第8話:クリスタルウルフ
第8話です。基本的に毎日更新しますが、来週は祖母の初盆のために実家に帰省するため少しお休みをいただくことになるかと思います。その時は連絡します。
それでは第8話をお楽しみください。
「ふあ〜〜〜」
カーテンの隙間から差し込む光でアイリスは目を覚ました。まだ眠っていたいという悪魔の囁きを振り払い、着替え始める。今日は青いワンピースだが、午前中は家の掃除や動物の世話をするために、白いエプロンドレスを上から羽織る。井戸で顔を洗うために一階に降り、裏庭に続くドアを開けると、眩しさを感じ目を細め、顔の前に手を広げて光を遮る。
雲一つない真っ青な空は、見事な快晴としか言い様がなく天気が崩れる気配すらない。
アイリスの裏庭はアイリスの家を基点として30m四方の柵が張られ家と反対側には小屋が一棟建ててある。井戸は母屋と小屋の中間辺りにある。
「今日も良い天気に成りそうだな」
アイリスは良い天気に気分を良くし、井戸で顔を洗い、タオルで顔を拭うと、今日の朝食で使う卵を小屋に取りに行く。
小屋の中には体調20㎝程の草食動物コッコが30羽入っており、このコッコが卵を産んでくれる。小屋のドアを開け、コッコ達を外に出すと卵を回収する。卵を持って家の中に入ると一階にあるキッチンへ向かう。
薪に火をつけその上にフライパンを乗せると、樽の中に保存してある干し肉を1枚とり出しフライパンに入れる。
「ジュ〜〜」
干し肉から油が染み出てパチパチと音がしだしたら干し肉の上に卵を落とす。卵に火が通る迄の間に様々な野菜を取り出し水で洗う。皿に移しドレッシングをかけると卵の様子を見る。卵に火が通っているのを確認すると白パンと共に皿に移す。
白パンをナイフで半分に切り野菜を少しと焼いた干し肉、卵を挟み、卵の黄身を潰すように白パンを少し押さえる。卵の黄身が白身、干し肉、野菜に絡まる。
この食べ方は村の冒険者に教えてもらった食べ方で、アイリスは気に入って毎朝食べている。
朝食を食べ終えると、家の掃除をして、コッコの小屋に残っていた卵を全て取り出すとそれを持って肉屋、八百屋、魚屋等へ行き物々交換をする。
この村の店は基本的に自分で品物を取ってくる。冒険者ギルドでAランク以上ではあるが、狩りをして自分で捌き、肉屋として販売するもの、自分の家の近くで野菜を育て、各季節事に違う野菜を販売する八百屋など、この村に住む冒険者は各々好きなように過ごしている。
物々交換を終えるとコッコ達の小屋を掃除し餌を入れる。洗濯をして昼食を食べ、食後の休憩を30分程挟むと冒険者ギルドへ向かう。
「トーマスさん、こんにちは。今日はクリスタルウルフの所に行きたいんだけどいいですか?」
「おぅ、アイリスちゃん。クリスタルウルフの所に行くんなら俺も着替えるから、着替えたらここに集合な」
「はい、わかりました」
アイリスとトーマスはそれぞれ別の部屋に入り着替えて出てきた。
アイリスは白のツナギを来ているが、ツナギにはフードが付けられ、ツナギの内側やフードの内側には毛皮が貼り付けられモコモコな状態だ。さらに、モコモコな手袋をし、膝下までカバーされている革靴を履いている。髪は先端を纏めるようにリボンで結び、外に出ないようにツナギの中に仕舞われている。白の耳当てまでして、全身真っ白のモコモコ状態を見ると、これから行く場所は相当な寒さの場所らしい。
トーマスは、アイリスとは違って冒険者の装備に全身を黒のマントで包んでいる。その上から両手剣を背中に担いでいる。
「よし、忘れ物はないな。じゃっ、行くか」
クリスタルウルフの所に行く転移陣を潜ると、洞窟の中に出た。洞窟の壁にはうっすらと光っている苔が生えており洞窟の中を淡い光で照らしていた。
洞窟の入り口にたどり着くと、雪が降っており、辺り一面を銀世界にしていた。クリスタルウルフが住むこの一帯は1年の3分の2は雪に覆われている。
アイリスが入り口で笛を吹きしばらく待っていると、前方から真っ白なウルフが2匹走ってきた。体長2m程の大きさを持つこのウルフは、毛の先に雪の結晶が付き雪が晴れた日に光の反射によりキラキラと輝いている様子が、クリスタルを光に透かした時の様子に似ている事からクリスタルウルフと呼ばれている。
「ワフッ」
「ナッツよろしくね」
アイリスは自分の前にきた1匹のクリスタルウルフをナッツと呼び頭を撫でている。ナッツは雄で20匹程の群れのリーダーである。
ナッツともう1匹のクリスタルウルフにソリを繋げアイリスとトーマスはソリに乗る。
アイリスがナッツに合図を出すと2匹は勢いよく走り出す。5分程走ると森の中に入り、別の洞窟にたどり着く。その洞窟にはナッツが率いている群れが住んでおり、ここを拠点にナッツ達は狩りをしている。
アイリスとトーマスが洞窟の奥に行くと薪が積まれている。もちろんクリスタルウルフが薪を使うわけではない。これはアイリス達の身体が冷えないように、雪が溶けている間にせっせと準備した物だ。
トーマスが薪に火を付けアイリスと共に座って暖まっていると、ナッツがアイリスの横に身体を丸めるように寝せべってきた。
アイリスは腰のベルトにさしていた一番大きいブラシを取り出し、ナッツの毛を薪の火で乾かすように動かす。クリスタルウルフの毛は5㎝程の長さで1本1本が絡まることもなく柔らかい。その指通りは上質な絹の様に滑らかで、ほのかに暖かい。
アイリスがナッツの毛を堪能していると、鳴き声が聞こえてきた。
「「「クゥ〜ン」」」
アイリスが鳴き声の方を見ると3匹のクリスタルウルフの子供が1匹のクリスタルウルフに連れられ、よたよたと歩いてきた。
この4匹のクリスタルウルフはナッツの妻と子供達である。アイリスの近くまで来るとナッツは起き上がり妻であるクリスタルウルフの側に寄り、首をお互いに寄せあう。
両親が愛を確かめあっている間に、体長30㎝程のクリスタルウルフの子供は、産まれたばかりらしくよたよたとアイリスの近くまで寄ってくる。アイリスの膝の上に頭を乗せ、撫でて撫でてと潤んだ瞳でアイリスを見つめる。
アイリスは小さいブラシを取り出し、1匹ずつ膝の上に乗せて優しくブラッシングしていく。
「キュ〜ン」
アイリスのブラッシングに気持ちよさそうに目をつぶり、うとうとしはじめると他のクリスタルウルフと交代する。
3匹のクリスタルウルフの子供をブラッシングして寝かしつけるとナッツと奥さんのクリスタルウルフがアイリスの後ろで寝そべる。
アイリスは子供のクリスタルウルフを胸に抱えると、ナッツのお腹に身体を預ける様に寝そべる。
「幸せだなぁ」
モフモフに囲まれるアイリスは薪のパチパチと燃える音を聞きながら目を閉じると、いつの間にか眠ってしまっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――トーマスside
トーマスはアイリスを洞窟に連れていき薪に火を付けるとアイリスを置いて外に出た。アイリスを置き去りにしても問題はない。クリスタルウルフはこの辺りの食物連鎖の頂点にたつ魔物であるからだ。
「さて、薬草採取と狩りでもするか」
クリスタルウルフはアイリスを主として認めているため、アイリスと共に来るトーマスの事を襲いはしない。言うことは聞いてはくれないが・・・
クリスタルウルフに大群で襲いかかられればトーマスでも危ないが、その心配もないために安心して散策できる。
雪を掘り出し薬草を見つけ、小動物の狩りをして洞窟に戻って来ると、アイリスはクリスタルウルフのモフモフに囲まれながら幸せそうに眠っていた。
「この寝顔を曇らせたくはないな・・・ふむ、どうするか?ちょっと相談してみるかな」
トーマスはアイリスの寝顔を見て何かを考えていた。
トーマスは1人で考えてもどうしようもないなと思い、アイリスを起こし村に帰ることにした。
携帯投稿のために章で纏める事が出来ないですが、もう少ししたら目次をたてて何章か分かるように編集したいと思います。
第9話は明日投稿します。しばらくお待ち下さい。