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205.金流と物流  1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

ブリュッセルの朝に日の出はない。


少なくとも、その日俺が目を覚ました時には。


太陽が昇らなかったという意味じゃない。この街の朝は、何度も赤ペンを入れられた公文書みたいなものだ。形式だけあって、感情がどこにもない。窓の外は均一な灰色で、運河沿いの風が煉瓦の隙間から押し入ってくる。湿気と軽油の匂い、それに街が動き始める時の、あまり歓迎されない金属音を連れて。階下では誰かがゴミ箱を引きずっている。向かいの配送トラックがバックするたびに、耳障りな警告音が鳴る。俺の肩の奥で、破片と荒っぽい縫合でかろうじて押さえ込まれている痛みも、律儀に目を覚ました。


目を開けて最初にすることは、時間を確認することじゃない。


自分がまだブリュッセルにいて、バストーニュじゃないことを確かめることだ。


もう習慣になっている。


バストーニュみたいな場所は、耳鳴りを砲撃の前触れと錯覚させる。窓の外のエンジン音をすべて装甲車の履帯に聞かせる。夢の中の焼け焦げた白い雪とドイツ軍機械化部隊の残影を、翌日も、翌々日も、もう終わったと思った後まで引きずらせる。ナチスの祭壇が爆発したあの日、俺の中の何かも一緒に吹き飛んだんだろう。ただ、まだ拾い集める暇がないだけで。


起き上がると、包帯の下の肉がペンチで内側からひと捻りされたみたいに痛んだ。希(シキ)には昨日釘を刺されている。今日また出かけるなら、まず傷口を見せろ。そうじゃないなら、痛み止めをスパナに替えることも考えるって。


その言葉を、俺は一ミリも疑っていない。


このチームで一番怒らせちゃいけない人間は、憑依状態の葉 綺安(イェ・キアン)でも、顔色が沈んだら人を三途の川に送りそうな林 雨瞳(リン・ユートン)でもない。救急箱を持って、目が冷えている希(シキ)だ。彼女だけが、本当にどこが脆いかを知っているから。


服を着て階下に降りると、キッチンからもう音がしていた。


焦げたパンの匂い、安物のコーヒー粉が熱に溶ける苦み、プラスチック包装が破かれる音、それから蕾切爾(レイチェル)が固着したガス栓と格闘している声。こういう朝には、奇妙なほど普通の感触がある。俺たちがドイツ軍の残影と工業呪術の外殻とナチス祭壇の破片が全部ごった煮になった地獄の縁から這い出てきた人間じゃなく、外地で予定を詰め込みすぎて、まともなホテルにも泊まれない貧乏旅行者みたいに。


だがダイニングに入った瞬間、今日が普通の外出じゃないと分かった。


テーブルの上はまた書類だ。


積み重なっている。保険摘要、海事法務の連絡先リスト、古い記事の印刷稿、港湾外縁の地図、コンテナ番号の対照表、林 雨瞳(リン・ユートン)が赤ペンで事件現場みたいに丸印をつけまくった物流フロー図。レミは昨夜おそらく三時間も眠っていないのに、目の下にクマを作りながら、真実でも摂取したみたいにテンションが高い。クレールはすでに隅で二台のノートPCを開き、一台でデータを回しつつ、もう一台で昨日アントワープから持ち帰った公開記録を照合している。ジュリアンは冷めたサンドイッチを囓りながらバストーニュ映像の二回目の仕分け作業中で、ヘッドホンを首に掛けたまま、戦地の編集室から抜け出してきたような顔をしている。


エリザヴェータは窓際に立っていた。座っていない。あの人が立っているときは、命令を下す準備ができているときだ。


林 雨瞳(リン・ユートン)はテーブルの端に座り、ほとんど飲んでいないブラックコーヒーを脇に置き、一本のペンと資料の束に向かっていた。俺が入ってくると顔を上げ、一言だけ言う。


「まだ動ける?」


「どっちの答えが聞きたい?」


「本当のこと」


「本当のことを言えば、動けるけど動きたくない」


「上等」彼女はうなずく。「まだ使える」


別のチームならこれはパワハラだが、俺たちの間ではこれが朝の挨拶だ。


椅子を引いて座ると、希(シキ)がすぐさま救急箱を引きずってきて、警察の職質みたいな勢いで俺を押さえた。包帯を解く手つきは速くて、速すぎて冷酷に近い。肩が空気に晒された瞬間、消毒液と血の匂いがふわりと立ち上がる。彼女は数秒見て、眉をはっきりひそめた。


「今日は正面からぶつかったらあかん」


「俺がいつ正面からぶつかった?」


「頭のてっぺんから爪先まで、正面からぶつかって生き残ってきたやろ」


言い返せなかった。されるがままに包帯を替えられる。彼女の手加減はなく、俺はテーブルの角を折りそうになった。葉 綺安(イェ・キアン)が向かいに座って湯飲みを両手で包んでいる。こちらを見ていないのに、全部見えているみたいだった。


今日の彼女は静かだ。


バストーニュ以降、もともと生きている人間らしくない冷たさが、さらに一段はっきりしてきている。弱っているわけでも熱があるわけでもない。彼女の何かがまだナチス祭壇の崩れ落ちる音の中に留まっているみたいだった。昨夜も祭壇の破片を入れた防護ケースと同じ階で過ごしていた。今そのケースはダイニングの隅に置かれ、外側を防火布で二重に包み、底に塩の輪と符紙を敷いてある。文明が呪いを無理やりプラスチックの箱に詰め込んだみたいな見た目だ。


「始めましょう」エリザヴェータが口を開く。


部屋が静まった。


余計な前置きはない。今日の段取りを直接話す。


「ブリュッセルの留守組は動かぬ。外が綺麗すぎる。綺麗すぎて、おかしい。誰かが拠点を、映像を、破片を、撤退路を見張らねばならぬ。前出は引き続き二手に分かれるが、今日は昨日の様子見とは違う。アントワープの線に、本格的に食らいつく」


そう言いながら、テーブルの上の地図を二枚、中央に押し出す。


一枚はアントワープ港湾周辺。もう一枚は、保険鑑定から海事法務、通関代理、倉庫外縁、公開資料の節点まで並べた作業リストだ。


「一手目、保険と偽マニフェストを当たる」筆先で左の地図を叩く。「二手目、港湾外縁と公開資料を回る。どちらも中枢埠頭には触れない。封鎖倉庫にも触れない。侵入しなければ見られないものには一切触れない。今日の目的はただ一つ——昨日嗅いだ血を、噛みつける肉として確認すること」


レミが顔を擦る。ようやく自分の出番が来た顔だ。


「記者組は?」


「主力よ」林 雨瞳(リン・ユートン)が引き取る。声は判決を読み上げるみたいに平らだ。「この章は銃撃戦じゃない。公開資料の中から、死人が隠した牙を見つけ出す根気比べ。レミ、クレールは一組で港湾外縁と資料拠点を回る。蕾切爾(レイチェル)が同行して、接触と言語対応と現場の締めを担当する」


蕾切爾(レイチェル)は目を上げ、異論を示さない。


「もう一組は」林 雨瞳(リン・ユートン)が俺を見る。「私と周 士達(ジョウ・シーダー)、それからヴィクトリア。保険と偽マニフェストの線を追う。昨日の再保険会社、損害調査代理人、倉庫担保の弁護士、海事コンサルタントを一つずつ当たっていく。繰り返し出てくる名前を探す。繰り返し出てくる特約を探す。あのコンテナが貨物じゃなく『名前』を運んでいるという証拠を探す」


俺はうなずいた。


合理的な分け方だ。だからこそ、気持ちが悪い。


今日は全員が一台の車に乗って突っ込む話じゃない。いくつかの歯車に分かれて、それぞれが自分の位置を噛む。バストーニュみたいな場所なら火力を一点に集めて、後は運に任せればよかった。ここは違う。ここでは分散を覚え、切り離しを覚え、必要とあらば自分を書類から引き剥がすことも覚えなければならない。


「留守組は」エリザヴェータが続ける。「妾、希(シキ)、葉 綺安(イェ・キアン)、ジュリアン。希(シキ)は医療と拠点の緊急対応。葉 綺安(イェ・キアン)は破片の監視。ジュリアンは遠隔での交叉照合と映像処理。妾は全体の流れを見て、必要に応じて地下線と連絡を取る」


林 雨瞳(リン・ユートン)が付け加える。「毎日二回、固定の報告窓口。昼の一時と夜の七時。三十分過ぎて連絡が取れなければ、切断プロセスを起動。待たない」


「合言葉は?」俺が聞く。


「変えない」彼女は言う。「通常は固定の文句。外部監視があれば第二セット。バストーニュと同じ属性の異常——錆の中に甘い匂い、機材が理由もなく曇る、録音に金属の摩擦音が繰り返し入る——は即時撤退」


葉 綺安(イェ・キアン)がようやく口を開く。声は小さい。


「コンテナエリアにその匂いがしても、無理に近づかないで。工業の外殻は、ああいうものを養うのに向いてる」


俺は彼女を見る。


彼女は俺を見ず、テーブルの地図だけを見ている。


「バストーニュのあの残影が動けたのは、戦場の記憶と祭壇が引き裂いた縫い目があったから。港は違う。港が使うのは容器と名簿と航路。装甲の列なんて要らない。箱が一つ、保険証券が一枚、黙認された番号が一つあれば、汚いものを海の向こうへ送れる」


あまりに静かな言い方が、ダイニング全体をさらに冷やした。


誰もその話を続けなかった。


みんな分かっているからだ。ベルギーのこの線が本当に北へ延びているなら、俺たちがこれから触れるものは、バストーニュみたいに鉄十字と鉄帽を堂々と掲げてはいないかもしれない。もっと静かで、もっと貨物に似ていて、もっと保険会社に認定された正常なリスクに似ているかもしれない。そういうものの方が、たいてい始末に負えない。榴弾を保険証券に向けることはできないし、港湾システムの合法的な航路を呪術と呼ぶことも難しい。


エリザヴェータがコーヒーを最後まで飲み干す。カップを置く音が、乾いてはっきりしている。


「出発前に各自装備を確認せよ。書類、偽身分証、現金、予備携帯、紙の地図、応急薬品、全部分散して持て。今日は勝ちに行くんじゃない。次に噛みつける骨を一本確保しに行く。アントワープで英雄ごっこをしたい者がいれば、妾が先にブリュッセルで皿洗いをさせる」


俺はレミをちらりと見た。


彼は手を挙げる。「俺は調査報道がやりたいだけです」


「それの方が危ない」俺は言う。「調査報道は弁護士に殺される」


クレールが盛大に目を丸くする。「今日は縁起でもないこと言わないでくれる?」


「俺のこの口、ずっと喋り続けてみんなまだ生きてる。お守り機能があることは証明済みだ」


「それはお守りやない」希(シキ)が薬を俺の手に押し込む。「命が硬いだけ」

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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