第三十二話 マリアと笑顔
化け物の肉から生まれた男は、およそ一個人では溜め込むことの出来ないほどの魔力。
魔力災害級の魔力を、その身に纏っていた。
『はっはははははは――ッ』
笑う姿は、とても歪で不気味さをも伴う。
笑い声をあげる、男の肉体が歪む。
あげた腕は崩れ落ち、また再生を繰り返す。
体のあちらこちらで、そんなことが起きていた。
「これは、もしかしたら……」
「マモン何か知っているのか?」
「断定はできませんが、神の肉ではないかと」
「……神の肉?」
「神がこの世界に顕現する為には受肉する必要があります。前回、顕現したのは1000年、その時の肉が何らかの理由で残っていたとすれば……」
「つまり、その神の肉というやつがコレか」
「はい。しかし、それは古の文献にでてくる程度の物、この目で見るのは初めてで……」
なるほど。神の肉というやつであれば、この桁違いの魔力にも納得がいく。
それがどういうわけか、このタイミングで出てきた……これは完全にあの王の仕業だろ。
制御できると思って、動かしてみたところ暴走状態になった。って、ところか。
本当にアイツラは、俺をイラつかせるのが上手い。
まぁ、いい。神の肉だかなんだか、知らないが。
邪魔をするというのなら、上等だ。目の前に立ち塞がるもの全て潰すまでだ。
『はっははッ、これが力ッ! すゴい、すごいゾッ。今だったら何でもデキる気ガすル!』
男が叫び声をあげる。
神の肉と言う割には、やけに人間臭いやつだ。
『ん……? そコにいルやツは?』
その男と目が合う。ヤツの魔力が活発に動きだす。
これは攻撃の予兆だ。
ヤツは、俺に目がけて腕を振るう。
その腕から放たれた魔力が質量を伴って襲い掛かってきた。
町一つなら消してしまえそうな程の魔力。
その塊に向かって、闘気を乗せた剣を振るう。
ゴオオオオッ
魔力の塊と、俺が放った剣撃が激しくぶつかり合う。
それは、轟音を戦場に響かせ爆発した。
荒狂う衝撃波が周囲を撫でる。
『アあアッ……?』
ヤツは、不愉快そうに表情を歪める。
『オ前ハ、おマエはっ、オマエさえいなケればっ!』
ん? 俺のことを言っているのか。
初対面のヤツに、殺意を向けられたことは何度もあるが。
こんな化け物に知り合いなどいないし、ましてや殺意を向けられる理由がわからない。
だからといって、ここで引くなどありえない。
それが桁違いな魔力を持った化け物だったとしても。
剣を握る手に力を込める。
次にあの化け物が動いた瞬間、この剣を叩き込んでやる。
ふと、マリアが俺の袖をひく。
振り向いて顔を見ると、何か言いたそうだ。
「……どうした?」
「私も一緒に」
――ああ、そうだ。また、俺は一人でやろうとしていた。
前のパーティーで裏切られてからは、いつも一人で行動してしまうクセがついてしまった。
今は、マリアにマモン、それに魔王軍のやつらだっている。
これは俺のワガママだといって、そこまで片意地を張らなくてもいいのかもしれない。
「ああ、マリア。一緒に倒そう」
「うん」
マリアの浮かべた笑顔は戦場に不釣合いなほど、眩しくて。
魔王と呼ぶには、あまりにも純真だった。




