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第十話 恥辱の印

「世界樹それは勇者召喚の際にアンテナの役割を果たしていたんだ」


 指を世界樹に見立てて説明をする。


「アンテナとは何でしょう?」


 しまった。こっちの世界には当然アンテナなんて存在していない。


「すまない、向こうの世界の言葉だった。詳しい説明は省くが、勇者召喚における情報を得るための役割と言い換えればいいか」


 その説明に納得がいったのか、少し考える素振りを見せるアモン。


「なるほど、勇者様はかつてご自身が召喚された転移魔法の存在ごと壊しになられるおつもりで?」


 さすがアモンいつもながら察しが早くていい。


「ああ。全て壊すつもりだ」


 俺は笑みを零す。


「やはり、勇者様はおもしろい」


 アモンは嬉しそうにクッククと笑いをあげた。

マリアにいたっては「うんうん」と聞いているのかいないのか両手を腰にあて得意げにうなずいている。


「ガッハハ、これからおもしろくなりそうだのう。エルフ達はちと歯ごたえが足りなかったからな」


「そんな事を思いつくなんて貴方くらいなものですよ」


 バアルが顎に手を当てて興味深そうに俺を見つめた。

 





◇◆◇






 ―――エルフ公国、国境付近。


「何故だ! 勇者である俺が何故、此処を通れない!」


 貴族を思わせるその涼しげな顔に険を浮かべて新勇者ローレンスが吠える。

相手はエルフ公国の国境守護隊の兵士だ。


 世界樹の一報を受け、新勇者一行は駆けつけてきたのだ。

幸か不幸か、魔王軍の支配下に置かれていることまでは耳にしていない。


「勇者の称号を得た者は、王国と同盟国は無条件に入国が許されているのよ!」


 ライラがローレンスを擁護するが、兵士達は厳しいその表情を崩さない。

魔王軍の支配下に置かれているエルフ公国は今はもう勇者の影響は届かないからだ。


 それよりも新勇者と共にいるステラに対して嫌悪感が増している。

彼らは考える、調印の条約に彼女の名前があったことを。

彼女のせいで魔王軍の侵攻を受けたのだと。


「これを見なさい。これはハイエルフの誉れ高き氏族を示すものよ、これを見ても通さないって言えるかしら?」


 ステラが自信ありげに、氏族の紋章が刻まれたブレスレットを掲げる。

彼女にとってハイエルフの誉れ高き氏族連なる血統こそ、誇りの全てである。

今までも自身の氏族を示すことでエルフ領域では、大概の我儘が通ってきた。

今回もそうなると彼女は信じて疑いもしない。


「ステラ様、いや、ステラ。貴様の名誉は全て剥奪された」

 

 兵士が憎悪の混じった目で言い放つ。



「えっ、なにを・・・・・・」


 ステラの顔に困惑が浮かぶ。


「それに加え、エルフ領からの追放。その意味がわかるな」


 ステラは事実を受け入れることが出来なかった。


 エルフ族にとって名誉の剥奪は死刑に相当する重刑。

例え、エルフ領以外の場所であってもこの先ステラは奴隷以下の扱いになるだろう。

ステラにとってハイエルフの誉れ高き氏族連なる血統が自分を支える全て、今まさにその全てを失ってしまったのだ。


 ステラはその場でへたり込む。


「魔法兵を呼べ」


「はっ」


 すぐさま駆けつけた魔法兵が準備を始める。

その異様な光景に新勇者たちは呆気にとられ、結果見ていることしかできなかった。


「ステラ、長老会の名において『焼付け』を施す。素直に受け入れよ」


「やめろ! ステラになにをする気だ」


 ローレンスがステラの前に出て止めに入る。


「新勇者殿、これはエルフ族の問題。人族がむやみに干渉してよい問題とは違いますぞ」


「くっ・・・・・・」


 魔法兵がステラに『焼付け』の魔法を施す。




「ぐえっあああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!」




 ステラは地に這い蹲り、悲痛な叫び声をあげた。

苦痛に表情は歪み、涙と鼻水、よだれで顔を汚し、足を伝い流れた黄色の液体で水溜りをつくる。

先程までの誉れ高きエルフ族の姿はそこにはもうなかった。



 そして、額には『焼付け』の魔法で刻まれた恥辱の紋様があった。

ステラはもうエルフ領域では、奴隷以下の存在に成り果てたのだ。






◇◆◇







 【ステラ視点】


この兵士は何を言っているんだ。


 追放名誉? 剥奪・・・・・・?


 私は誉れ高きハイエルフの氏族に連なる者。

そんなことができるわけがない。

さっさと私に謝罪をして、ここを通すべきだわ。




 え、嘘じゃない・・・・・・?




 『焼付け』の魔法を刻むと言っているの?

えっ。あの恥辱の印を私に?



 やだ、やだ、やだ。やめろ、やめて!

何でもするから、あの、あれだけはやめて。


 嫌、嫌、嫌っ・・・・・・! 




「ぐえっあああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!」




 痛いっ! 痛いっ! 痛いっ! 痛いっ! 痛いっ! 痛いっ!


 誰でもいいから、早く止めてっ止めてっ




「ぐおっぐっふえやぁあああああああああああああああああああああああッッッッッ!!」




 熱い、熱い、熱い、熱い。


 まだ、まだ続くの? もうやだやだやだ。


 ローレンス! ライラ! リサ!早く、早く助けて。


 なに・・・・・・その目は。やめて、そんな奴隷を見るような目で見ないでっ・・・・・・!!






 はぁ、はぁ。


 もう終わったの・・・・・・?


 ああ、体中が痛い。頭が割れるように痛い。


 体が重い。思うように動かない。


 下が生ぬるい。


 ああ、そっか・・・・・・。


 額に傷がある。


 本当にあの、あの・・・・・・恥辱の印が私に。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・。






 あああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!





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