2話 美人なクラスメイト
始まった高校生活。
日々勉強も頑張っていて授業にもついていけている。
「なあ、2組の吉野美月、可愛いよな!」
「ああ、あれだけ美人で彼氏いないらしいぜ」
俺の想い人であり幼馴染の吉野美月。
入学当初から美月は容姿端麗な上に成績優秀、学校の男子生徒たちから絶大な人気を博していた。
「あ、おはよう!吉野さん!」
「ねえ、吉野さん、今日放課後に皆で遊びに行かない!?」
美月が登校してくるとクラスのカースト上位の生徒たちが彼女の元へ駆け寄っていき、そこから大きな集団の輪ができる。
「うん、いいよ。楽しみだね」
美月もその集団の中では笑顔が絶えない様子でとても楽しそうだった。
……かくいう俺は……教室の端の席に座り一人寂しく窓の外を眺めている。
俺は美月を振ってしまったことを気にしていて、高校生活に馴染めずにいた。
あれ以来、美月とは会話をしていない。
幸か不幸か俺と美月は同じクラスのため、毎日学校に登校すると嫌でも彼女の姿を見ることになる。
それがすごく辛くて……。
いや……辛くて気まずいのは向こうの方だよな……。
「なあ、池田さんも放課後一緒にカラオケ行かないか?」
「いえ……私は……いい」
俺の隣に座っている池田さんという女子生徒はせっかく誘われたのに、素っ気なく断ってしまった。
美月たちのグループはクラスの生徒たちに順番に声を掛けている。
クラスの生徒たちを大勢誘って、放課後クラス会のようなものをするつもりなのだろう。
「ほ、ほら池田さん、あまりクラスに馴染んでないからどうかな?俺たちと遊ぼうよ!」
複数の男子生徒が池田さんを囲ってしぶとく誘うが、彼女は首を縦に振らなかった。
「……あの……鬱陶しいから話しかけてこないで」
そうきつい言葉を返した池田さんは読んでいた本を閉じて、不機嫌そうに席から立ち上がり教室を出て行ってしまった。
「もう、なにしてるの男子!池田なんて誘わなくていいよ!」
クラスの女子生徒たちは池田さんのことを良く思っていないのか、誘っていた男子生徒たちに注意を促した。
「いいじゃんか、池田さん可愛いし。いつも一人でいて可哀そうだろうが」
俺の隣の席の池田凛さん……だったけ……。
彼女も俺と同じで教室でいつも一人でいる。
高校生になってまだ日は浅いが、彼女が社交的な性格ではないことは容易に想像ができる。
「あ、三上くん……だったよね?もしよかったら放課後────」
「ちょっと!三上も誘わなくていいって……」
俺にも放課後のお誘いが掛かりそうだったが……。
「あ、あー、ごめん、三上くん。なんでもないや」
それは美月の傍にいたクラスメイトの一声でかき消されてしまった。
「三上って吉野さんの告白断った奴だよ、そんな奴誘わなくていいよ」
「そうだな、三上が来たら吉野さん楽しめないもんな」
ヒソヒソと話をしているつもりなんだろうけど、俺の耳には彼らのノイズがしっかり届いている。
そう……美月が俺に告白したという事実は学年全体で有名な話になっている。
まあ、その現場が学校の正門前だっただけに多くの生徒の目に触れてしまったので仕方ないだろう。
勿論、俺が美月を振ったことも周知の事実だ。
「いい?三上と池田は誘わなくていいから!」
これ以上、教室に居づらい俺は席から立ち上がり教室を出ることにした。
次の授業は先生が体調不良で休みのため、たしか自習だったはずだ。
教室を退出する時、美月とすれ違った。
その時見えた彼女の顔はさっきまでクラスメイトと楽しそうに笑っていた明るいものではなくて、眉間にしわを寄せたその表情は……とても辛そうに見えた。
♢
「ここは……落ち着くなぁ」
俺が今いるのは旧校舎にある空き教室。
この旧校舎自体あまり人の出入りが無いため、ここでサボっていても見つかることはまずない。
「み、三上くん……」
適当に椅子に座って机に突っ伏して寝ようとしていた最中、突然俺の名を呼ぶ声がしたので驚いて振り返ると、さっき教室を不機嫌そうに出て行った池田さんの姿が視界に入った。
「い、池田……さん……?」
「あ……ごめん……私も……その、サボりで……」
無口で誰も寄せ付けないイメージの池田さんが、いつもより柔らかい表情で俺の話しかけてきた。
そのまま彼女は俺の隣の空いている席に腰を下ろした。
「あの……これ……」
彼女はポケットから鉛筆と消しゴム、定規を取り出して俺にそれら差し出してくる。
なんでこんなものを俺に……?
一瞬そう思ったが……。
「あの時は、ありがとうございました!」
深々と頭を下げてお礼の言葉を口にした池田さんを見て話の合点がいった。
「ああ、いや、役に立てて良かったよ」
そうか……入試の時、隣の席に座っていた女の子に貸した筆記用具だ。
その女の子が池田さんだったんだ。
正直、高校受験を終えてから今日まで美月のことばかり考えていたため、筆記用具を貸した相手のことなんて忘れていた。
「池田さんって、もっと怖い人だと思ってたよ」
話してみると池田さんはとても素直な性格の女の子だった。
「べ、別に、私、普通だと思うけど……」
入試の時、池田さんの鞄から筆箱が無くなっていたらしい。
「私、中学ぐらいから周囲の人たちによく思われてないみたいだから……」
高校に入学してまだ日は浅いが、池田さんを中傷するような陰口が時々教室で聞こえてきりたりする。
それはほとんど女子生徒からだった。
「池田さんは美人だから、同性から嫉妬されてるんだろうな」
「多分、そうなんだろうね」
「はは、自分が美人だってことは否定しないんだね」
「そういう三上くんだって容姿には自信あるでしょ?イケメンだし」
「え?俺が?」
自分のルックスに自信を持ったことなんて俺は一度もない。
「うん、三上くんは内面も外見もカッコいいと私は思うよ」
静かに微笑みながら池田さんは好評してくる。
中学時代、同性からの嫉妬や嫌がらせを受けてから、彼女は他人とはなるべく距離を取るようにしているらしい。
俺もクラスメイトが嫌がらせを受けた過去があるため彼女の話に共感していた。
まあ、俺の場合はその時も美月に助けてもらったんだけど……。
「え?池田さんもラノベとか読むの?」
「うん、読むよ。文学小説は文章が固くて好きじゃないけど、こっちはストレスなく読めるし」
普段教室で一人でいる俺は誰かとこんなに長い時間会話をすることが久しぶりでとても楽しかった。
居心地の悪い教室とは違って、気持ちがとても安らぐ。
しかし、そんなひと時は長くは続かないもので、俺たちの会話を妨げるように大きなチャイムが空き教室に響き渡った。
「チャイム鳴ったな……。休み時間短いから早く戻らないと」
「うん……そうだね」
名残惜しさを押し殺しながら、俺たちは重い腰を上げて旧校舎から出る。
「改めて本当にありがとう。入試の時、助けてくれて。三上くんみたいに他人のために行動できる人ってなかなかいないと思うから……凄いと思う、な」
少し照れながら池田さんはそんなふうに言ってくれるけれど、俺なんて大した人間ではない。
俺がそんなふうに行動できたのは、美月のおかげだ。
尊敬してるし、異性として好意を抱いている……それなのに、俺は周囲の目を気にして……美月を振ってしまった。
「あ、あの……そーくん……」
旧校舎から出て人けの無い中庭を通り過ぎようとした時、聞こえてきた優しい声。
曲がり角から姿を見せたのは、俺の想い人である幼馴染……。
「み、美月……」
突然現れた美月を前にして、俺は全身に緊張の汗をかいていた。




