第5話:ホーンタンク
第5話です。やっとモンスターがでてきます。残念ながらモフモフではありませんがお楽しみください。
「ユーリさん、そろそろモンスターを見に行きましょうか?」
アニーと話していたユーリにアイリスが話しかけてきた。
「そうね。説明も一通り終わったし行ってきたらいいわ」
「分かりました。ライリー達はどうする?」
「俺達は武器屋とかこの村の店を見に行ってるよ。マスターさんが案内してくれるらしいし」
「わかった。じゃあ、また後でね。それじゃアイリスさん案内お願いします」
「はい、トーマスさんも行くので3人で一緒に行きましょう」
アイリス達は冒険者ギルドへ、ライリー達はマスターとこの村を回るために商業ギルドを出ていく。
「着替えてきますので少し待っていて下さい」
冒険者ギルドに入るとアイリスは1人で奥の部屋に着替えに行く。トーマスと2人になったユーリは冒険者ギルドの大きさについて聞いた。
「なぜこの村の商業ギルドと冒険者ギルドではここまで大きさが違うんですか?」
「それは冒険者ギルドに転移陣があるからだな。王都への転移陣を始めアイリスちゃんが従わせているモンスターの所へ行くための転移陣がいくつもあるからな。その転移陣の数だけ部屋があるから冒険者ギルドは大きいんだよ」
「お待たせしました」
そんな事を2人で話しているとアイリスが着替えて部屋から出てきた。先程までは王都の女性が普通に着ている服であったが、今はオレンジ色のツナギを腕捲りをして着ている。髪は、肩より20㎝程下まで伸ばしてある金髪を白のリボンで結んでポニーテールにしていた。
「それで、馬車を引く馬が欲しいそうですが、どんな馬がいいですか?」
アイリスの言葉にユーリは困惑しながら返事をする。
「どんな馬ってどういう事?普通の馬じゃないんですか?」
「はははっ、私のお店はモンスター牧場ですよ。普通の馬なんていませんよ。」
アイリスは笑いながらユーリに言った。
「でも、僕はテイマーのスキルは持っていませんよ」
「それは大丈夫です。私はテイマーを持っていない人にでも1匹だけ契約させることが出来るんです」「へぇ〜そうなんですか・・・。って、えぇ〜!!そんなスキル聞いたことありませんよ!」
アイリスの言葉にまたもやユーリは驚く。
「あれっ?さっき説明しなかったっけ?」
「してませんよ!そんな大事な事言い忘れないで下さいよ!」
「すまん、すまん。まぁ、そんなに起こるなよ。ガッハッハッハ」
トーマスはユーリの肩を叩きながら少しも悪そうに思っていないような顔で笑う。
「も〜、分かりました。分かりましたから叩かないで下さい。地味に痛いです」
ユーリは少し涙目になり、トーマスに文句をいいながら肩をさする。痛みがひいてきてからアイリスに聞く。
「それでどんなモンスターがいるんですか?」
「まだユーリさんと契約してないので魔物ですけどね」
イズールドの世界では、一般的な家畜や動物以外を総じて魔物と呼ぶが、人と契約した魔物はモンスターと呼ぶ。
「今は3種類の魔物を用意できます。1匹目は、急ぎの仕事の時に役に立つ、足が速くて体力があるのが長所ですね。しかし、重い物を馬車に乗せていると速さが出せないのが短所です。2匹目は、途中で魔物に襲われても、ほとんど傷を負うことはなく、重い荷物を乗せた馬車でも1日中引っ張って歩き続ける事ができます。短所としては、足が短いために余り速度が出せずに森の中などは歩きづらい事です。3匹目は、1匹目と同じように、足が速くて体力もあります。さらに重い荷物も引っ張れるのが長所ですが、好戦的なので途中で魔物に襲われたら戦闘に勝手に参加するのが短所ですね。この3種類が馬車を引くのに適していると思いますが、どれにしますか?」
アイリスの説明を聞き、ユーリはじっくりと考える。
(行商として使う馬車だから、それなりに重い荷物を乗せることもあるかもしれない。そうすると1匹目は駄目だな。2匹目と3匹目を比べて見ると3匹目の方が足が速いそうだが、馬車を引く馬として好戦的なのは荷物を駄目にする恐れがある。ということは2匹目が無難かな。行商だからそんなに急ぐ旅でもないし、何よりも魔物に襲われてもほとんど傷を負わないのが良いな)
1分程考えてユーリは結論を出した。
「2匹目の魔物にしようかな。ちなみに、2匹目の魔物はどれくらいの速さで走れますか?」
「だいたい一般的な馬の3分の2ぐらいの速さですね」
「なるほど、それなら2匹目の魔物にします」
「分かりました。それじゃ、行きましょうか」
奥に歩いていくアイリスに続きトーマスとユーリも着いていく。
「トーマスさんも行くんですか?」
「あぁ、アイリスちゃんが出かける時は護衛の為にこの村の誰かが一緒に行くことになってるんだ。何だ?アイリスちゃんと2人きりになれると思ったのか?確かにアイリスちゃんは可愛いから手を出したい気持ちは分かるが、俺達の妹に手を出そうなんて覚悟は出来てるんだろうな」
「ち、違いますよ!単純にトーマスさんも行くか疑問に思っただけです!!」
ユーリの言葉を勝手に勘違いして指の関節をボキボキ鳴らしながら凄んでくるトーマスにユーリは慌てて否定した。トーマスの言葉通りにアイリスは美人なのだ。くりっとした目に小柄な体格をしているアイリスは庇護欲を誘う。
「着きましたよ。この転移陣をくぐります」
アイリスが転移陣に入ると、トーマスとユーリも続いて転移陣に入る。転移陣は複雑な模様で描く必要があるために専門の人が書く必要があるが、1度描かれた転移陣は魔力を込めればどんな人でも使える。ただし、それなりの強さや地位を持つ人物に限る。
転移した先は小さい小屋の中のようで窓が1つ付いているだけだ。その小屋を出ると、草原が見え、草原の先には森がみえた。
「ピィ〜」
ユーリが隣を見るとアイリスが笛を吹いていた。
「しばらくしたら来ると思うので少し待ってましょう」
アイリスはそう言って草の上に座る。トーマスとユーリもアイリスを挟んで座る。
(風が気持ちいいな。空も青いし草が風に揺れる音が聞こえる。なんて綺麗なんだ。旅に出ると他にもこんな景色を見ることが出来るんだろうか?)
「ドドドドドドドドッ」
ユーリが此れからの旅について考えていると遠くから音が聞こえてきた。
「来たようです」
「えっ、あれってホーンタンクじゃ・・・」
ユーリは近づいてきた魔物を見て絶句した。ホーンタンクとはとにかく硬いということが有名で、剣などの物理攻撃に強く、魔法も上級魔法以外は対して効果がないという冒険者泣かせの魔物である。性格は温厚で、サイのような外見ではあるが角が2本生えており、しつこく攻撃してきた者には、圧倒的な防御力にものをいわせて敵に突進をする。そんなホーンタンクが20体程こちらに向かってきていた。
「あっ、知ってましたか?あの子達は毛がないので触り心地はそんなに良くないんですが、角はツルツルしてて冷たいから暑い時に触ると気持ちいいですよ」
アイリスは何でもないように触りごごちについて説明してくる。 それを聞いていたユーリはアイリスが持つマスターテイマーのスキルの凄さを目の当たりにする。 また、触りごごちを説明するぐらいなのだからアイリスがスキルを悪用するような事は無いなと安心した。
「よしよし。どこか痒い所はない?耳の後ろ?それじゃブラシで掻いてあげるわね。どう気持ちいい?そっかそっか、無事に生まれて良かったわね」
ユーリが思案しているうちにホーンタンクが到着していたらしく、アイリスが腰に巻いていた道具差しのベルトからブラシを取り1匹のホーンタンクに喋りかけていた。
「ブフォ。ブフォ。ブフォ〜〜」
アイリスが喋りかけたら鳴いて返事をし、耳の後ろを掻いた時には気持ち良さそうに鳴いていた。 余程気持ち良かったらしい。
それと、どうやら子供も生まれたらしい。
「アイリスさん、そのホーンタンクは?」
「あっ、ユーリさん。この子は私が契約しているモンスターで、ここにいるホーンタンクの魔物の群れを率いているリーダーなんです。ナクモっていうんですよ。ナクモ、この人はユーリさん。ユーリさんに貴方の群れの中から1匹だけ預けたいんだけど、大人に成った子で馬車を引いてくれる子はいるかな?」
「ブフォ」
ナクモは1度鳴くと群れの中に入っていく。しばらくするとナクモが1匹のホーンタンクを連れて戻ってきた。
「この子がユーリさんに付いていってくれる子?」
「ブフォ」
「この子は男の子ですね」
「性別がわかるの?」
「はい。尻尾の先端がフサフサしてるでしょう。その先端が黒なら男の子、白なら女の子なんです。この子は黒いから男の子ですね」「へぇ〜、それは知らなかったな」
「それじゃ、この子で契約しますか?」
「そうだね。ホーンタンクの良し悪しは分からないし、ナクモが連れてきてくれたんだからこの子にします」
「それじゃ、この子の前に立って角を触って下さい」
ユーリがホーンタンクの前に達角に触る。アイリスの言う通りに角は冷たく暑い時に触ると気持ちいいだろうなと思った。
アイリスはユーリが角を触るのを確認すると左手をユーリの肩に右手をホーンタンクの頭に置く。
「じゃぁ、いきますよ。『我が名はアイリス。ユーリとホーンタンクの縁を繋ぐ者なり。人と魔に縁を繋げる事が許可される事を願う。スキル“コネクト”発動』」
アイリスがユーリに聞き取れない言語を喋り終わると、アイリスの両手が僅かに発光する。
「はい、終わりましたよ」
「今のは・・・・」
「このスキルは誰にも聞き取れないんです。私も勝手に口が動いているように感じますし」
「・・・そうなんだ。不思議なスキルだね」
「私も余り気にしないようにしてます。それよりこの子はユーリさんの従魔になったので大切にしてくださいね。くれぐれも犯罪なんかに使わないようにしてください」
「分かりました。それでこの子はどうやって連れていくんですか?」
「私が王都の従魔屋に預けておくので、王都に帰ってから従魔屋で受け取ってください」
「そっか。分かりました。これからよろしくな」
「ブフォ」
ユーリは相棒になるホーンタンクの角を撫でる。
「それじゃ、そろそろ帰るか」
トーマスの言葉に2人は頷きアーカンド村に帰るために転移陣に向かって歩き出した。
第5話はどうでしたか?次話はモフモフ要素が入る予定です。明日投稿するので暫くお待ちください。