第十六話 枢機卿スターウィン2
バアルが少数の兵を率いて後方からの奇襲が功を奏し、前方の俺達と後方からのバアル軍でルフィア教国軍を挟み撃ち状態に。
突然の奇襲でパニックを起こしたルフィア教国軍が敗走したってところか。
それにしても、恥も外聞なくこの無様な逃げ方はルフィア教の教義が聞いて呆れる。
お高い大義名分を掲げて来た割にはちょっとお粗末じゃないか。
「ぐぅひっく・・・・・・」
まだ泣いてるのかコイツ。
おいっと足蹴にしてみるも、なされるがまま泣き続けている。
以前の自分の姿が重なって嫌悪感がわく、それと同時に嗜虐心が少し顔を見せた。
スターウィンの前でしゃがみ、指で顎を掴む。
泣き顔のそれは、ルフィア教の権威で守られた枢機卿ではなく権威の鎧が剥がれた、ただの少女。
教会の権威が剥がれれば、こうも脆いのか。
「チッ」と舌打ちが無意識にでる。
依存していたものに裏切られることに何か感じたのか、それとも同情か・・・・・・。
いや、同情はないな。
「捨てられる気分はどうだ?」
緑色の瞳を覗き込む。
赤く腫れたその瞳は、憎悪が薄れ、絶望、恐怖が渦巻いていた。
「軍にこれだけ被害だしたんだ。このまま帰れば処刑は免れないな。良くて斬首、悪ければ拷問の末に悲惨な殺され方をされるだろうな」
自分の未来をそうぞうしたのだろうか、スターウィンの体がガタガタと震えだす。
自身の体を抱いて止めようとするが治まる気配はない。
「やだ・・・・・・やだやだやだ」
「俺の知ったことか」
一瞥して、立ち去ろうとするとスターウィンが服の裾を掴む。
「離せ」
「・・・・・・うっく、えぐ」
必死に掴む手は緩む気配はなかった。
「他人を罰するときは威勢がいいが、いざ自分の番になると命乞いか?」
スターウィンは嗚咽を漏らす。
ルフィア教は戒律に厳しい事で有名だ、破った者に与えられる罰もそれ相応なものだ。
それを世間では『精錬潔癖』と、とるのだから教団幹部は笑いが止まらないはずだろう。
俺は奴らが嫌いだ。
別段、何かされたわけじゃない。ただただ、嫌いなのだ。
「自分を見捨てた教団は憎いか?」
力なく頷くスターウィンを見て、少し考える。
ちょうど良い機会だ、あいつらには悪いが、俺の気晴らしになってもらう。
「コレを自身でつけるなら、復讐を手伝ってやる」
近くにいた兵士にある物を持ってこさせた。
そのある物とは、黒い皮製の首輪だ。
ニヤリと笑い、兵士に持ってこさせた首輪をスターウィンの前に差し出す。
差し出された首輪を見て、スターウィンの目が大きく見開かれる。
葛藤が渦巻いているのだろう、首輪を見て固まるスターウィン。
葛藤が堰を破って、心が折れた。
震える手で首輪を取ると、自分の首へと持っていっく。
首輪を嵌めたスターウィンからは完全に覇気が完全に消え失せ、少し前とは完全に別人となっていた。




