『遺物管理局』ー遺物No.0833-α『屍者の自鳴琴』
初めてのホラー?です。
「夏のホラー2026」の怖すぎる作品でトイレに行けなくなった皆さんがトイレに行けるようになるくらいの怖さだと思います。
どうぞ怖すぎて疲れた心を和らげてください。
チャリン♪ポラリン♪ピロロリン…
誰もいない暗い部屋にポツンと置かれていた自鳴琴の形をしたものが一人でに回り出す。真ん中には真っ赤な花の装飾が施されている。
……コロ………シ…………テ……コ…………ロ…
ノイズが走っており、言葉が途切れ途切れになっていて上手く聞き取れない。
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とある建物の一室。黙々と書類を確認し、判子を押す者達がいた。
「あー!もうやってらんねぇ!いつになったら終わるんだよこんなん!」
積み上がっている書類の山の中から仏頂面をした一人の褐色の肌をした男が飛び出る。
「セージ先輩〜、コレどうしたらいいんですか〜」
隣の書類の海から頼りなさそうな青年が透き通るほど白い美形な顔を出す。
「シャガ…あのなぁ、助けてやりたい気持ちは山々なんだが俺だってこんだけ仕事が山積みなんだよ」
「自分、まだ入ったばっかなんすよぉ〜。なんも分かんないですってぇ」
こいつはこの部署で俺の唯一の後輩のシャガ。まだ入り立てで物覚えが少し悪いが、可愛い後輩だ。
「シャガくん……教えてやってくれ……」
白髪の腰の曲がった老人が大きなデスクから小さな体をひょっこり出しながら、2人に声をかける。
彼はゴーンズさん、80歳を超えても仕事を辞めていない仕事人だ。結構すごい人だったらしく、今は見る影もないがその実績が認められたことで前線を退いてからはここ『遺物管理局』で局長を勤めている。
「分かりました…いいかコレはだな」
そしてこの俺、ランクルト・セージ。名前から分かるように、一応貴族だが戦で武功を上げた平民上がりの3代目の末っ子が俺だ。簡単に言えば、お飾り身分ってやつさ。だから、別に贅沢は出来ない。なんなら、身を粉にして働かないと今月の家賃も払えない。
「なるほど…ありがとうございます!セージ先輩!」
本当に可愛げはある後輩だなといつも思う。
「でも…一体いつになったら僕たちは『遺物調査』に行けるんですか!僕はそれがしたくて、この局に配属希望を出したというのに!」
シャガが書類の海の中でもがいてる。
「しょうがねぇだろ、調査対象がねぇんだから」
『遺物』
それはこの世界に存在する正体不明の道具達の総称である。誰が、なんの目的でそれを作ったのかは分からないがとんでもない負の遺産だ。
人型兵器だったり、超高速移動装置だったりみたいなものは少なく、ほとんどは用途が不明である。しかし、それでも『円卓』本部のお偉いさんが回収させるのには『遺物』1つで余程の旨みがあるからなのだろう。
そんな『遺物』を回収、調査、実験、保管するのが俺達、『遺物管理局』の仕事だ。
と言っても、大抵強力な『遺物』は危険な場所にあるので、戦闘部隊である『円卓』という組織だったり、冒険者達が掻っ攫っていく。そのため、俺たちのところに来るのはせいぜい、『固い蓋を自動で開ける』力を持った『遺物』か、利益ゼロの害悪危険物質ってところくらいだ。
調査をする時間よりも『遺物』に関する資料をまとめている時間の方が長い。まぁ、俺としては余り動きたくはないから嬉しいんだが。
「いやだぁ!調査してみたい〜」
シャガが駄々をこねる。
「うるせぇよ!子供じゃねぇんだから、ちょっとは静かに…」
「ご、ごめんください!」
入り口から声が聞こえる。見ると、小柄の少女が他の局の局員に連れられて立っている。
「『遺物管理局』の皆さんにお客様ッス!」
少女を連れてきてくれたであろう職員の女性が挨拶をする。チラッと見える八重歯が可愛いな…
「こんにちは〜、それで今日はどんなご用件で来たんですか?」
シャガが優しい口調で少女の視線に合わせて屈んで挨拶をする。
「私の…お父さんのオルゴールを…回収して欲しいんです。」
「オルゴール…?なんでそんなもんを…」
俺が顔を出すと少女は怪物を見たみたいに顔を青ざめて職員の女性の後ろに隠れてしまった。
「何怖がらせてるんですか先輩!」
シャガが急に声を荒げる。髪が少し白く逆だった気がする。
「そうッスよ!こんなに可愛い子怖がらせて!オーガ!悪魔!呪縛者!」
2人に言いたい放題言われて俺の心はボロボロだ。
「まぁまぁ…立ち話というものなんですし…お座り頂いて…職員の方もここまでご案内感謝します…」
ゴーンズさんが少女にソファに座ることをすすめる。
少女が先に座る。
「それで…オルゴールがなんなんだ?」
俺が少女に尋ねる。
「私のお母さんは…私が生まれた時に亡くなってしまって…お父さんと2人で住んでいるんですが…」
(おいおい…悲しい身の上話かよ…勘弁してくれ…)
「うんうん…それで…」
シャガが親身になって少女の話を聞いている。
「最近、お父さんの部屋から声が聞こえるんです…気になって覗いてみたら…」
「見たら……?」
シャガは興味津々に話を聞いている。
「中に誰もいなかったんです…でもお父さんは机にあるオルゴールに向かって話しかけてて…」
「ギャァァァア!」
シャガが両手を頬に当てて、恐怖に震えている。
「うるせぇよ、シャガ。それで…?」
俺が話の続きを聞く。
「そのオルゴール、こっそり調べてみたんです…でもいくら魔力を込めても動かなくて…」
「魔力で動かない…?それは…」
大抵の道具には魔力がこもっている。魔力が無しで動く道具なんて…
「それは『遺物』ですね!」
シャガが嬉しそうに声を上げる。
「それでどうして『回収』して欲しいんだ?」
俺が再び問いかける。
「それは…このままだとお父さんが…死んじゃいそうで…」
「死ぬ…?オルゴールでか?」
「はい…お父さんはあのオルゴールと話し始めてから食事も睡眠もまともに取らなくなってしまったんです…このままだと…」
「なるほど…」
俺は悩む。『遺物』は確かに『遺物管理局』が回収、保護などを行うのが義務だが、あくまで個人の所有物でないものに限る。個人の所有物となると…
「先輩…コレは僕達の出番じゃないっすか!市民の頼みを解決するのも『遺物管理局』の役目ですよ!」
シャガが立ち上がる。
「あのなぁ…」
「『調査』したいぃ!」
シャガが床で暴れ回る。子供か!
すると、暴れたことで積み上がっていた書類の山が倒れてくる。
「うわぁぁぁ…あれ?」
書類の山が少女の前で止まり、元通りに積み重なっていく。
「おい、シャガ危ないだろうが。感情をコントロールしろ。」
「す、すみません…」
シャガが謝る。
コレが俺の持っているスキル『浮遊』。俺の半径5m圏内にいるものに対して、自動で半永久的に発動できる。もちろん、今みたいに動きを操作することも可能だ。しかし、そうは言っても発動するのは無機物だけである。使い道が、部屋掃除くらいしかない。
「まぁまぁ…セージ君…残りは自分がやっておきますので…」
ゴーンズさんが声をかけてくる。
「ほら、ゴーンズさんもこう言ってるんですよ!」
俺は頭を掻く。
「あぁ、もう…一回だけだからな…」
「ありがとうございます。」
少女が頭を下げる。
「よし、すぐ行きましょう!」
シャガが少年と共に入り口から出ていく。
「おい、ちょっと待て…!」
俺は2人を追いかける。
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町はいつものように活気にあふれている。
「うぉぉぉ!やっぱいつ見ても、凄いですよねこの人だかりは!」
シャガが目を輝かせる。なんか、感動するところがズレている気がするのはいつものことなので気にしない。
「ところでお嬢ちゃん……君の名前は?」
「アセビと言います。ブドウみたいに咲くお花が由来らしいです。お父さんが付けてくれました。」
アセビが子供らしい笑顔を見せる。
「へ〜、アセビちゃんかぁ…可愛い名前だね。僕はシャガ、宜しくね」
シャガがアセビの名前を褒める。
「そうか?俺はあんまり名前の意味が…」
そこまで言いかけるとシャガがアセビを連れて、ズンズン進んでいく。
「おいちょっと、置いてくなよ!」
俺は必死に2人を追いかけて早歩きをする。
「ここが私の家です。」
家は壁が漆喰で固められている一般的な一軒家だった。
ドンドン
アセビが扉を叩く。
「お父さ〜ん、帰ってきたよ〜」
しばらくすると、ギィっと扉が半開きになると同時に顔が少しやつれ、目元のクマが真っ黒な男がゆっくりと顔を覗かせる。
「アセビ…誰だこの人達は…?」
弱々しい声をした男がアセビに問いかける。
「この人達は『遺物管理局』のお兄さん達だよ」
アセビが俺たちを紹介する。
「『遺物管理局』……?」
男の頭に疑問符が浮かんでいる。
「アセビさんのお父様ですね?少しお話したいことが有りますので、中に入れさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
俺が父親に間髪入れずに話しかける。
「……どうぞ」
男が扉を完全に開ける。
中は意外にも清潔だった。アセビがきちんと掃除をしているのだろうか?よく出来た子だな…
ふと、立てかけられていた写真立てに目が釣られる。
「わぁ、この写真に映っている女性、アセビちゃんそっくりだね」
シャガが写真を見て、そんなことを言う。確かに瓜二つだ。
「…妻です…」
父親が答える。
「へ〜、アセビちゃんもこんなに綺麗になるんだろうね」
「シャガ、無駄話すんな。お父さん、オルゴールがあるそうですね。見せて頂けることは出来ますか?」
「ありますが…どうするつもりですか…」
父親は少し、顔をしかめる。無理もないだろう。娘が連れてきたとはいえ、怪しすぎるしな。
「お父さん頼みますよ、『遺物』だと思われるものの調査をしに来ただけです。没収するわけではないんです。」
俺がなんとか交渉する。
「…こちらにあります。足元に気をつけてください。」
渋々、自室に俺とシャガだけが連れていかれる。俺にとっては階段はキツく、結構疲れてしまった。
部屋の中は汚く、ここだけアセビの出入りがないことが見てわかる。
部屋の真ん中には、アセビの言っていたオルゴールが置いてある。
「見た目はただのオルゴールですね先ぱ…」
チャリン♪ポラリン♪ピロロリン…
唐突にオルゴールが動き出す。魔力が流れている様子もない。
ドチラサマデスカ…?
確かにオルゴールから声が聞こえる。俺とシャガは顔を見合わせる。
「この声のヌシは…?」
俺が尋ねる。
「妻です。」
父親が答える。
「え、でもアセビちゃんのお母さんは…」
「これは『死者と会話ができるオルゴール』なんです。」
父親が答える。
「死者と…それは凄い…」
俺は感心してしまう。
これは凄い『遺物』だ。コレがあれば、遺言書など必要ないだろう。何しろ、本人が死んだ後に聞くので間に合うからだ。他にも色々と役に立つだろう…なんで今まで情報が出なかったのだろう。
ドチラサマデスカ…?
再び、オルゴールから声が聞こえる。
「申し遅れました、私は『遺物管理局』のランクルト・セージと申します。」
「同じく、局員のシャガです。」
ワタシハマーガレットトイイマス…
「マーガレットさん、どうもこんばんは。」
俺はオルゴールに向かって挨拶をする。
ゴテイネイニアイサツシテモラッテ…
「コレって持ってもみてもいいですか?」
シャガが尋ねる。
「えぇ…」
「へー凄い本当に、魔法で動いてないんだ…あっ…!」
シャガの手が滑って、オルゴールが手からこぼれてしまう。
「危ない!」
父親が必死にキャッチする。間一髪だった、ギリギリ受け止めるのが間に合った。
「…気をつけてください…」
父親がシャガを睨みつける。
「す、すみません」
シャガがバツが悪そうな顔をして、頭を下げる。
「ところで、マーガレットさんはオルゴールの中にいるんですか?」
シャガが話題を変えるためにオルゴールに向かって尋ねる。
「…いえ…マーガレットは天国から話してくれているのです…」
父親が口を開く。
「そうですか、一応お聞きするんですがこのオルゴールを我々がオルゴールを回収することは望まれますか?」
俺は父親に尋ねる。
「いえ…今は…しばらく考えさせてください…」
「そうですか、分かりました。ご相談がある場合は『遺物管理局』にお伺いください。」
俺たちはリビングに戻ってくる。
「どうでしたか…?」
アセビが小声で俺たちに声をかけてくる。
「そうだな…あまり問題は無さそうだ。ただ、依存気味なだけさしばらくしたら落ち着くと思うぞ。」
「また、心配になったら『遺物管理局』に来てね。」
俺たちも小声で返事をする。
「そうですか…わがままを聞いてくれてありがとうございました。」
「いやいや、僕たちも久しぶりの外仕事でワクワクしたよありがとうね。」
シャガが優しくアセビの頭を撫でる。
日が暮れてきた。早く帰って、書類の残りを済ませてしまおう。
「シャガ、戻るぞ」
「分かりました。じゃあなアセビちゃん」
シャガがアセビに手を振る。
「ありがとうございました、シャガさん!」
アセビも手を振る。俺にはありがとう無しかよ…(悲しいなぁ…)
帰り道の途中、俺は何か少しの違和感を感じていた。その正体が何か俺は分かっていなかった。
「セージ先輩!早く戻りましょうよ!」
シャガが走り出す。
「あのなぁ、俺はそんな早く走れねぇっての…」
俺も早歩きでシャガを追いかける。
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アセビは夜ご飯を食べ終わり、お皿を洗っていた。
チャリン♪ポラリン♪ピロロリン…
ふと、父親の部屋からオルゴールの音が聞こえる。アセビはそっと、父親の部屋を覗く。部屋の中は暗く、父の姿は見えない。
アセビはコッソリと部屋の中に入り、オルゴールを持ち上げる。
ゲ…テ……
オルゴールから声が聞こえる。
「なんて言ってるの…」
アセビはもっと耳を傾ける。
ウ…シロ…ニ…ゲ…テ……
アセビが後ろを振り返る。すると目の前に父親が視線を合わせてしゃがみ込んでコチラの目をじっと見てくる。部屋が暗いままなのも相まって、目には精気が感じられない。
「お…父さん…?」
アセビは声を震わせながら、父親に声をかける。
「……」
父親は娘の声に返事をせず、娘の手元からオルゴールを取り上げる。
そのまま、オルゴールをアセビにじっと近づける。
アセビはだんだん、目眩がして意識が薄れていった。
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あれから1週間ほどたった。
「はぁ、今日も結局書類作業ばっかですね…アセビちゃん来ないかな…」
シャガが文句を言いながら、書類に目を通している。
「あのなぁ、本来はコレがメインなんだから…」
俺がシャガに小言を言おうとすると、部屋の入り口の扉が開く。
アセビとその父親だった。
「やぁ、アセビちゃん久しぶり元気だった?今日はどうしたの?」
シャガが元気に書類の山から抜け出し、アセビ達の元に駆け寄る。
「実はコレを渡しにきたんです。」
アセビが笑顔で例のあのオルゴールを渡してきた。
「あれ、お父さんいいんですか?手放してしまっても…」
シャガが疑問に思い、父親に聞く。
「はい…妻の声もそれからはもう聞こえなくなってしまったので…必要なくなってしまいました…なので『回収』して頂きたいんです。」
父親が口を開く。
「そうですか…そう言うことならば『回収』させていただきます。」
俺が、オルゴールを父親から受け取る。
「じゃあね、アセビちゃん。バイバーイ、また来てね〜」
シャガがアセビに手を振る。
「さようなら、シャガさん、セージさん。」
アセビはすごく丁寧な挨拶をして、父親と手を繋いで帰っていった。アセビの首元には赤い花のようなペンダントがぶら下がっているのが見えた。
「仲の良い家族ですね…このオルゴールに依存することも辞めたみたいだし。僕、こういうのに弱いんですよ…」
シャガが目に少し涙を浮かべる。
「アセビ…少し不吉な名前ですね…」
ゴーンズさんが顔を出す。
「そうなんですか…?」
シャガが尋ねる。
「えぇ…アセビという花の花言葉には『犠牲』という意味があって…」
「えぇ…なんでそんな怖いこと言うんですかゴーンズさん…」
シャガは少し、その話にビビっている。
何かがおかしい…確実に何か違和感がある…なんだ…なんなんだこの感覚は…
「それより、『死者と会話できるオルゴール』使ってみましょうよ!」
シャガがオルゴールを起動する。
チャリン♪ポラ…ジジジ…ザーザザザ…
オルゴールはノイズが走っていて、うまく動かない。
「えぇ…壊れちゃってるんですかね…」
シャガが残念そうに言う。
いや、そんなことはないオルゴールだとしても『遺物』は『遺物』だ。故障という概念は存在しない。破壊されたか…もしくはオルゴールを動かしていた何かがオルゴールから離れたかだ。
やはり何か違和感が…
「つまんないの〜」
シャガが書類に寄りかかる。書類の山はぴくりとも動かない。そりゃあそうだ、何しろ俺のスキ…ル…が…
俺は気づく、そうだあの時は…どうして気づかなかったんだこの違和感に…
俺は駆け足で部屋から出ていく。
「え!?セージ先輩、どこに… 」
俺が部屋から離れたため、書類の山が倒れてくる。シャガが書類の下敷きになる。
「グエーッ…先輩…」
書類に押しつぶされ、シャガはぐったりとする。
ジッ…ジジジ…
オルゴールから小さいが何か音が聞こえる。
オニ…イ…サ……ン…
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「ハァ…ハァ…」
俺はアセビ達の家の前についた、もう日が暮れはじめている。だが、確認しなければいけないことがある。
俺は扉を叩く。
「あっ、セージさん。こんばんは」
中からアセビが出てくる。首元のネックレスが揺れている。違和感が確信へと変わっていく。
「やぁ、アセビちゃん。お父さんいるかな?」
「はい、いますよ」
アセビは俺を家に招き入れる。
「おや…あなたは管理局の…どうしたのですか…」
父親は何食わぬ顔で食卓に座っていた。
「アンタに聞きたいことが4つある。」
「…なんでしょう?」
「まず1つ、アセビは誰だ?」
俺はアセビ?を指差す。アセビ?は笑顔を浮かべたまま食器を片付け、始めた。
「誰って…私の娘のアセビですよ…」
「いや、そんなはずはない。俺はアセビに自己紹介はしてない。だから俺の名前を呼んでいるのはおかしいんですよ。」
「そんなの私が名前を教えてあげれば良い話じゃないですか」
父親の声に力が入る。
その間もアセビ?は動揺せず、食器を台所に運んでいった。
「確かにこの質問だけならそう言えるよな…じゃあ2つ目の質問。なんでアンタ、後輩が質問した時に嘘をついたんだ?」
[奥さんはオルゴールの中にいるんですか?]
「確かにそんなこと仰ってましたね、ですがその質問が何か?」
「おかしいんですよ、なんで奥さんはあの場にいないとあなたは仰いましたよね?俺が挨拶をしたことがどうして奥さんは分かったんですか?」
男は黙って話を聞いている。
「答えてくれませんか…では3つ目の質問。あなたの持ってたオルゴール…アレ、生きてるよな?」
「はっ、何を言い出すかと思ったら…あのオルゴールが生きてる?どこにそんな証拠が…」
父親の口元が引きつっている。
「このペンを見て下さい。」
俺は懐からアダマンハイト製のペンを取り出す。
「ペン…?」
父親の頭に疑問符が浮かぶ。
「コレをこうするとっ…」
俺は父親に思いっきり投げつける。
しかし、父親には当たらない。
「おいおい…ここまでかよ…」
俺は驚愕する。さっきまで台所にいたアセビ?が一瞬でペンと父親の間に入っている。人間業とは到底思えない。
しかしペンは空中で制止している。
俺が宙に止まっているペンを手に取る。
「俺のスキルの『浮遊』はこんな風に無機物の動きを自動で停止させられるんだ。だが、俺の後輩がオルゴールを落とした時、それは発動しなかった。もう言わなくても分かるよな。」
父親とアセビ?は沈黙を貫いている。
「よし、それじゃあ最後の質問だ。そのオルゴール、『魂を閉じ込めて、他の魂を吹き込む』能力だろ?」
2人は答えない。
「ずっと不思議に思ってたんだ。なんでアンタは自分の娘に母親の声を聴かせてやらなかったんだ?って、隠す必要が分からなかった。だが、能力が別なら分かる、能力を使うやつには教えられねぇよな。どうだ?そちらからのご質問は?」
「私たちの…」
父親が口を開く。
「私たち夫婦の邪魔をするなぁ!」
父親が声を荒げ、皿を投げる。目は真っ赤に血走っている。
しかし、皿は俺の目の前で止まる。
「そんなことより、本物のアセビちゃんはどこだ?」
「アセビ?あの子はオルゴールの中さ…あの子は『身代わり』だからね…愛するマーガレットの…」
父親は薄気味悪い笑顔を浮かべる。
「そうかよ…とりあえず着いてきてもらおうか…」
俺が一歩前に出る。
すると、アセビ?が襲いかかってくる。
「…なっ!?」
俺は反射的に皿をアセビ?の方に向ける。
アセビ?の拳が皿を割りながら、俺の両手に叩き込まれる。
メキッ…
腕にヒビが入るような音がする。
「グッ…」
俺は痛みをグッと堪える。
「お前が…お前が悪いんだ…私たち夫婦の邪魔をするから…」
父親はぶつぶつと何か呟いている。
「アンタ…なんの魂を入れた…こんなの人間の…」
俺が言葉を発する前にアセビ?が俺の首を持ち上げる。コレが引く歯もない年の少女が出せる力のはずがない。
俺は必死にもがき、足をバタつかせる。しかし、次第に力が入らなくなる。
「ちく…しょ…」
トントン
扉をノックする音が聞こえる。
「アセビちゃ〜ん!いるぅ〜?シャガだよ〜」
(シャガ…ダメだ今来たらお前は…)
俺は最後の力を振り絞り、ペンに1つの命令を下す。
ペンが命令を実行する前に俺の意識は途切れてしまった。
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「大丈夫ですか…?シャガ君…」
ゴーンズさんが下敷きになった僕を書類の山から掘り出してくれる。
「ありがとうございます、ゴーンズさん。それよりセージ先輩は一体どこに…」
チャリン♪ポラリン♪ピロロリン…ジジジ…
オルゴールからノイズが走っている。
オニ…イ…サ…ン…
「この声…アセビちゃん…?でもさっき…」
僕は疑問に思う。僕はあまり頭が良くない、だからいつも体が先に動いてしまう。
「……先輩が危ない」
僕は全力でアセビちゃんの家に走る。理由はわからない。でもそこに行かないとまた後悔する気がするから。
ゴーンズがオルゴールを拾う。
「君が…アセビちゃんかな…それと貴方はお母様ですか…?」
…ワカル…ン…デス…カ…?
さっきとは違う声色が聞こえる。
「えぇ…私はこの手のものを何度も見て来ましたから…」
アノヒト…ヲ……オッ…ト…ヲ…トメ……テ
「もちろんです…私の自慢の局員達にお任せ下さい…」
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僕は日が完全に暮れる直前になんとか間に合った。
トントン
僕は扉をノックする。
「アセビちゃ〜ん!いるぅ〜?シャガだよ〜」
しばらくすると、中からアセビちゃんが出てくる。
「あら、シャガさん…どうしたんですか?」
「やぁ、アセビちゃん。先輩来てるかな?」
「いえ、セージさんは来てませんよ?」
アセビちゃんは首を傾げる。
「そっか…」
僕は踵を返す。ただちょっと疑問に思ったので聞いてみる。
「アセビちゃん、先輩ってアセビちゃんに自己紹介ってしてたっk…」
僕が振り返ろうとした瞬間、アセビちゃんが僕の襟を引っ張って家の中に連れ込む。
「アセビ…ちゃん…?」
先ほどのような優しい瞳には光が籠っていない。まるで、人形のように…
「お前も私たち夫婦の邪魔をしにきたのか…」
アセビちゃんのお父さんがテーブルに座っている。
「どういうことですか…」
僕には何のことかさっぱりわからない。
「ふん…今頃シラを切っても遅い…お前のアイツのようにしてやる…」
「アイツ…?」
部屋の片隅に煩雑に置かれているものが目に入る。先輩だ。お腹から血を流しながら、倒れている。
「えっ…先輩…?」
僕は動揺を隠せない。手が震える、体中の毛穴が開く感覚がする。
「ハッハッハ!僕たちの愛の邪魔をするからだ、アセビだって親のために『犠牲』になれて幸せだろうよ!」
アセビちゃんのお父さんが狂ったように笑う。
「アセビちゃんを『犠牲』に……?」
僕はようやく理解しだす。
この人が…いや、コイツがぁ…
僕は感情の高まりを感じる。ダメだここでそんな…
僕は頭を抱える。体が震える…チカラガ高まる…
血の気が一気にひき、体が真っ白になっていく。髪は抜け落ちていく。目は白目を剥く。
僕の理性はここで消えてしまった。
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「な、なんだ…この化け物は」
父親は目の前の局員が怪物に変貌し混乱する。
「マ…マーガレット…!アイツをどうにかしてくれ!」
父親はアセビ?に命令する。
アセビ?が怪物に殴りかかる。しかし、アセビ?の腕が掴まれ、壁に投げ飛ばされる。棚に置かれていた食器が全て落下して割れる。首元のネックレスも粉々に壊れる。アセビ?はもう動かない。
「ヒッ…こっちに来るなぁ!」
父親が手元にあるものを手当たり次第に投げる。
しかし、怪物は止まらない。どんどん足元を進めてくる。
怪物の手が父親の腕に伸びていく。
ベキィッ!
父親の腕が鉛筆のように簡単に折れる。
「ギィィィィアァ…痛いぃぃぃ」
今度は父親の頭に手をかける。
「ヒッ…やめっ…」
次の瞬間、何処からかペンが怪物の首元に突き刺さる。鮮血が勢いよく吹き出す。
怪物が倒れる。傷口はみるみる塞がっていき、頭にはまた綺麗な金髪が生え、血色も良くなっていく。シャガがスゥスゥと気持ちよさそうに寝ている。
「ハァ…ハァ…間一髪だったな…」
セージがよろよろと立ち上がる。
「ペンに命令しておいてよかった『俺を蘇生しろ』ってな、こんなやり方だとは思わなかったけどな。痛てて…」
俺は腹の刺し傷をみる。血が結構出てる。後で止血しないとな…
「さてと…今度こそお縄についてもらおうか…」
麻縄を取り出す。
『コイツを縛れ』
麻縄が男の体に巻き付いていく。
「ちくしょう…ちくしょう…」
父親はそんなことを呟きながら、俺が後から呼んだ警備隊に連れて行かれた。
「う、うーん…」
シャガが目を覚ます。
「あれ、先輩…僕…?」
「あぁ、暴走してたよ。思いっきりな、言ったろ感情をきちんとコントロールしろって」
そう、俺の後輩は普通じゃない。ただ、その事を話すと長くなるのでまたいつか機会があれば…
「す、すみません。あの!アセビちゃんは…」
シャガが俺に問いかける。
「あぁ、さっきゴーンズさんに連絡した。おそらくだが、元に戻せるらしい。」
「そうですか…よかった…」
シャガは安堵した表情をする。
「僕、この仕事…もっとやりたいです…」
シャガが自身の手を握りしめる。
「そうか?俺はもう勘弁だけどな…」
(お前がこれ以上傷つくのを見るのがな)
「今回みたいに『遺物』に心を奪われて、狂ってしまう人を助けてあげたい…」
「そうか…じゃあさっさと書類を片付けなきゃな」
「えぇ…なんでそうなるんですか!?」
シャガは驚く。
「ほらさっさと帰るぞ。ゴーンズさんばっかりに書類を任せるのも忍びないだろ」
俺は暗い夜の町を歩きだす。
「あっ、ちょっ!待って下さいよ!」
シャガがその後を追いかける。
俺たちは暗闇の中に消えていった。
以上が
遺物No.0833-a 『屍者の自鳴琴』の 記録 である
いかがでしたでしょうか?
これからもセージとシャガのコンビは『遺物』に関わっていきます。
初めてのホラー?だったため何から始めていいか分からず、怖いかどうかも個人的にはわかりません。どっちかと言うと、ファンタジー×ミステリーみたいやったなぁ(反省)
人気だったら続きも書いてみたいね
〈補足〉
『屍者の自鳴琴』
人ならざるナニカ(No.0833-β )が閉じ込められていたオルゴール型の『遺物』(No.0833-α)。能力は魂を閉じ込め、その魂の情報を模倣することが出来ると思われる。しかし、今は動かない。
〈余談〉
ワタクシの作品を見てくださってる方は気づいたかもしれませんが、『村人Rは呪われた!』と同じ世界のお話です。読んだことが無いよって方はチラッと見てくださると喜びます。




