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第13話:エンシェントタートル

「アイリス、暇なら魚取りにいかない?」


 アイリスが昼ご飯を食べて休憩していると、魚屋主人のベンズと妻のイーナが声をかけてきた。

 ベンズとイーナはアイリスの実家があるエルドルド領でパーティーを組んで冒険者をしていたが、結婚を期に危ない冒険者を引退してのんびり暮らしていた所を、アイリスの父親と面識があったためにスカウトされてアーカンド村に住むようになった。

 お互いに42歳である。

 

「は〜い。着替えてきますのでちょっと待っててください」


 アイリスはベンズとイーナに返事を返すと新しいツナギに着替えて来る。

 その新しいツナギは青い色をしており光沢をはなっている。

 その理由はこのツナギが水龍の鱗で作られているからだ。

 水龍の鱗は水を弾くため、魚を取りに行くのには便利なツナギである。


「お待たせしました。それじゃ行きましょうか。アーカンド湖ですよね?」

「そうだよ。あそこは湖なのに海の魚もとれる謎の湖だもんねぇ」

 アーカンド湖というのはアーカンド村から森の中を北に1㎞程行くとある。

 大陸の中央にある禁断の地にあるアーカンド湖は直径1㎞程の丸い湖であるが、実は湖の底に穴が数十個空いており、それが数千㎞も離れた大陸の外の海まで続いている。

 そのため湖にも海水が入り込み海の魚も繁殖している。

 しかし海水だけで湖ができているかというとそうでもなく、湖のさらに北にある山脈から湖に川が流れてくるため淡水魚もアーカンド湖には生息している。


「それじゃ行くぞ」

「「は〜い」」


 ベンズの言葉にアイリスとイーナはそれぞれ返事を返し村の北から森の中に入っていく。

 アーカンド村の周りにある森には魔物もでるがたくさんの果実も採れるためアイリスは果実を採りながら、ベンズとイーナは時たま出る魔物を討伐して湖に向かって進んでいく。

 暫く歩き湖に着くとアイリスはいつも持ち歩いている笛を鳴らし、ベンズとイーナはアイリスの隣でボートの準備を始める。

 少し待っていると湖の中央に何かが浮き上がってくる。 それは全長10m程の黒い物体であり、アイリスの方に近づいてくる。


「グァ〜」


 低い声で鳴いたそれは大きなカメであった。

 黒い甲羅を背負い、甲羅から出ている首と手足も黒い肌である。

「いつ見ても大きいよねこのカメ」

「そうですね。何か少しずつ大きくなってるんですよ」

「相変わらず種族はわからないの?」

「はい。村のみんなにも見てもらったりしたんですけど誰も知らないそうです」

「そっかぁ、まぁ、こんなに大きなカメなんて私も見たことないしなぁ。しかもまだ大きくなってるなんて驚きだよ」


 実はこのカメ世界に一匹しかいないエンシェントタートルである。

 このエンシェントタートルはアイリスのスキル関係で従っているわけではなく、ある者に言われてアイリスの前に姿を現した。

 その時アイリスと護衛の村人がいたがエンシェントタートルはアイリスにだけ念話を飛ばしアイリスのスキルを使うように指示をし、エンシェントタートルのことを村人に黙っているように言った。 そのためアイリスだけがこのカメの正体を知っている。

 ちなみにアイリスはカートンと呼んでいる。



「それじゃぁ私はカメの背中にのって釣りをするので魚を捕ったら呼んでください」

「わかったぁ」


 ベンズとイーナはボートに乗り沖に仕掛けてある網を取りに向かった。

 アイリスはそれを見送るとカメの背中に釣りざおを持って乗り込む。


「よろしくねカートン」

『承知した』

「魚がたくさんいるところね」

『うむ』


 カートンはアイリスを背中に載せ水の中に顔をつけて魚をみながら湖の中心に向かってゆっくり進んでいく。

 

『この辺が良いだろう』

「ありがとう」


 湖の中心より少し手前で止まり念話を聞いたアイリスはお礼をいい腰に着けていた袋からエサを取り出す。

 この袋は魔法袋といい、製作者の革職人の魔力量で容量が決まる。

 アーカンド村の革職人ももちろん冒険者であった。

 普通の革職人は冒険者登録なんてせずに冒険者から毛皮などを買い取り製作するが、アーカンド村に住んでいる革職人は、自分で必要な毛皮などを調達し品物を製作する変わった革職人であった。

 この革職人は毛皮などを調達するために、たびたび戦闘に行っていたために高頻度で店を閉めていたが、店が開いている時に来たお客の口コミで知る人ぞ知る有名店になり、なおかつ自分自身も有名な冒険者になっていた。

 そこをアイリスの父ロベルトに勧誘されアーカンド村に来ることになった。

 なぜ、自分で材料を調達するのかロベルトが聞いた所、


「他の冒険者が持ってくる材料は、いらん傷がたくさんついてたりするから使い物にならんとです。かといって高ランクの冒険者に依頼を出すと高額な依頼料がかかる。それなら、俺が自分で取りに行くしかないと考えたわけです」


 そう言った当時28歳の革職人の言葉を聞きアイリスの父ロベルトはアイリスにこう言った。


「あの歳で冒険者ランクAなのだから恐れ入る。しかも革職人としても優秀と来た。冒険者稼業だけに専念すればSランクを普通に越えるだろう。アイリスの護りに雇えて良かった。これで計画が進められるな」


 アイリスはロベルトが言った計画の事が気になって聞いてみたが、ロベルトは笑って誤魔化すだけでアイリスには教えてくれなかった。

 まぁ、そんなわけでアイリスの魔法袋はアーカンド村に住んでいる革職人が作った物だがアイリスにはどれくらい入るのかわからない。

 なにせ今まで使ってきて魔法袋が一杯になったことがないのだから。

 ついでに魔法袋には生きている物は入れれないが、入れている物は経年劣化もしないため便利である。

 そのため値段は馬鹿みたいに高いが・・・

 そんな魔法袋からエサを取り出して釣りを始めたアイリスだが、すぐに当たりが来る。

 あっもちろんエサは死んだエサである。


「きた!!カートンどんな魚?」


 アイリスがもっている釣竿はリールなどなく竹で作った物で先端から糸をぶら下げ針を付けただけの簡単な物であるためカートンから見える位置で魚がかかる。


『これはタメキントだな。30㎝程はあるぞ』

「やった!!タメキントは油がのってて美味しいんだよね」


 タメキントとは緑色と青色のしましま模様という変な色をしている魚だが身は赤みで油がのっているため生で食べても美味しい。

 イズールドには生で魚を食べる習慣もあるために生魚専用のタレも売られている。

 アイリスが釣竿を操り魚をカートンの手の位置まで近付けるとカートンが手を振り上げアイリスに向けて魚を打ち上げる。

 

「よっと!」

 アイリスが打ち上げられた魚を見事にキャッチして護身用に腰につけているナイフで素早く魚の頭を切り落とす。


「ありがとうカートン。頭を落とすから食べていいよ」

『ありがたく』


 アイリスが頭を切り落としカートンがその頭を食べる、この作業がアイリスとカートンが釣りをする時の一連の作業である。

 魔法袋があるためにアイリスはこの後も魚を取り続ける。



ベンズ、イーナside

 

 ベンズとイーナはカメの背中に乗り湖の中央に向かっていくアイリスを見ながらボートをゆっくり動かしていた。


「あのカメは本当になんて種族なんだろうな?」

「さぁねぇ、でもアイリスは何か知ってると思うわよ」

「えっ、何でだ?だってさっきは知らないって言ってたじゃないか」

「テイマーがスキルを使って契約した魔物の事がわからないなんて事があると思う?普通のテイマーが自分のモンスターの詳細がわからないなんて事があったらそのモンスターの使い用がないじゃない」


 イーナの説明を聞きベンズはそういえばそうだなと思う。


「じゃぁ何で知らないって言ったんだ?」

「それは分かんないけど、アイリスが言いたくないのか、もしかしたらスキルを使ってなくて詳細がわからないのかもね」

「う〜ん。でもアイリスとあのカメが最初に出会ったときに一緒にいた奴はアイリスがスキルを使うところを見たんだろ?」

「私もそう聞いたけどね。だから尚更おかしいのよ。スキルを使ったのにあのカメの詳細が分からないなんて・・・」

「じゃぁ何か理由が有るってことか・・・まぁあんなにでかいカメなんて見たことないからとんでもない種族なんだろうけどな」

「そうね。アーカンド村のみんなが知らないなんて相当特殊な種族だと思うわよ。まぁアイリスが喋りたくないって言うんだからそれを無理に聞き出すのもね・・・幸いおとなしいカメだし、アイリスの言うことも聞いているようだから大丈夫でしょ」

「それもそうだな。それじゃカメの事は置いといてこっちも網を引き揚げようぜ」

「了解!さっさと引き揚げて村に帰りましょう」


 網を引き揚げ40匹程の様々な魚をとったベンズとイーナはアイリスに声をかけてアーカンド村に帰っていった。

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