第十七話 駐留
ルフィア教国軍の残党狩りも終わり、セイレン国で野営の準備が行なわれていた。先程の戦闘での魔王軍の損害は驚くほど少なかった。
俺たちが先陣を切って攻め込んで、ルフィア教国軍の陣形を崩したせいだろう。
軍といえ、陣形さえ崩してしまえば人数の多い傭兵とさほど変らない。
統率のない集団など、戦闘狂の魔王軍からしてみればただのカモだ。
しかし、ルフィア教国軍の戦闘があった為に駐留が3日ほど伸びた。
これだけの大軍を率いて侵攻するのだから、仕方ないと言えよう。
「勇者様、またおもしろいものを連れていますね」
アモンが悪戯っ子のような笑みで話しかけてきた。
300歳はゆうに越えているのにもかかわらず、その容姿は12歳ぐらいの少女のそれだ。
魔王4帝と聞かなければ、可愛らしい少女にしか見えない。
「ちょうどいい。コイツを頼まれてくれないか?」
スターウィンの鎖を引っ張り前へ出す。
アモンが値踏みするようにスターウィンを上から下まで眺める。
「ルフィア教、枢機卿ですか。思っていたより若いのですね」
「好きなようにしてかまわない」
「承りました、勇者様」
いつものようにアモンが礼をする。
スターウィンをアモンに引き渡し、マリアの所へ向かう。
別れ際にスターウィンが捨て犬のような目線を送ってきたが興味がないので無視した。
「存分に暴れたか?」
「思ったより、歯ごたえがなかった」
焚き火の前でマリアが不満そうに答える。
そもそも魔王が歯ごたえを感じる相手を探すほうが大変じゃないだろうか。
それこそ、竜王クラスを連れて来ないといけないなと考えてるうちに少し笑みがこぼれた。
「何がおもしろいのーマコト。ぶぅー」
笑われたと思ったのか、頬を膨らましながらマリアが俺の胸をポカポカ叩く。
マリアを宥めつつ、従者が持ってきた紅茶を飲みながらしばし、そんなまったりとした時間を過ごした。
ここ最近はバタバタ忙しい日々を過ごしていたので、こんなゆったりとした時間は短時間であっても貴重だ。
この三日駐留するにあたり、代表領主の屋敷が俺達の仮住まいになる。
持ち主がもういないのだ、有効活用しなければいけない。
他の幹部たちは各々気に入った屋敷に泊まるらしい。
それでもセレイン国から出ることはないので、非常時にはすぐに駆けつけれるようになっている。
俺とマリアが代表領主の屋敷へ向かう途中、上空から落下音が鳴った。
その音源に目を向けると小隕石のような物体が俺達目掛けて飛来してきた。
とっさに後方へ飛ぶ。
小隕石のような物体は俺達がいた、少し手前にドガッと轟音とともに着陸した。
舞い上がる砂煙、徐々にその砂煙が晴れていくと抉れた地面の上に3人の影があらわれた。
一人は、紫色の長髪を後ろに流した優男。
残りの2人は所謂、ゴシックロリータ調のドレスを纏った色白の少女と執事風な壮年の男だ。
見かけとは裏腹に3人からは異様な圧力を放っている。
俺は剣を抜き構える。
この間合いならいつでも切り殺せるだろう。
「やぁ、魔王様。今はマリアだったかな?」
優男がにこやかな笑顔でマリアに声をかける。
「・・・・・・ベレト!」




