第七話 竜王
竜の里、そこは竜王が治める地。
入り口を強力な結界が守り、他の種族から一切の干渉受けない不可侵領域。
魔族にも匹敵する竜の力は歴史の中で度々その姿を見せた。
始まりは創世記、アガルリア戦役、人魔大戦、幾度となくその強大な力で活躍を見せるが、現竜王ラスーンに変ったのを境に歴史からその姿を消した。
「お前が噂の『涙の勇者』か。強いんだってな?」
現竜王ラスーン・ドルファンが王座から値踏みするかのような目を向ける。
銀髪の長い髪をたらし、ゆったりとした灰色の袈裟が体を覆う姿は壮年男のそれだが、溢れる魔力が物語るのは百年を越えたドラゴン。
どうやら日和見したわけではないらしい。
噂に聞く先代竜王と比較してもその実力に遜色はないようだ。
「先程、話した件についてご助力願いたい」
「竜族は魔族に劣らず、戦いが好きだぁ……ゆえに強者の弁しか聞かぬ」
竜族も戦闘バカの類らしい。
嫌いじゃないぜ、そういうの。
竜王が立ち上がるのを見て、俺は剣に手をかけた。
お互いの魔力と闘気が膨れ上がる。
その力に当てられ壁にピシピシとヒビが走った。
壁の一部が剥がれ落ちたとき、竜王が吼える。
竜の咆哮、竜族のみが使える竜魔法。
闘気をのせた指向性の魔力の塊が襲う。
それを剣で裂く、切り裂かれた魔力は左右に分かれ爆発と共に地面を破壊した。
さすがだな、竜王の名に恥じない一撃だ。
ただし、これは陽動の攻撃。
すでに目の前まで距離を詰める竜王。
竜王から放たれた拳を剣で受け止めるが、勢いを殺しきれず吹き飛ばされてしまう。
とっさに態勢を整え、着地する。
地面が抉れ、砂煙があがった。
砂煙をあげた場所にはもう俺はいない。
そう、竜王の頭上高くから闘気を纏った剣を振り下ろす。
魔人クラスであれば消し炭になるほどの一撃だ。
竜王もそれを竜腕で受け止める。
力と力がぶつかり合い、衝突した力は衝撃となって周囲へ飛散する。
力の均衡が崩れたときお互い後ろに飛び、距離をとる。
俺と竜王は互いに距離をとり、睨みあう。
次の一手を撃つ機を伺う。
先に動いたのは竜王だった。
剣と拳が衝突する、轟音が走り溢れた魔力が霧になってあたりを包み込む。
霧が晴れ、現われた竜王の顔に笑みが浮かぶ。
「噂通り、お前つえーな」
「お前こそ」
お互い目を合わせ笑う。
強者は強者に惹かれるものだ。
竜王は床にドカッと老竜酒をおく。
二カッと笑いを浮かべる。
「まずはコイツからだ」
「望むところだ」
―――2週間後。
崖の上から魔王軍がエルフ公国領土、大森林を見下ろす。
最高司令官マリアを筆頭に魔王4帝のうち3帝が続く、そしてその後ろには20万を越える軍勢。
魔王であるマリアが前線にいることで軍の士気は異常といえるほどに高い。
「目指すは、『世界樹』! 私に続けぇ―――!」
「「「おおおおおお」」」
地響きのような呼応が大地に響き渡った。
そして、魔王軍20万軍勢のエルフ公国への進撃が始まる。