第二十一話 ローレンスとライラ
【ローレンス視点】
クソッ、どうしてこんな状況になったんだ。
神託を受けて勇者になったのに何故だ? 華々しい人生が待っていたのではないのか。
私は大貴族だぞ! 何故、こんな寂れた宿なんかに泊まっているのだ。
これもそれも、全てあのマコトという男のせいだ。クソッ忌々しい。
このワインだってそうだ、凡そ貴族である私が飲むに値しない代物だ。
が、しかし今はこれしかないのだから、我慢してやるが。
くっう。なんて安っぽい味だろうか。風味もあったもんじゃない。
荒っぽく置いた木製のコップにライラが甲斐甲斐しく安ワインを注ぐ。
「ロレンスさま、そんなに飲んでは体にさわりますよ」
「っ・・・・・・」
注がれた安ワインを一気に流し込む。
私が新しい勇者に選ばれ、あの何の才能もないマコトにとって変って世界を救うハズだったのに。
そして、ライラを娶り王国を継ぐ輝かしい未来が待っていると思っていたのに
それがどうだ? 思っていた道とはまったく違う方向に進んでいるじゃないか。
アイツが魔王と結託したばかりにステラを失い、行く先々では無能の勇者扱いを受け、あまつさえ王国までが滅亡の危機にひんしている。
どこで間違ったんだ・・・・・・。
このままでは勇者どころか、私の貴族生命までもが危ういではないか。
アイツさえいなければこんなことにならなかったのに。
クソッ。
クソッ。
クソッ。
クソッ。
クソッタレ。
それにしても、この安酒はいくら飲んでも酔わないな。
大方、水でも混ぜているのだろう。
安宿のやりそうなこ・・・・・・。
【ライラ視点】
マコトからこの男に乗り換えたの失敗だった。
まさかここまで使えない男とは思ってもいなかった。
決戦前というのに酒ばかり飲んでいるこの男にはウンザリする。
今も弱いくせに飲み続けるから、潰れて寝てしまったわ。
眉目秀麗と名高い侯爵家の嫡子に勇者の神託が降りたと聞いときは胸がときめいた。
だって、わけのわからない異世界人となんて正直、気持ち悪い。
それにいつもニコニコしてて何考えてるかわからないのがやっぱり気持ち悪い。
マコトは本当に私と一緒になれると思っていたのかしら。
勇者だから、仕方なくいたのだけれど、勘違いもはなはだしいわ。
そもそも、身分からいって釣り合いがとれないし、それに顔も言っちゃあれだけど好みじゃない。
正直、婚約だって私から言わせれば身に降りかかった不幸そのもの。
と言うよりも魔王討伐させるためのエサなの。
信用の置けない異世界人をその気にさせる方便ってやつよ。
じゃなかったら、誰があんなヤツと婚約なんてするかしら。
異世界人の生贄にされた私をローレンスが救ってくれるハズだったのに・・・・・・。
それなのに、それなのにドンドンとダメな方向にいっちゃってる気がするわ。
まったくななんなのよ、もぅ。
本当に最悪だわ。




