2話 2LDK地下D付き
高校を卒業して春休みの期間に、やっとの思いで合格出来た山梨県の富士山の麓にある某大学に進学する為に僕は単身大学付近の地元の不動産屋を訪れた。
店の壁には一面に物件の張り紙が表示されているどこにでもありそうな田舎の不動産屋だ。
「いらっしゃいませ~」
自動ドアをくぐると中から恰幅の良いスーツ姿のおじさんがすぐに声をかけてきた。
「実はそこの大学に入学が決まりまして、アパートを探しているんですが、出来るだけ大学に近くて安くて、綺麗で安くて、バイト出来そうな所もそばにある、安いアパートってありますか??」
交渉事は最初に無理な位の難題を押し付けた方が上手くいくという父の教えを参考に、ハードルの高い注文をお願いしてみる。まぁ自分で言うのもなんだが正直図々しい注文だと思う。
「あ、ぴったりの物件がございますよ」
あ~そりゃそんな都合のいい物件あるわけないですよね・・・・ってあるんですか!!
「本当ですか!詳しくきかせてください。」
・・・・・・・・・・・
不動産屋が言うには学生の住むアパートにしては広い部屋の2LDK地下D付き、築3年の新築物件。しかも大学から徒歩10分。さらに今丁度『美人』の管理人さんがバイトを募集中!
なのに家賃は敷金礼金無で格安の3749円!!
「契約します!!」
男には即決する事が必要な場面があるという父の教えに従って僕はその場で契約を交わした。決して『美人』の管理人さんに惹かれたわけではない。それにしても地下Dってなんだろう??
で、その後早速不動産屋さんにアパートまで案内をしてもらう事に成った。
そのアパートは正直アパートと言うよりもマンションに近い位の大きさで鉄筋コンクリートで出来たモダンな6階建のアパートだった。学生以外にも社会人の人も住んでいるのか無駄にひろい駐車場には、有名な外国車や国産の高級車から気合の入った痛車や、今時絶滅危惧種しか載っていない三段シートに前の見えない位高~いカウルの着いたバイクなど幅広いラインナップが停まっていた。
そんな駐車場を抜けてアパートのエントランスに入るとすぐ右手に「管理人室」と書かれたドアがあり不動産屋さんが黒いインターホンを押す。
すぐにインターホン越しに「はーい。少々お待ちください。」と管理人さんらしき女性の声が聞こえてきて僕の頭には『美人の』という不動産屋の声がリピートし始め次第に緊張してくる。
ガチャリ
ドアが開くとそこには不動産屋さんの「美人」に嘘いつわりのない清楚系美人な妙齢の女性が出てきた。
不動産屋さんと少し会話をした後に、腰まで有りそうな綺麗な黒髪をなびかせながら大きな瞳で、僕を微笑みながら見つめつつ管理人さんは
「初めまして、このアパートの管理人をしております、山田優子と申します。この度はご契約ありがとうございます。」
と優雅にお辞儀をしながら挨拶をしてくれた。あ~お辞儀をしたときにとても良い香りがして一瞬自分の世界にトリップしてしまいそうに成ったが慌てて挨拶を返す。
「中村和人と申します。今年から近所の大学に通う大学生です。不束者ですがよろしくお願いします。」
大きくお辞儀をする僕をみて管理人さんは
「まぁご丁寧にありがとうございます。早速ですが中村さんはアルバイトもご希望なさっているそうですが、お体のほうは丈夫ですか?うちのお仕事は肉体労働に分類されるので、お体の弱い方にはおすすめ出来ませんが・・・」
「大丈夫です!超健康体です!昔から父に空手を習っていたので体力にはかなり自信があります。」
管理人さんの言葉をさえぎり断言してしまう。いつも思うのだが何故男はこういう時に見栄を張ってしまうのだろうか。
父に空手を習ったのは事実だがそれは遠い小学生の時代である。
まぁ嘘ではない。
「まぁ。それは丁度良いですね。荒事が得意な方ならうちの仕事にはぴったりです。」
笑顔で喜ぶ管理人さんの声に若干良心を削られつつもその日は入居日を決めたりバイトの概要などを聞いて実家に帰宅した。