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第二十八話 鬼族

「お前が鬼族というやつか?」



 俺は薄く笑みを浮かべ、あえて挑発するかのように問う。



「オラは、誇り高き鬼族が頭領。バーズずら」



 三メートルは越えるであろう体躯、それに隆起した筋肉の鎧が覆う。



「で、その誇り高き鬼族とやらが。この戦争になんの用だ?」



「人間や魔族の争いなど興味はない。しかし、これは鬼族の未来の為ずら」



「大方、王国が投げたエサに飛びついた。そんなところだろう、誇り高い鬼族が聞いて呆れる。そこいらの飼い犬とかわらねぇーよ」



「っ……キサマァ、鬼族を愚弄するでねぇずらっ」



 プルプルと、その巨大な体を震わせる。


 ふむ、もう一押しといったところだろうか。



「ほらっ、こいよ」



 剣先を向けて、クルクルと回す。

顔を真っ赤にした鬼野郎は、戦棍を振りかぶって突進し始める。


 速さだけは常人を越えたものだが、怒りにまかせた攻撃だ。戦術もクソもない。


 俺の安っぽい挑発で頭に血が上った鬼野郎の攻撃は読みやすかった。

フェイントなどの裏をかくものはなく、直線的な打撃ばかりだ。


 ただ、体躯の良い見た目通り、その一撃、一撃が重い。

剣に闘気を纏わせていなければ、最初の一撃で粉々にされていただろう。


 だが、闘気を破る程の攻撃ではない。


 後方で今にも攻撃しそうにしているマリアに目で合図をだした。

俺の意図を理解したのか、少し不服そうに頷き返す。


 マリアを手にかけようとしたのだ、ここは俺がやる。

そうでなければ、マリアの横にいる意味がない。


  踏み込み、鬼野郎に下から上へ孤を描くように切りつける。

踏みつけられた地面は割れ、切り上げられた剣は空気の壁を破り二つの爆発音を鳴らす。


 音速を超えた剣は鬼野郎の肩口を切り裂き、鮮血をあげる。

間一髪、致命傷を避けた鬼野郎は、口を大きく開き火球を吐く。


 五メートル級の火球が迫る。

どうやら、こちらの世界の鬼は火を吹くらしい。


 迫る火球を剣で切り防ぐ。真っ二つに分かれた火球が、左右後方へと着弾した。

着弾した場所にいた王国軍と、魔王軍の両兵を巻き込み燃え上がる。


 当の鬼野郎はというと、火球を吐いたその際に、後方へと飛び距離をとっていたようだ。

鬼族の頭領と名乗るだけあって、そこそこ実力はあるみたいだな。




「ぐっああああああっ―――っ」




 魔獣のような咆哮をあげて再度、突進してくる鬼野郎。先ほどよりも早い。


 鬼野郎に対して腰を落とし、重心を低く、剣を引き絞るように構え、


 出口を絞って、水圧をあげるイメージで闘気を練り上げる。


 硬度のあがった闘気が全身を包み込む。


 目の前まで迫った鬼野郎が、戦棍を振り下ろす。


 それを迎え撃つ形で、横の一閃。


 戦棍を剣が捉える。


 お互いの圧と圧がぶつかり合う。


 一瞬の均衡後、剣線が戦棍ごと鬼野郎の体を走る。

幾許かの間を置いて、鬼野郎の上半身と下半身が分かれ落ちた。


 さて、残りの鬼族を皆殺しにするか。




 ―――ザッ――ザザッ。



 突然、ノイズが頭の中に響く。

そして、体中に走る強烈な違和感。


 俺だけに、聞こえたわけじゃないらしい。


 周囲を見渡してみると、鬼族や魔王軍の兵達も一様にキョロキョロとした様子。

マリアに目を向けると、目が合う。考えていることは同じみたいだ。


  王城の上空に巨大な魔方陣が浮かぶ。


 

 複雑に組まれたそれは、現在使われている魔法陣よりも型式が古い。

実際には見た事がないが、『失われた時代』のものか。


 魔方陣に集まる魔力が桁違いだ。

王国の魔術師を、全員集めたってこんな陣は組めない。



 違和感を感じてから、五感が危険信号を鳴らし続ける。


  地面から幾つもの黒い魔力……。


 いや、魔力よりも、もっと質量のあるモノがあちらこちらに立ち昇る。

黒いソレは触手のようにクネクネと動き出した。かなりの数だ。


 これは、やばい。


 危険信号が最大のアラートを鳴らす。

咄嗟に、マリアの傍に寄る。



「マリアッ」



「うん、これは少しまずいかも」



「何か、知ってるのか?」



「ううん、わからない。だけど、この感じすごく嫌」



 マモンとバアルも、駆けつけてきた。

パイモンは戦闘に夢中になり過ぎて、気がついていないらしい。

今も絶賛、鬼族と王国兵相手に大暴れ中だ。


 クネクネと動いていた黒い触手が一斉に動きを見せる。

それは捕食するかのように兵士達を襲う。


 黒い触手は兵に絡みつくと、何かを吸いとるように脈動をみせた。

兵は抵抗するが、黒い触手からは逃れられない。


 やがて、何かを吸いとり尽くした黒い触手は兵から離れる。

兵の体は、骨と皮だけのミイラのようになっていた。



 ――生気でもすっているのか?



「……こっ、これは」



 口を開いたマモンが、即座に結界魔法を発動させる。

幾重にも組まれた魔法陣が形成する、強力な結界が黒い触手の侵攻を防ぐ。


 王都上空に広がった魔法陣がその輝きを増す。

黒い触手が何かを吸いとる度に、その魔力が増えていく。


 魔方陣に集まった魔力総量は、すでに異次元の域に達している。

そして、魔法陣が閃光を放つ。


 ドクンッと、鼓動のような衝撃波が魔方陣を中心に生まれた。

それが合図だったかのように王城が崩れ、砂煙が周囲を覆う。



 その中から、王城にも匹敵するような巨大な異形の者がその姿をあらわした。


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