拳銃と魔法とバイトと
初投稿です。つたない文章で読みにくいですが不定期ながらアップロードさせて頂きます。よろしければ、お付き合いよろしくお願いします。
「ぐぁっ!」
獣の一薙ぎによって殿をしていた男の体が弾け飛ぶ。
「グレイス!」
「振り返るな、バイト君!走れ!」
今すぐあの獣に立ち向かったら、あの獣を何とかできればグレイスはまだ助かるかもしれない。
だか、立ち止まろうとするコウジを赤い帽子の男が大声で嗜める。
「クソッ、荷物運びの簡単な仕事じゃなかったのかよ。バイト君、死ぬんじゃないぞ!」
……やっぱり、楽に大金を稼げるバイトなんて無かったんだ。
自分の愚かさに、死ぬかもしれない状況に陥ってやっと今気付いた。
「あー、いいバイトって無いもんだよなぁ」
青年はだらけきっていた。やることも無く、夏の暑さにやられてだらけきっていた。紀伊浩二、20歳。身長169cmと高くもなく低くもなく、高校生の時に陸上部の槍投げで鍛えた筋肉を維持しているだけのしがない大学生である。趣味でフルメタルの電動ガンを持って走り回ったり、撃ち合ったりするサバイバルゲームの為に鍛えているといっても過言ではない。
(成人してから金遣いが荒くなったな…)
朝から居間で求人情報の載った雑誌をめくりながら改めてそう思う。19歳迄はそれほど金を使う事は無かった。それこそ、サバイバルゲームの装備を揃えるだけだった。だが、20歳になると、行っても良い事が増える。成人になったその途端、入学から貯金していた25万円が酒や遊びでみるみる無くなっていったのは痛い思い出だ。おかげで普段着と呼べるものは今着ている愛用のジャージとジーンズパンツが1着。適当な服が数えるほど服しかない。それほどまでに金がなかった。元々楽しい事にしか興味が無い彼は自分の趣味には金を思わなかった。
現在は焼き鳥屋のバイトをしてい時給950円で月でだいたい1ヶ月で67,000円程稼げる。しかし、そこから学費、食費、家賃光熱費など諸々を差し引くと雀の涙ほどの金額しか残らない。
要するに、遊ぶ金がないのでもっと時給の良いバイトをしたいのだ……が、そんなもの見つかるはずがない。
そもそも、そんな良いバイトがあったら初めから就いているというものだ。
「やっぱ、そんな旨い話があるわけねぇわな。」
ため息をつき、立ち上がって朝刊を取りに集合玄関に新聞を取りに行く事にする。
いつも通りにポストの鍵を開け内容物を取り出すと、いつも通り新聞紙と幾枚かのチラシが放り込まれていた。マンションの一室の購入や、怪しいカルト宗教のお誘いのチラシ、そんな中に初めて見る類の1枚を見つけた。どうやら求人チラシのようだ。どれどれ、時給10万か。……10万!?目を丸くして二度見をする。
[急募!!バイト募集。日給10万xx~20万xx]
ご応募ありがとうございます!担当のノエです!現在も人員不足で困っております!この間お話しした通り仕事の内容は簡単な内容となっており、短期で…
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……とても怪しい、怪しすぎる。
こんな会社あってたまるか。それにこんな紙を送るよう頼んだ覚えもない。そもそも、可笑しすぎるではないか。10万~20万という決まっていないざっくりとした給与。それに1日で10万も手に入るのであれば何だって出来る自信がある。
「あほらし、読んでられっかよ。」
その場で破り捨ててやろうと思ったが、少し気になるので取り敢えずチラシはズボンの放り込んでおく。何でもポッケに入れる悪い癖だ。このバイト、確かに怪しいのは怪しいがこれ程の給与で働いたらどれ程遊んでいられるだろう。それを考えると妙に酩酊感を感じる。妄想に酔ったのから目の前がクラクラしてきて…意識を失った。
この時、お金に目がくらんで思ってしまっていた。
冗談半分にでもやりたいと、思ってしまっていた。
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…です。是非、私達と仕事をしましょう!
[募集要項]
誰でも採用
[採用条件]
やりたいと思ったらその場で採用
[注意事項]
絶命の危険あり
んで、今に至るわけだが。全く状況が読み込めない。なぜ酒場でジャージを着て棒立ちしている。隣の椅子で中年の男が豆鉄砲を食らったような目で見つめてきているが、そんな事は今は関係ない。状況を整理するのが先決だ。今いる酒場の雰囲気はどこかで見たようなバーの造り。そうだ、海外のドラマでこんなのを見た気がする。見つめてきた男に目をやろうと振り向いたと同時に、隣に座っていた男が立ち上がって何かを腰から引き抜いた。
その右手には1丁のリボルバー銃が収まっていた。
「おおお、おっさん、それ本物なのか!?」
咄嗟に声が出てしまった。男は俺の声に一瞬身体を強ばらせると、低く太い声で答えた。
「あ、あぁ。本物だが、お前今のどこから出てきた?何もねぇ所に急に出てきやがったよな?お前、もしや魔法使いの仲間か?」
「ま、魔法使い!?」
言ってる訳が分からず助けを求めようと、周りを見渡す。気が付かなかったが男以外にも酒場には多くの人間がいた。だが、全員が全員俺を殺す目で睨みつけている。カウンターの向こうのマスターでさえだ。
だが、どういう事かさっぱり理解できていない。魔法使いなんて存在はファンタジー過ぎて信じられんが、銃を向けられているこの状況は理解せざるを得ない。どうにかこの状況を打開出来る方法は無いか考える。思い出せ、思い出せ。この直前にしていた事は、チラシを見ていて…そうだ!バイトの紙に名前は確か担当の名前が書いていたはず!思い出せ、考えろ名前は確か。
「…ノエ」
「は?」
お互いに目を離さない緊迫とした空気に男の間抜けな声が響く。
「そうだ!俺はノエって奴に用があるんだ!証拠だってほら、このチラシに書いてある!」
ポケットからチラシを取り出す。悪い癖がここで役に立ったなと複雑な気分になるが関係ない。
俺の手から銃をしまった右手でチラシを奪うようにして確認する男は、確かにそう書いてあるな。と呟き、続けてこう言った。
「もし本当なら取り敢えずノエの所に案内してやるよ」
「ホントか!?おっさん!」
これは思ってもいなかった。僥倖、これで少しはマシな状況になる。上を見上げてノエとかいう奴と会ったら話をして……
「ホントなら、な。だからさ、兄ちゃん。」
思考に男の横槍が入る、何を言われるのか待つと続けて男は言い放った。
「いっぺん、死んどけや」
いつの間にか彼の左手には銃が握られていた。非常識に巻き込まれすぎて思考がショートしかかっていたのか、世界がスローモーションになる。その握っているものが形状的がシグP226に似ているなと思ったと同時に
パンッ!
乾いた銃声が鳴り響いた。