第17話:村人達との内緒話
ロベルト・エルドルド辺境伯とその妻イルミナの間にはアイリスの他に二人の子供がいる。
1人はアストン・エルドルドという名前の15歳の男の子で、もう1人はナタリア・エルドルドという名前の14歳の女の子である。
王都の学園に通うこの2人が夏真っ盛りのエルドルド辺境伯邸に夏期休暇を利用して帰省していた。
「母上、明日からナタリアと一緒に姉さんの所に行こうと思うのですが母上も一緒に行かれますか?」
帰省して7日がたった昼食の席でアストンが母親のイルミナに確認する。
「ん〜そうね。明日は予定も入ってないし一緒に行こうかしら。行くのはあなた達2人だけ?」
「はい。父上達は忙しいらしいので僕とナタリアの2人ですね。」
「わかったわ。それじゃ、私も一緒に行くわ」
「明日の朝に出発しますので準備の方をよろしくお願いします」
「わかったわ。それよりナタリアはどうしたの?」
「ナタリアは裏で精霊術の練習をしてます。そろそろ来ると思いますが・・・」
アストンがそう言ったと同時に部屋の扉が開く。
「あ〜疲れた、お腹減った〜」
「お疲れナタリア。明日の姉さんの所には母上も一緒に行く事になったぞ」
「了解。母さんは、姉さんに会いにいってないの?」
「最近貴族の婦人会の集まりがたくさんあってね・・・」
「あ〜あれか。子供が帰省する時期は、子供の紹介も兼ねての婦人会だもんね。うちは全然しないから忘れてた」
「エルドルド家は代々、そんなのにお金使うなら他のに使えっていう家訓らしき物があるからな」
「そうね。だからあなた達もお嫁さんやお婿さんは自分達で見つけるのよ。こんな辺境に来てくれる貴族のお嬢様なんてのは近場にはいないんだから」
「私は別に結婚しなくてもいいけどなぁ、兄さんが結婚すればエルドルド家は続くんだし」
「おいおい、そんな事を言わないでくれ」
「父さん・・・」
結婚の話しをしていると父親ロベルトと祖父サザントが部屋に入りながら会話に参加してきた。
「私達はアイリスも含めてお前達には幸せになって貰いたいんだからな。決して結婚だけが幸せになる道だとは言わんが、幸せになる1つの道には違いないんだからな」
「そうだぞ。ワシも結婚せずにエルドルド家で養子でもとればいいかと思っておったが、婆さんと出会って結婚してからが本当に幸せじゃった。婆さんはもう死んでしまったがロベルトが産まれ、ロベルトがイルミナを妻に迎え、アイリス、アストン、ナタリアが産まれた。自分と血が繋がった者が産まれる、これほど幸せに感じることはないぞ。ワシも65歳じゃ、いつまで生きていられるかわからんから、お前達3人には早く結婚してもらってひ孫を見せてもらわんとな。アストンもナタリアも懸想している相手はいないのか?」
「いませんね。私達がいっている学園は無駄にプライドが高い人達が多いので・・・」
「私もいないわね。大体お爺ちゃんも父さんもお婆ちゃんと母さんは平民なんだから、貴族の人に期待はしてないんでしょ?」
「まぁ・・・そうだな。俺の友人達の子供はまだ小さい子が多いからな」
「うむ・・・ひ孫の顔を見るのはまだまだ先になりそうじゃな」
アストンとナタリアの感想を考えを聞きロベルトとサザントは残念そうに呟く。
それを見たアストンは話題を買える事にした。
「それより父上、明日ですが母上、ナタリアと一緒に姉さんの所に行くんですが、例の話しをしてもよろしいですか?」
「そうか・・・そうだな。できるだけ早くの方がいいか。私と父上は行けないからお前達に任せるが大丈夫だな?」
「もちろんよ。姉さんは母さんに任せて、私達がアーガント村の皆に説明するから大丈夫よ」
「うむ、それじゃ頼んだぞ」
簡単な家族会議が終わり、次の日になるとエルドルド辺境伯家がある街の冒険者ギルドからアーガント村の冒険者ギルドに転移する。
「お久しぶりです、イルミナ様。それにアストン様とナタリア様も」
アーガント村の冒険者ギルドに着くと冒険者ギルド長のトーマスがエルドルド家一行に挨拶をしてきた。
「お久しぶりですねトーマスさん。アイリスは元気にしてますか?」
「はい。モンスターの世話に畑などいつも通り元気に過ごしていますよ」
「ねぇトーマスさん、村の皆に話しがあるんだけど、酒場に集合するようにできない?」
「今からですか?」
「いや、夜で大丈夫。その代わりに今日の食事代は私と兄さんが払うから。私達はアイリス姉さんの家で夕食を食べてくるから少し遅くなると思うけど、先に始めてても大丈夫だから」
「わかりました。みんなにはその様に伝えておきます」
「それじゃよろしくね〜」
ナタリアはトーマスに伝えるだけ伝えてさっさとアイリスの家に向かうためにギルドを出ていく。
その後をイルミナとアストンは慌てて追いかける。
ナタリア達はアイリスの家に行くまでに出会う村人に、夜に酒場に集まるように言いながらアイリスの家に向かう。
アイリスの家で近況を話したり、アストン達の学園の話しを聞く内に時間は過ぎていきアストン達は酒場に向かう。
「それじゃ僕とナタリアは酒場に行ってきます」
「皆さんに失礼のないようにね」「わかってるよ母さん。安心して姉さんの相手をしててね」
アストンとナタリアはアイリスの家を出て酒場に向かう。
「アストン達は何しにいったの?」
「ん?あ〜、あの子達は村の人達に挨拶しにいったのよ。アイリスをいつも守ってくれてありがとうってね」
「え〜確かに守ってもらうばかりだけど・・・」
「まぁまぁ、あの子達もあなたが心配なのよ」
―――――――――――――――――――――――――――――― 酒場side
アストンとナタリアが酒場に着くと村人達はすでに集まっていた。
「少し遅くなりました。すみません」
「いえいえ。みんな好き勝手に飲み食いしてたんでお気になさらず」
アストンの言葉にマスターが返事をする。
「おう、おめ〜らアストン様達がいらっしゃったぞ!今日の晩飯代はアストン様が払ってくださるんだからお礼言っとけ!!」
「「「「「「ありがとうごさいま〜す」」」」」」
マスターが酒場にいる全員に聞こえるように大声をあげると、そこかしこからお礼の言葉をあげる村人達であった。
アストンは村人達が酔っ払う前に話をした方がいいなと思い話始める。
「今日は集まって頂きありがとうございます。わざわざ集まって頂いた理由を話たいと思いますが、なるべく姉さんには知られたくないので皆さんの心に留めておいて欲しいと思います。」
アストンは村人達が頷くのを見て言葉を続ける。
「私と次女のナタリアは長女のアイリス姉さんの事もあり、私が光、火、土の属性精霊達、ナタリアが闇、水、風の属性精霊達から力をお借りさせて貰っています。
その精霊達から提案がありまして戦力の増強をしようということになりました。そこで、まずこの村に住んでいる皆さんに精霊達との特訓をしてもらいたいのですがどうでしょうか?もちろんこれは強制ではありません。皆さんが、冒険者としてアイリス姉さんの護衛を請け負っていて特訓などは契約に含まれていないことも知っています。だけど、それでも・・・アイリス姉さんを守るために力を貸してもらえませんか?」
アストンは喋り終えると頭をさげ、ナタリアも兄に続いて頭を下げた。
「頭を上げてください、アストン様、ナタリア様。」
アストンとナタリアは頭を上げ声が聞こえた方を向くとトーマスが笑っていた。
「俺達とアイリス様がこの村で暮らし始めたのがアイリス様が10歳の頃でしたから、かれこれ7年程一緒に暮らしています。確かに最初は冒険者としての契約によって一緒に暮らしていましたが、7年も一緒に暮らすと契約なんてのは関係なくなるんです。生まれた時から世界の未来を一人で背負われているのに、そんなのは表に見せずに常に明るく振る舞っている。俺達はそんなアイリス様を見てきて、みんなアイリス様が好きになっていったんです。この世界に生きている者として世界の未来なんて物をアイリス様一人に背負わせてはいけない。そんな世界なら滅んだ方がましだと俺達は思っていました。だから俺達は勝手に特訓していたんですが、アストン様達が手を貸してくれるのなら話しは早いです。早速特訓の内容をみんなで話し合いましょう」
アストンが村人達の顔を見るとみんなやる気があるらしい。
「本当にありがとう。さっそく話し合いましょう」
その日は夜遅くまで酒屋から灯りが消えることはなかった。