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第十二話 セレイン国と奴隷

魔王の領土からロスティニア王国まで馬を走らせて二ヶ月の距離。

20万の軍勢となればその倍、四ヶ月以上かかる。

それはあくまでも反対勢力がいない地域を通って順調に進んだ場合だ。


しかし、ロスティニア王国まで直線で進んだ場合、一ヵ月半で着く。

もちろんそれには障害もある、それはセレイン国だ。

ロスティニア王国まで直線で結でちょうど真ん中あたりにあるその国は、貿易で栄えた商業国家である。


セレイン国は今まで、ロスティニア王国と魔王に対して中立を保ち続けていた。

その理由は貿易都市として発展しているからである。

多くの商人が行き来するうえでどちらかにつくことは国益にとって大きな損失になってしまうからだ。


 ならば、今回の進軍にあたって、その中立性とやらを使わせてもらおうか。


 魔王軍は一路、セレイン国へ向かう。

半月ほどでセレイン国が目視できるほどの距離まできた。

そこで陣を張り、使者をセレイン国へ送る。


 20万の軍勢が野営をはじめる、その光景にセレイン国は圧倒されていた。

当然だろう。事情を知らなければ、今まさに魔王軍が攻め入るように見えるからだ。


「マコト、本当にこうしていれば通してくれるの?」


 マリアが不思議そうに聞く。


「ああ、一日もしないうちに通してくれるよ」


「勇者さまもお人が悪い」


 アモンが目論見を察したように面白そうに笑う。

さすが、魔王軍の知将の異名も伊達じゃないな。


 横に笑みを浮かべて様子を伺うバアルも気がついているみたいだが。

これじゃあ、魔族相手の戦に人間も苦戦するわけだと苦笑いをする。


 さきほども述べたとおり、セレイン国は貿易国。

20万の軍勢を見て戦うという選択は絶対にしない。

軍を持っているが、あくまでも治安維持の為にあるだけで対外の敵を排除するためのものではない。

商業に特化した結果がこれなのだ。


 数刻後、もくろみ通り狼煙があがった後に外壁の門が開いた。

使者が通行の旨を伝えてあるので、それに応じたのだ。

陣を撤収してセレイン国へ進む。


 魔王軍がセレイン国に入ったとき、俺は剣を抜き掲げる。



「この国の奴隷を全て開放しろ!」



 俺の号令に魔王軍の兵が怒号をあげて襲い掛かる。

突然の急襲になす術もなく蹂躙され、数刻のうちにセレイン国は落ちた。

もとより、真正面からぶつかっても結果は同じだっただろう。

時間がかかるか、かからないかの違いだ。


 すべての奴隷たちが開放された中で、ただ一人の奴隷が俺の元に連れてこられた。

そう、奴隷に堕ちたステラだ。


 

 連れられてきたステラは、所々薄汚れ、美しかった青い髪を荒く切られている。

首には黒い皮製の首輪で繋がれ、下着など贅沢なものは許されず、麻の上着一枚着せられただけの状態だった。


 もう誇り高いエルフ族の少女ではなく、心を砕かれた一人の奴隷がそこにいた。


 薄汚れた奴隷にその身を落としても、今だその美しさを残しているのはさすがと言うべきか。

首輪から伸びた鎖を引くと抵抗はなく目線を外した。

その青い虹彩を持つ瞳はすでに光を失っている。




「お前の名前は?」




「・・・・・・耳の長い豚です」




 なるほど、尋問した兵士の話は本当か。


 その兵士の報告によると、『焼付け』の魔法を刻まれた後すぐに新勇者のパーティを追放され、『焼付け』によって魔力を失ったステラは放浪の後に奴隷狩りに捕まり性奴隷として飼われることになった。

余程の調教か性奴隷としての扱いを受けたのだろう、抵抗する意思も誇りも完全に失っている。


 エルフの特長ともいえる長い耳を掴む。



「まわりを見ろ、奴隷たちが開放されているのが見えるか?」



 耳元で囁く言葉。

瞳に淡い希望の光が生まれる。



「だが、お前(・・)だけは開放しない。奴隷のままでいろ」



 淡い期待が破れ、かつて(・・・)ステラだった奴隷が絶望を抱えて震える。

俺はその姿を薄い笑みを浮かべて見下ろした。



「もういい、コレを下がらせろ」



 俺の指示で『耳の長い豚』の鎖が引かれる。

今から自分がどこに連れて行かれ、何をされるのか理解したのだろう。



 微かな慈悲にすがろうと這い蹲り、俺の靴に頬をこすりつけた。

『耳の長い豚』が媚びへつらうように笑みを浮かべる。


 俺は顎で兵士に再度指示をだす、兵士が『耳の長い豚』の尻を乱暴に蹴りあげた。



「ぐぇあっ」



 と悲鳴をあげる『耳の長い豚』。

そして、引かれるがまま『耳の長い豚』は自分のいるべき場所へ連れて行かれた。


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