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第二十九話 異形の化け物


 その名を呼ぶことなかれ。


 その者を見ることなかれ。


 その者にふれることなかれ。


 その者は厄災なり、破壊なり、死なり。


 ここに、全てを忘れる者なり。



         大賢者グレイク・アーレス手記より。








 【ローレンス視点】




 異形の者があらわれるより、少し前の王城地下。




「それは初代ロスティニアまで遡る……」



 王は重々しく開いた口を閉じ、


 少し間をもって、もう一度その口を開いた。



「歴史書では、初代ロスティニアが魔王を討伐し、ここに王国を興したとなっているがそれは事実ではない」



 初代ロスティニアが魔王を討伐する話は、この王国では子どもまで知っている有名な話だ。

演劇や絵本にもなっており、多くの民に今も親しまれている。


 それが嘘だったと……!?



「お父様っ、それは本当……なのですか?」



 事実を告げられたライラも驚きを隠せない。


 王はライラの問いに頷くと、後ろのアレに目を向けた。

それは忌々しいものに向けるものだ。



「本題はそこではない。この異形の怪物こそが全ての始まりだ」



 言っている内容が、突飛過ぎて現実感が薄い。

それでも尚、王の言葉は続く。



「初代ロスティニアが魔王と戦ったのは事実だが、討伐はしていない……というよりも出来なかったと言ったほうが正しいか。当時、優勢だった魔王側が何故か手をひいたのだ。その後、初代ロスティニアとこの異形の怪物と出会う。どこでどう出会ってしまったのかは文献にも残っていないのでわからないが。とにかくこの化け物と出会ってしまったのだ……」



 王がつくる重い空気に、ここにいる誰も口を挟めないでいた。



「この化け物の力は、あまりにも強大すぎた、到底、倒すことが出来ないと判断した初代ロスティニアは、大賢者グレイクアーレスの禁断魔法によって封印することにした。七日七晩の戦いの末に、大賢者グレイクアーレスの今と、これからの未来に得るだろうすべての魔力と引き換えに封印は成功した」



 王は、亡くした腕の傷口を包帯の上からさする。

その顔は、苦虫を潰したかのように渋い。



「 この地は元々、作物も育たぬ不毛の大地だったが、化け物の封印してからは魔力に溢れ、希少な鉱物が多くとれる肥沃の大地に変ったのだ。その原因はわからぬが。そして、この地に町をつくったのが、ロスティニア王国のはじまり。と、同時に悪夢のはじまりでもある……」



 俺は、語られた話の重さに唾を飲み込む。


 それにしても、何故、こんな時にこの話をわざわざ話したりするのだ?

王都の外では、今まさに王国軍と魔王軍が衝突しているというのに。



「この地は肥沃な大地になり、町は多いに繁栄した。しかし、化け物を封印する結界を維持するには膨大な魔力が必要だった。結界を維持する為に大賢者グレイクアーレスはある方法をとった、『失われた時代』の魔法である、異世界召喚。その際に生まれる膨大な力を転用したのだ。それから、今まで王国が行なった異世界召喚は失敗も含め、ゆうに37回……それも、もう必要なくなる」



 突然、背後に回った護衛の王国騎士団二人が俺の肩と腕を押さえる。


 王が俺の傍に寄り、持っている刃物で腹部を刺す。


 ライラの悲鳴があがり、俺はその場にうつぶせで倒れた。


 腹の傷から血が床に流れ、それが頬まで流れついた。

生温い感触が不快感を煽る。



 王に刺されたのか? でも、一体なぜ?



 疑問が頭の中をグルグルと駆け回る。



 傷口の熱さが痛みに変り、全身を突き抜けた。

襲ってくる痛みに呻き声を漏らす。



「ここにいる宰相が、この異形の化け物を操る魔法の開発に成功したのだ」



 俺が倒れている床に幾何学模様の魔法陣が展開され始める。

流れ出た血が、その陣へ吸い込まれてゆくのが見えた。


 血を流しすぎたせいか。

 

 体温が下がり、ガタガタと震える身体。それを抱え痛みに耐える。



「それには、勇者の血が必要でな……お前の血では召喚された勇者には及ばないが、それでもこの化け物を制御するには十分だろう」



 王が両腕を掲げる。右手につけているブレスレットが禍々しい光を放った。

それに応えるように地響きがおこる。



「おお、……」



 痛みに耐えながらも、首だけ動かして異形の化け物を見上げる。


 硬く閉じられていた三つの目が徐々に開いていく。

パラパラと破片が落ち、完全にその目が開かれると、目に真っ赤な光が宿った。



 ゴッゴゴゴゴゴッ……。



 揺れが激しくなり、天井から瓦礫が落ちる。



「ついに、やったか……これで全てが我が物に」



 意識が徐々に希薄になる。

すでに視界を失い、痛みすらも消えていた。



「こっ、これは……陛下お逃げくださいっ!」



「おっ、お父様っ!」



「くっ……」



「陛下っ、お急ぎください。崩れますっ!」




 俺は、意識の手綱を手放した……。






 ◇◆◇






 王城が崩れ去り、中から現われた異形の化け物。

その大きさは、王城に匹敵するような大きさだった。


 なんとか人型を保っているものの、人と呼ぶには程遠い姿。

黒いその肌は、見る者に禍々しい印象を与える。


 三つあるその目には、赤黒い光が宿っていた。

歪に歪んだその口が、ゆっくりと開く。


 それは口が裂けるように広がりをみせ、耳元近くまで開いた。



 『ゴォオオオオオオオオオオオッ』



 生物のような、それでいて金属音な不気味な咆哮が響き渡る。

王国軍、魔王軍の兵がその異形の化け物を見上げた。

見上げる表情は、驚愕はたまた、恐怖といったそれだ。


 さすがに、これには俺も驚いた。

王国側の兵器かと思ったが、王城を破壊して姿を現わした所をみるとそうではないらしい。


もう一度、異形の化け物は口を開く。


 開かれた口に周囲から魔力が集まる。

無差別に集められた魔力がドス黒い球体をつくりだした。



 ドゴッ。



 鈍い音と共に、黒い球体から放たれる一直線の光線。


それは城下街、外壁、軍を次々と焼き払う。

焼き払われた跡には深い溝が刻まれていた。


 その攻撃に敵、味方あったもんじゃない。完全に暴走状態のようだ。


 この破壊力を鑑みても、このまま放っておけない。

魔王軍が王国を落とすのと、どこからか、あらわれた化け物が落とすのでは、その意味合いがまったく変ってくるからだ。


 それに横槍を入れられるのが、単純に気に入らない。

これは、俺がやり始めたことだ。


 わけのわからないヤツに邪魔されてたまるか。


 即座に飛翔魔法を発動させて、異形の化け物の元へ駆ける。

その後を、マリア、マモンが続いた。





 

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