第14話 ペットが出来ました。
14話です。
ブラッドリー家にペットが出来ました。
「……ジェリド、本当に神獣をテイムしたのか?」
なぜか父さんが、疲れたような顔をしながらそう聞いてきた。
「……正直僕にもよくわかりません」
「さっき僕らにその神獣を触らせてくれようとしたときは命令した? それともお願い?」
「先程はすみませんでした兄さん。お願いしたんですけど、触れる直前に《やっぱりイヤだ》って……」
「確かに驚いたけど気にしてないから良いよ。それじゃあ今度は命令してみてくれるかな?」
──命令……か──
「父さんと兄さんに頭を撫でさせてあげてリアナ」
《頭を撫でさせるのはイヤよ。神獣としてのプライドにかけて触らせないわ》
「僕には最初から触らせてくれたのに?」
《……あ、あれぇ? ……なんでだろ?》
リアナが露骨に目をそらす。
《なんか撫でて欲しくなったのよ!!》
「なら尻尾なら良い?」
《尻尾はヤダ》
「なら前脚は?」
《前脚なら……》
「じゃあリアナ。父さんと兄さんに前脚を触らせてあげて?」
「ジェリド、一応そこは前脚を差し出して触らせろ。って命令口調で」
「はい兄さん。リアナ前脚を父さんと兄さんに差し出して触らせろ」
《……わかったわよ》
リアナが前脚を出そうとすると、兄さんが待ったをかけた。
「フェンリル……さん? ジェリドの命令に背いて前脚を出さないでくれるかな?」
リアナがなんなのコイツ? という顔をし、(実際に思念波でも言ってきた)前脚を出すのをやめようとし。……結局そのまま差し出した。
「リアナ?」
《……なんかやだ。さっさと触んなさいよ!!》
リアナが更に前脚を前に出し、兄さんと父さんにゆっくり触れるとさっさと下げた。
「アウラ? どういうことだ?」
「テイムされた魔物は、主の命令に逆らうのを嫌うんだ。魔力量に差があれば逆らえないわけじゃないらしいんだけど、逆らうと凄く嫌な気持ちになるらしいんだ。あと、その魔物次第ではその魔物の能力が主に発現することもあるみたいなんだけど……ジェリドなにか変化はある?」
「今のところ特にかわったところはないと思います」
「そうか……でもパスが繋がり意志疎通が出来て命令に逆うことを嫌う。僕はテイマーじゃないから確証はないけど、テイムしたとみて間違いないと思うよ?」
父さんが渋い顔をする。
「……そうか。テイムしてしまったのか。……いや、責めているわけではないんだ。ドラゴニール以外の者が神獣をテイムするなど、恐らく王国史上初めての偉業だ。ただ、さらわれたはずのジェリドを救出に行こうとした矢先、自分をさらった魔獣をテイムして帰ってきて飼わせてくれ。などと言われても理解は出来ても実感がわかなくてな……」
……言われてみればそうだよね。
ラムサスさんと父さんは武装している。僕を助けに行こうとしてくれていたのかもしれない。
そこに僕が僕を誘拐した獣に乗って帰ってきて、この神獣を飼わしてくれ。なんて言われても実感わかないよね?
「あとはこれからどうするかだな」
「どうするかというと?」
「父さんは、戦争の引き金になることを懸念しているんだよ」
「戦争ですか?」
「あぁそうだジェリド。本国は隣国のサンガレット帝国との戦争を検討している。そして私はアルバートの派閥で、彼や私は戦争反対派なんだ」
……なぜそんな話を今? ……そうか、神獣をテイムしたなんてことが戦争肯定派の耳に入れば、肯定派が勢いづく可能性があるということか。
「言わなければ良いんじゃないかな?」
「なにをだ?」
「だから神獣をテイムしたことを言わなければ良いんじゃないかな?」
「……そう言うわけにもいかないだろう?」
「確かに自称神獣は現れたけど、僕らには本当に神獣かどうかはわからない。今わかっているのは、どうやらジェリドが魔獣になつかれたらしいということだけだ」
「……なるほど、確かに腕の良いテイマーは希少ではあるが居ないわけではないし、魔獣をテイムしたからと言って報告の義務はない」
「そしてここは、辺境伯領の更に奥の森を切り開いて出来た開拓村で、隣接している領地はキルヒアイゼン辺境伯領のみしかない半島。他の土地は一番奥まで開拓したとしても全て海にしか繋がらないし、海辺まで開拓が終わるにはまだ何十年もかかる。唯一海まで開拓出来ている西の海岸は、浅瀬で大きな船は通れないし、小さな船も波が強くて出せない」
……なるほど、ブラッドリー子爵領はキルヒアイゼン辺境領から半島のように伸びた土地が領地なのか……それも一番早く海に繋がる所まで開拓するのにまだ2年もかかるほど広大な。
「……そうだな、このことはアルバートにだけ伝えておくことにしよう。
もし本国に知られたとしても、魔獣としか思っていなかったとしらばっくれることはまぁ出来るだろう」
父さんがリアナを見てからこちらを振り向き、少し申し訳無さそうに話し始めようとしたので、先に答えることにした。
「無理を言っているのは僕ですし、リアナを飼う許可を頂けるのであれば、僕がリアナのことを秘密にするのはもちろん構いません」
「本当にいいのか? 神獣のテイムに成功など、王国史に残るかもしれない程の偉業だ。それをわかって言ってくれているのか?」
「史実に残る程という認識はありませんでしたが、リアナの事を公表すれば戦争肯定派が勢いづき、辺境泊や父さんには困ったことになるんですよね?」
「……あぁ、肯定派の者達は必ず神獣を戦力として考え、神獣がついていれば負けることはないと、我々反対派の切り崩しや中立の立場の者への勧誘に使ってくるだろう」
「それなら尚更僕としては言わない方が良いですね。言えば僕らは戦争の道具として、戦争の最前線に派遣されかねないですし」
戦争に連れて行かれるなんてイヤだしね。父さんが言ったように、辺境泊には伝える必要が有るだろうし同じ戦争反対派閥……というか父さんが辺境泊の派閥だからなにも問題ないよね?
「そうか、だが飼うのは良いがどこで飼うつもりだ?」
そうだった……こんな巨体、いったいどこで飼えば良いんだろう?
《そんなの簡単よ》
リアナが突如縮み始めた。
文字通りどんどん体のサイズが縮んでいき、子犬くらいのサイズまで縮んだうえに、凛々しかった顔も子犬のような愛らしい顔にかわって僕の頭に飛び乗った。
なにこれ可愛い。重さもさっきのじゃれてた狼より軽い。
《こっちが本当の姿よ》
「なんで大きくなってたの?」
《この姿だと魔力を感じ取れない熊とか猪に襲われて面倒なんだもん。もちろん襲われても戦闘にすらならないけどね♪》
「……どうやらサイズの問題はなくなったようだな」
「そのようですね。僕の部屋で飼っても良いですか?」
「あぁそうしてくれ。あと大丈夫だとは思うが、怒らせて暴れさせないように十分気をつけてくれ」
「はいわかりました。良かったねリアナ」
《これからよろしくね》
アンアン鳴きながら、父さんと兄さんに器用に前脚を振って挨拶をする。
「フェンリル……リアナこれからよろしく。私の領地の者達に危害をくわえないなら、基本的には文句を言うつもりはない。あと、なにかあればジェリド経由で教えてくれたら良い。では私は行かせてもらうよ? まだ仕事が山積みなんでね」
「じゃあ僕も行くよ。またねジェリド。リアナ」
よし僕らも部屋に……そういえば僕の部屋はどうなったんだろう?
ローラに聞いて……あれ? そういえばローラどこかに飛んでいかなかったっけ?
「ところでローラは今、どこにいるかわかります?」
「ローラなら先程までジェリド様がいた辺りに……」
ソシアさんがローラを探すが姿がない。
やっぱりさっき飛んでたのはローラだったんだ……どこに飛ばされたんだろ?
《……ジェリド……ローラってこの首吊り死体のこと?》
そうだ、リアナに触れていると考えてることとかイメージも伝わるんだった……。
《ローラって子を思い浮かべて出てくるのが首吊り死体とか……ちょっと漏らしちゃったじゃない》
「ちょっ!? 人の頭の上でなんてことを!?」
《冗談よ。……でも危なかったわ。この子なら左後ろの木の上で寝てるよ?》
左後ろの木の上?
言われた方を見ると、ローラが3mくらいの高さにある木の枝に引っかかって逆さ吊りになっていた。
猫ちゃんパンツか……犬なのに猫ちゃんパンツなんだ?
ペチン ペチン ペチン
リアナに尻尾で叩かれた。
《女の子の下着を覗かない》
「なにも着てないのにそんなこと気にするんだ?」
「なにか言われましたか? ジェリド様」
「あそこの木の上にローラが引っかかってるみたいなんですが……」
「あぁ、あそこですか」
そういうとソシアさんは、空中を足場にして、まるで階段を上るかのように平然と歩いて上っていき、ローラを担いで戻ってきた。
《……ジェリド、なんであの女浮いてるの?》
「あれは結界を張ってその上を歩いているんだ」
《……喋らなくても聞こえるよ?》
「内緒話するとき意外は声に出すことにしたから」
《なんで?》
「コソコソしてるみたいでなんかやだ」
《まぁどうでも良いけどね♪》
「ソシアさん、ローラは大丈夫でしたか?」
「はい。気絶しているのではなく寝ているだけみたいです。大方木に引っかかって降りられず、諦めて寝たのでしょう」
さすがはローラ……たくましいな。
でも寝ているなら起こすのは悪いかな?
ソシアさんが地上に着くと、おもむろに肩に担いだままのローラの鼻と口を無表情で塞いだ。
……5秒……10秒……15秒……20秒……ローラが痙攣しだす。……25秒……ソシアさんの腕を掴むが離れない……30秒……両手両足が滅茶苦茶に動き……弱くなった頃手を離す……
「ぶぜふぁあぁぁぁ……はぁはぁはぁはぁ……」
ローラが女の子としてはマズいだろ!? っという顔と声と共に蘇生した。
口と鼻はヨダレと鼻水だらけで、目には涙が滲んでいる。
ソシアさんがローラの顔をハンカチで拭きながら、地面に足を下ろさせる。
「ローラさん、目が覚めましたか?」
「おはようございますですメイド長。メイド長が木の上から助けてくれたですか?」
「そうです。恐くありませんでしたか?」
「ありがとうなのですメイド長。メイド長はやっぱり天使なの」
確かに木からは助けたけど、その後は殺すつもりかと思った。
《……あれ絶対無表情で殺そうとしてたよね?》
「……僕もそう思った……」
《……あのメイドに逆らうのはやめよう。ご飯に平気で毒とか入れそう……》
「……当然のようにご飯貰う気なんだね」
《飼うならご飯は当然よ》
「ペット扱いは良いんだ?」
《ペットじゃなくて同居だもん》
リアナって微妙なプライド持ってるよなぁ……。
《微妙なとはなによ!!》
(脳内の独り言を勝手に読んで反応するな)
「ローラ、もう大丈夫?」
「大丈夫だよ?」
「部屋の準備ってもう出来てるの?」
「もう大丈夫だよ? それよりその子犬は?」
「これから飼う事になったリアナだ」
「犬小屋はいる?」
《犬小屋!? ……神獣の私が……フェンリルの私に犬小屋……》
リアナがなんか落ち込んでる。
「犬小屋はなくても良いよ」
「じゃあ部屋に案内するね」
「……部屋というより、屋敷の中の案内をいい加減してくれないかな? 昨日からローラはずっと吊されたりで、未だに案内されてないんだけど?」
「そうだった? なら今から案内するね」
ブラッドリー子爵領到着2日目の夕方、ようやく屋敷を案内されるのであった。
3話使ったリアナ登場パートも終了です。
次回から少しジェリド勉強パートに入ります。
お気付きの方もいたかもしれませんが、この小説って実は未だに主人公のいる国の名前すら出てなかったんですよね……。
それがようやく……ようやく明らかになります。
次回【四大公爵家】ぜひお読み下さい。
PS
初感想に初評価とても嬉しかったです。
これからも頑張ります。
更新予定は2/1の07:00【四大公爵家】です。