生きてる価値
「ぼくって生きてる価値あるのかな?」
ないわね、と彼女は答えた。「あれだけのことをしたんだから、当然でしょ?」
で、でも。勢いでつい、なんてことはよくある話じゃないか。
「あれのどこが、よくあることなのよ!」
彼女が部屋に置かれたテーブルをまたぎ、ぼくにつかみかかってきた。ちょっ、ちょっと落ち着いてくれ!
「確かにあれはやりすぎたな、とは思うよ。反省してる。でも、ぼくには全く記憶がないんだ。だから、謝ろうにもどう謝ったらいいかわからない」
命を持って償えばいい、と彼女はにらんできた。まるで獲物を狙う肉食獣のよう。
「あなたは、社会的にも生理的にも恐ろしいことをしたの。――あんな光景を見れば、誰もが表情を凍りつかせるわ」
そうだね、君には絶対あんなことはさせたくないよ。ぼくが全力で阻止してみせる。
「誰があんなことをするもんですか!」
昨日の夜、ぼくは彼女と一緒に、付き合って一年の記念パーティーを彼女の自宅でやっていた。
ぼくらは、かなり飲んだ。それも深く、深く。これまで経験したことないほどたくさん。
やがて、彼女は酔いつぶれて眠ってしまった。ぼくは話し相手がいなくなったので、ふと辺りを見回してみた。
床に、彼女のピンク色のパンツを見つけた。酔った勢いで脱いだらしく、まだ生温かい。
何を思ったか、ぼくは彼女のパンツをかぶり、靴をはかずにそのまま外へ飛び出した。
――とぼくの記憶はここまでしかないのだが、通行人にしっかり見られていたらしい。
「なつみのパンツ〜ランララン♪」などと叫んで走り回っていたようだ。服を脱いでなかったのが幸いだった。
深夜の住宅街をうるさくすれば、当然ながらやじうまが集まって警察を呼ばれてしまう。ぼくは交番に連行された。
翌日、つまり今日の朝、酔いがさめたぼくは事情を話して彼女を呼んだ。彼女になんとか弁明してもらい、厳重注意で帰ることが出来た。
ぼくは、警官と話している時の彼女の顔が忘れられない。人の顔ってここまで赤くなるんだ、と感心するほど真っ赤に染まっていた。
何より一番つらかったのは、警官から彼女のしわしわになったパンツを返却された時だ。もう一秒でも交番に居たくなかった。
ぼくらは、彼女の自宅に逃げ帰った。
「もう穴があったら入りたいよ」もうはずかしくて、ろくに外を歩く自信がない。
「バカ言わないで。それはあたしのセリフよ」彼女は、バン! とテーブルを叩いた。
「ぼくって生きてる価値あるのかな?」ぼくはもう一度聞いてみる。
「死ね!」
彼女は赤い顔で一言そう叫んだ。缶ビールをググッと飲み干して。