第三話 王族の嘘
かつて、ロスティニアは大きな代償を支払い、勇者を召喚した。
勇者と共に魔王と戦い、死闘の末にこれに勝利する。
魔王の宝珠を持ち帰ったロスティニアはその力で王国を建国した。
ロスティニア王国建国記よりより抜粋。
俺は今、アモンが用意してくれた転移扉を使って王都にきている。
そう、此処こそが俺を勇者召喚で呼びだしたロスティニア王国だ。
大陸の西に位置するロスティニア王国は初代ロスティニアが魔王討伐後に興した国で、現王ロスティニア三世が治めている。
西方のロスティニア、東方のアルスと大陸における二大王国の片翼だ。
その城下町にある『ランス武具店』店主のオヤジを尋ねてきた。
「聞いたぞ、お前も大変だったな」
カウンター越しに話しかける、40代の日焼けした偉丈夫がここの店主ラウニー。
武具店の店主というよりも、歴戦の戦士を思わせるその風貌に似合わずカラッとした笑顔が印象的だ。
こんな所まで俺の噂は届いているみたいだ。
噂話の「捨てられた勇者」といえば俺のことを指すらしい。
目下、嘲笑の対象らしいが。
「で、わざわざ俺のとこに尋ねてくるなんて聞きたいことがあるんだろ?」
さすがオヤジ察しがいい、話が早くて助かる。
「ああ、実はあることをお願いしたい……」
俺の一通り説明し終わると、オヤジは口角をあげた。
「ほう、それはおもしろそうだな」
◇◆◇
王城正門前。
「これ以上は許可なく進むことはできぬ」
正門前の屈強な兵士二人が立ちはだかる。
兵士の一人が俺の顔を見て何か気がついたようだ。
その顔をニヤリと嘲笑の笑みを浮かべる。
「これはこれは、『捨てられた勇者』さまではないですか。今日は王様に懇願でもしにきたのか?」
「おいおい、それ以上言うと勇者さまが泣いてしまわれるぞ」
「それもそうだな、ガッハハハ」
兵士の二人は声を立てて笑った。
その下品な笑い声が、俺の中にあるドス黒い感情を刺激する。
剣を抜き、一閃、兵士の両腕を切り落とす。
「えっ? がっああああああああああ」
さらにもう一人の兵士の両脚を切り落とした。
「ぐあっあああああっ」
醜い声をあげて二人の兵士は地面に倒れた。
夥しい血が噴出し、あたりを血に染め兵士はその命を落とした。
そのまま正門を押し通り、王城へ向かう。
進むうちに兵士や騎士を見かけたが、剣を抜いた俺の姿を見ると遠巻きにいるだけで誰も止めに入ることはなかった。
王座の間。
絢爛豪華に飾りつけされたその場所で、王と宰相があからさまに不機嫌そうにいた。
それを守るように左右3人づつの騎士が立つ。
「何しにきた、勇者よ。無礼ではないか」
宰相が王の横で俺を弾糾する。
初老を過ぎたであろう宰相のその表情には恐怖色が伺える。
「よい、宰相。して、何用じゃ」
王座に深く腰掛けた男が手をヒラヒラと動かして宰相を止める。
60代の容姿に小太り、白いヒゲをはやす王様候のこの男こそが現王ロスティニア三世だ。
ロスティニア三世は顎をさすり、王座から俺を見下す。
「何人目だ……俺で、何人目なんだ?」
ロスティニア三世を鋭く見据え、低い声で問う。
俺の言った意図がわかったのか、王は汗をにじまし、王は宰相に目配せをする。
やはり、国家ぐるみか。
俺は王の傍まで間合いを詰め、剣を下から上へ振り切った。
ロスティニア三世の右腕は空に舞う。
周りからすればほんの1秒にも満たない出来事だろう。
現に守護する立場にいる騎士たちがまるで反応できていないでいる。
「ぐっ、ぎゃっああああああっ」
少し遅れてロスティニア三世の悲鳴があがる。
王の悲鳴にその場にいた騎士がようやく剣を抜いた。
遅い、遅すぎるぞ。
襲い掛かってきた騎士たちを撫で切る。
流れるように6人切り終えたところで、俺に立ちはだかる者はいなくなった。
ロスティニア三世は痛みに苦悶を浮かべながら、蹲っている。
その、そばに近寄り耳傍で俺は呟く、
ゆっくりと低い声で。
「これは始まりだ。お前達の嘘はもう終わりだ」