第二十五話 決戦開始4
あれだけ憎かったパーティーメンバーを目の前にして、少し違和感を感じる。
俺の中にあったのは、激しい怒りではなく冷たい憎しみだったからだ。
燃え滾っていた怒りが昇華して、憎しみに固定されたのだろうか。
激しく刃をぶつけ合ったまま、睨み合う。
お互いの力の余波が衝突し、パチパチと弾けた。
リサが身に纏う殺気は本物だ、完全に俺を殺す気で来ている。
向こうがせっかく、その気で来ているんだ。
フッ、上等だ。やってやるよ!
ぶつけ合う刃を離し、お互いに距離をとる。
間合いギリギリといったところだ。
リサが使う獲物は、戦斧。
連続した攻撃よりも、高い攻撃力を生かした一撃必殺を得意とする武器だ。
自身の魔力を纏わせ、振るう一撃は己の命をのせればのせるほど重くなる。
一回、一回が致命傷を与えるつもりで撃ってくるだろう。
いや、次の一撃で決める気かもしれない。
対して、俺の武器は剣。
どうって言うこともない、その辺にあるような平凡な剣だ。
そこに闘気を纏わせることで、平凡な剣は神話級の武器へと変る。
この闘気を扱う奴は、俺以外にまだ見た事がない。
歴史上の英雄で使えたやつはいたらしいが、いても一人か二人だ。
その闘気を纏わせた剣はそれこそ、エクスカリバーやムラマサと呼ばれる伝説上の武器と同格以上に。
耐久力も何もかも、リサの持つ戦斧を超えるだろう。
戦斧を構えるリサを見据え、闘気を練る。
過剰に溢れた闘気を剣へ纏わせた。
俺の闘気とリサの魔力が間合いの境界を抉る。
境界に近い小石が浮かび、粉々に弾けた。
睨み合い、タイミングを伺う。
ジリジリと俺の闘気が徐々にリサの魔力を押し始める。
次の瞬間、リサの重心が前へと動く。
「はあっあああああああっ!」
地面を蹴り上げ、間合いを詰める。
今、まさに高く振り上げられたリサの攻撃を剣で迎え撃つ。
研ぎ澄まされた視覚、聴覚、が周囲の動きをスローモーションに見せた。
闘気と魔力がうねり、竜巻のように風を巻き上げる。
剣と戦斧がぶつかるであろうその場所に向かって、上空から巨大な力の塊が隕石が如く落ちてきた。
とっさに剣の軌道を変えて、後ろに避ける。
無理やり軌道を変えた反動か、少し体が軋みをあげる。
落下してきた、高密度の魔力を纏うそれは地面に着陸し、大きな砂煙をあげた。
砂煙が徐々に晴れ、姿が浮かぶ。
高密度の魔力を纏うそれは、マリアだった。
かろうじて避けたであろうリサの前に立つマリアは今まで見た事がないような怒気を放っていた。
有無を言わさぬ勢いで、リサに向かって魔力の篭った蹴りを打ち込む。
凄まじい勢いで放たれた蹴りをリサは左腕で受け止める。
骨が砕ける音、肉が爆ぜる音と共に地面に膝をついた。
蹴りを受けた腕は血に染まり、だらりと垂れ下がる。
腕だけではなく、脇腹にもダメージがあったらしく流血していた。
その前に立つマリアが口を開く。
「お前が、マコトをいじめたヤツかっ!」
戦場の中、凛としていて、そして力強いマリアの声が響き渡った。




