第五話 定期評価面談です!魔王様。
魔王は玉座ではなく、デスクの前で固まっていた。
机の上には、一通の黒い封筒。
封筒の中央には、禍々しい文字でこう書かれている。
《定期評価面談のお知らせ》
「……来たか。」
魔王は深く息を吸い、魔力通信の水晶を起動した。
水晶の中に、巨大な影が映る。
『聞こえるか、魔王ロゼ』
低く、感情の読めない声。
大魔王だ。
「はっ、はい!魔界第七方面軍統括魔王ロゼ、です!」
背筋を伸ばす魔王。
『今期の世界征服進捗率を報告しろ』
魔王は震える手で資料を開く。
「えー……制圧率、ゼロ。恐怖指数、低下。代わりに――」
言い淀む。
『代わりに?』
「し、しあわせ指数が……異常上昇しております……」
沈黙。
水晶の中の影が、わずかに揺れた。
『……説明しろ』
「勇者が、城に滞在しておりまして……」
『勇者? 排除は?』
「その……教育中です」
『教育?』
魔王の喉が鳴る。
「勝手に動かれると困るので! 管理下に置いた方が効率的かと!」
一瞬の沈黙の後、大魔王は淡々と言った。
『つまり、部下の不始末を自分で抱え込んだ、と』
「……はい」
『評価、マイナスだ』
魔王の肩が落ちる。
『だが』
影が続ける。
『勇者による幸福指数の変動は、他方面でも観測されている』
魔王は顔を上げた。
『制御できるなら、使え』
「……え?」
『暴走すれば責任はお前だ。
失敗すれば降格、成功すれば現状維持』
「げ、現状維持!?」
『以上だ』
通信は一方的に切れた。
魔王は椅子に崩れ落ちる。
「……つまり」
呟く。
「勇者の管理責任、全部私?」
その時、ドアが開く。
「魔王さん!おやつの時間ですよ!」
満面の笑みの勇者。
魔王はゆっくりと立ち上がり、勇者を見下ろした。
「……いいか、勇者」
「はい!」
「今日からお前は――」
深く息を吸う。
「私の監督下だ勝手に人を幸せにするな。天気を変えるな。挨拶する時は許可を取れ」
勇者は目を輝かせた。
「わかりました!先生!」
「先生じゃない!」
頭を抱える魔王。
だが、小さく呟く。
「……教育係、か」
こうして魔王の業務に
「勇者教育」が正式に追加された。




