こうして彼女は。
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「壊れるから儚いんだ。壊れたら直せないから尊いんだ。だからこそ、そこに魂が宿る。オマエタチ魔術師は根底を履き違えているんだよ」
そこは血の池で、底には家族の肉塊が沈んでいた。
「不老不死なんて。機械と同じじゃないか」
泣きそうな顔でわたしの腹の中を弄り回しながら彼はそう言った。
「もしもキミが、この町の人間全員を犠牲にしてでも生き残りたいというのならば。それだけの命をワタシが食べてもいいというのならば。キミだけは生かしてあげる」
それは悪魔の囁きだった。甘い息と唇がわたしの耳朶に触れる。
彼に対して憎悪はなかった。恐怖しかなかった。内臓を――言うなれば命を握られた悪寒に私の口から喘ぎが零れる。わたしの命は文字通り彼の手の中にある。
わたしは四肢が千切れた母を見た。口から臓腑を吐き出した父を一瞥した。
現状と感情とは裏腹に妙に乾いた眼球が、すすり泣く弟と兄を捉える。
悩む必要なんてなかった。良心の呵責など皆無だった。わたしは迷うことなく即答した。
生きたい、と。死にたくない、と。
家族を殺してもいいから、友達を殺してもいいから、お願いだからわたしだけは殺さないで下さい、と――わたしはその日、その夜、神様に願ったのだ。