流れてくるんだもん。それより見えてたの?》

「見えてたってなにが?」

「ジェリドか?」


 突如下から父さんの声が聞こえて下を見ると、父さんが上半身にシャツだけ纏い、ズボンはいつものスーツのズボンを履いて槍をもっている。

 どうやら鍛錬をしていたようだ。


「もう勉強は良いのか?」

「え、えぇっと、良いわけではないのですが、……兄さんとソシアさんが……」

「アウラとソシアがどうかしたのか?」

「とりあえずリアナ、下に降りて」


 リアナに降りるように頼みながら考える。


《降りたら顎の下をモフモフしてねん♪》

「わかったよ」


 ソシアさんの感情は父さん公認なんだよね? 

 ソシアさんは約束を守れなかったと父さんに頭を下げてメイドになったらしいけど、父さんはそんな事気にしていないと兄さんは言っていた。

 ならここで言っても良いよね? 

 むしろ言わないと、僕が自分から頼んだ勉強が嫌で逃げてきた図にしか見えないよね? 


「実は貴族の爵位について教えて頂いていたのですが、そこから何故かソシアさんへの告白になりまして──」

「ソシアがようやくまた告白してくれたのか!? 昔は毎日のように告白してくれていたが、アウラが自分はブラッドリー家の人間として認められるようになるまでは返事をしないと、大好きなくせに頑なに拒んでいたからまだ婚約はしていなかったんだ。

 ソシアはソシアで、学園を卒業して帰って来たら『騎士公にしかなれなかった半端者ですが、どうかせめてメイドとしてアウラ様のお側に仕える事をお許し下さい』等と言って、それからはアウラのことが好きなのをアピールしながらも一度も告白をしていなかったようなんだ。ようやく私にも初孫が出来るのか!!」


 父さんが滅茶苦茶喜んでいる。

 なんとなく予想はしていたけど、そういう事だったのか……。

 小さい頃に何度も何度も告白して、兄さんと結婚するために貴族を目指し、今一歩その夢には届かなかったけど、諦めきれずにメイドとして側に仕えることを選んだ。


 メイドになってから今までは、父さんの知る限りでは自分からは告白せず、好きな気持ちを抱えながら兄さんに仕えていた。


 そして今日、兄さんからいきなりのプロポーズ。

 ここからは推測だけど、気絶するほど喜んでその返事をまだしていない事に気付き、慌てて兄さんの部屋を訪れたら僕が居た。


 10年以上越しの願いが叶うかもしれない。いやまず間違いなく叶うはずの瞬間に、兄さんだけではなく……僕も居た。

 それはやっぱりダメだよね? 

 リアナに感謝しないと。


「ありがとうリアナ」

《……ジェリド。感謝してくれるのは嬉しいんだけどね、前から思ってたんだけど考えるの早過ぎない? それとやたらと量が多すぎない? ジェリドの考えが頭の中に怒濤のように流れてきてたまに疲れるんだけど?》

「ならモフるのやめるよ?」

《それは許さない!!》


 しまった。父さんとの話の途中だった。


「この間なんて元々アウラは断っていた見合い話だったのだが、相手が1度会うだけでもと言って聞かずに似顔絵と会う日取りについて書かれた手紙を送ってきたんだ。それを結界を張って待ち伏せし、手紙を自分の部屋に隠してしまったんだ。翌日ひどい顔をして現れた彼女に、どうしたのかと尋ねると、私と書斎に行くことを願い出たんだ。そして書斎のドアを閉めるやいなや、土下座して前に突き出された両手に手紙を持ち『申し訳ございませんでした』と言って自分の犯行を全て懺悔し、『森でこの首落として参ります』と言って書斎から出ようとしたときには、どうしたものかと焦ったものだ」

《このおっさんもよく話すわねぇ……遺伝なのかな?》

(だから父さんのことをおっさんって言うな!)

「父さんとは半分しか血は繋がってないんだけどね……」

《……ねぇジェリド? 自分の事心の中では俺って言ってたよね? なのになんで僕に呼び方が変わってるの?》


 そう言えばそうだ……なぜだろう? 

 確かに最近は心の中でも僕と言っていた気がする……。


「それでアウラは受けたのか?」


 突然父さんが昔語りをやめて僕に話しかけてきて驚いたが、なんとか返せた。


「兄さんが受けたというより、兄さんがソシアさんにプロポーズしました」


 父さんが目を見開いて驚いた。


「そうか、アウラもようやく武のブラッドリー家でありながら、武の才能が無いなどというくだらない悩みから解放されてくれたか……」


 父さんが持っていた槍を振ると、なにもないはずの空間で堅い金属同士がぶつかるような高い音が木霊し、暫くするとラムサスさんが現れた。

 兄さんにとってのベルと同じ様なものみたいだ。


「お待たせいたしました旦那様」

「ラムサス。今日の夕食はコックも含めて全員で一緒に食べるぞ。コックには金など気にせず質優先で全員分の量を3割増しで作るように言え。今日はアウラとソシアの祝の席だ。勿論肉や香辛料も、惜しみなく使うように伝えろ。それでも気を使いそうなら、少しでも質や量に手を抜けば斬り殺すぐらいのことは言ってやれ」


 父さんが笑顔でラムサスさんにそういうと、ラムサスさんも小声でようやくですか……と言って笑顔でこの場を後にしようとする。


「あぁそれともう1つ。ラムサス、倉庫から武器を持てるだけ持ってきてくれ」

「武器……ですか?」

「あぁ、そろそろ私の方がジェリドの実力を見たくて我慢出来なくなってきた。打ち合いはともかく、弓や剣の型を観るくらいはしても良いだろう」

「……なる程、それは私も興味がございます。一緒に観させて頂いてもよろしいですか?」

「あぁ構わない。あと、自分の槍も持ってきてもいいぞ? まだやらせるかはわからないが、アルバート曰わく天才だそうだからな」

「辺境伯が……それは楽しみですね?」


 ラムサスさんの表情が極悪人のようになり、口角を吊り上げて僕を見た。

 ……なんか滅茶苦茶喜んでいるのは伝わるけど、それ以上に滅茶苦茶恐い……。

 そう言えばローラにこの間辺境伯の使用人も父さんの使用人も美男美女が多く、老齢でもとても品のある人しか居ないことを不審に思い聞いたときの事を思い出す。


『あ、あのね? ……私が可愛いのはわかるんだけど、告白にはまだ早──』


 なんかムカつくから回想終了。

 要するに他家の目もあるために、見た目が良くない使用人は基本的には雇わない。

 見た目が並以下でも雇っているなら、それは見た目のマイナスなんか比べものにならないなにかしらの能力を持っている証であると……。


「ではコックとソシアに伝えて来ます」

「ソシアはやめてやれ今日の主賓だ」

「……そうでしたね? つい。では適当な人間を見繕い伝えてすぐに戻ります」

「あぁそうしてくれ」


 ラムサスさん……滅茶苦茶楽しみにしてません? 

 ソシアさんと兄さんの祝いの席だと聞き、それを祝福しているようだったのに、それを忘れる程楽しみにしてるってどう言うことですか? 


 あの人には悪いけど、あの人の外見は、並よりかなり下に見える。そしてあの体格──。

 絶対武力で認められて使用人になった口だ!

 弓や剣の型を観せる約束は確かにしましたけど、あなたとの手合わせまでは約束していませんからね? 


 突然僕の武術の腕を披露する事に……。

 僕、図鑑より重いもの持った記憶が無いんだけど、大丈夫かな? 


 数分後、ラムサスさんが現れたのだが、ラムサスさんの引いて来た物を見て唖然としてしまった。


 ……あれは、……馬車!?

 次回予告

 馬車と共に現れたラムサスさん。

 なぜだかやる気満々のようです。

 父さんに言われて色々な武器を試すジェリド君、ジェリド君の武術の腕前が明らかに?



 次回【ラムサスさん】をお楽しみ下さい。

 次回投稿は2/8の7:00【ラムサスさん】です。

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