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第四話「俺の世界」

主人公『板橋 太陽』の体型変更のお知らせ。


変更前

 ・170cm52kg (ヒョロい)


変更後

 ・170cm85kg (でぶ)



 俺は今、電車に乗っている。

 帰宅途中だ。


 隣には、ウスイさんもいる。

 前の世界では王様をしていたらしいが、この世界じゃあ一般人だ。


 もともと彼が着てた革の鎧はやめさせた。

 あれは一般人の服装じゃないからな、漫画の服装だ。

 

 今は、俺のおふくろが昔着てた服を着せている。

 ちょうどおふくろと身長がほぼ同じで、サイズが一緒だった。

 だから普通だ。なんなら似合ってる。

 いや、ちょっとガラ悪そうか?

 今どき花柄の革ジャンを着ている人はあんまいないよな。


 まあそれはいい、正直服装なんてなんでもいい。

 この東京じゃあ変な服装してるヤツなんて腐るほどいる。

 俺が気にすることじゃあない。

 気にするのは、ウスイさんがこの公共の場で変なことしないかだ。


 別にウスイさんを変人だと思ってるわけじゃない。

 ただ、前の世界と明らかに文明が違いそうじゃん?

 何かに動揺することもありそうじゃん?

 そうなった場合、

 びっくりした猫が、家の中を暴れ回る動画みたくならないとも限らない。

 俺はそれを事前に止めたい。

 でも、そんな心配いらないかもな。

 

 ウスイさんは今、突っ立ってるだけ。

 揺れる車内で、無表情の仁王立ち。

 つり革に掴まってすらないのに、身体が一切揺れてない。

 アスリート並の体幹なのは間違いないだろう。

 乗客の中でこれに気がつける者がいたら、そいつは東の高校生探偵だろうな。


 ちなみに俺は西の高校生探偵の方が好き。

 ……やめとこ、死神に関わって、事件に巻き込まれるなんてたまったもんじゃない。

 

 とまぁこんな具合に、電車で1時間ほどで、

 家から最寄りの駅に着いた。

 あとは徒歩で15分ぐらいか。


 だがその前に、今日の朝、どこに行ってたかを話そう。

 

---


 今朝。

 俺とウスイさんはオヤジが運転する車で法務省に行ってきた。

 もちろん、ウスイさんの養子縁組の手続きのためだ。

 

 俺は外で待ってた。

 手続きに関してよく分からないし、興味もなかった。

 細かいことは気にしないぜ。

 だから詳しいことは知らない。

 でもウスイさんとオヤジは上手くやれたらしい。


 晴れてウスイさんは板橋家の一員となった。

 板橋 ウスイ。

 あんまし語呂は良くないな、本人は『気に入った』って言ってたけど。

 

 その後、

 オヤジはそのまま車で会社に行くということで、

 俺とウスイさんだけで帰ることになった。

 

 こんな感じだ。


---


 さて、今に戻そう。


 俺達は改札を抜けて、駅の外に出た。

 時刻は12時過ぎ。

 ちょうどお腹が空いてきたな。


「ウスイさん、初めての電車どうだった」

「ふむ、人が多いな。

 数人なら問題ないが、背後にあんなに多いと、見えない者の動きを把握するのが一苦労だ」


 なーにを言ってるんだアンタは。

 どこのニュータイプ?


「そう、じゃあ疲れた身体と脳に褒美をやらねぇとな」

「褒美?」

「飯に行こう、ちょうどこの近くに、飯が美味い喫茶店知ってるんだ」


 そうして、俺たちは路地裏に入っていった。

 

---


 それから間もなく。


 俺たちは『王子様とお姫様の羽休め』って看板を掲げてる喫茶店についた。

 ふざけた店名だろう?

 でもここの料理、デザートはなんでも美味いし、種類も豊富だ。

 そして何より、裏路地にあるせいか店内の客が少ないのだ、というかまったくいない。

 それが素晴らしい、静かで落ち着く。



 チリンチリンーー。



 入店ベルを鳴らすと、1人の男がやってきた。


「あら、タイヨウちゃん来てくれたのー! 嬉しいわぁ」


 この人はここの店主だ。

 俺は中学校の時からちょくちょくここに通ってるから、話す仲になった。

 しかし、俺は未だにこの人の名前を知らない。

 名札には『マダムと呼んで♡』と書いてある。

 

 もちろん俺は呼ぶ。

 怖いから。


「マダム、今日は2人なんだ。

 奥のテーブル席貰ってもいい?」


 カウンター席が6、テーブル席が8もあって、意外に広い。


「ええ、もちろんよ、あなたたちが今日は初客だもの、席は選びたい放題よ」


 相変わらず繁盛してないみたいだ。

 これでよく店が潰れないな。

 そんなことを思いながら店の奥に行く。

 

 しかし、座ろうとしたところで、

 俺はウスイさんがいないことに気がついた。

 

 店内を見回すと、ウスイさんはまだ入口付近にいた。

 なぜか、彼はマダムと見つめ合っている。


「タイヨウちゃんがお友達連れくるなんて珍しいわぁ、とんだハンサムボーイね、んーマッ♡」

「……」


 マダムが投げキッスをしてるのに、ウスイさんは無表情だ。

 あの人、感情ないのかな。

 あまりに変な様子だから、俺は吹き出しそうなんだが。


「貴様は男なのか? 女のか? どっちだ」


 ちょちょちょい待ち。

 ウスイさん、なんてこと聞くんだ!

 そういうのは聞かない方がいいって。


「うふふ、お・と・こ♡」


 ああ、良かった。

 無礼すぎて追い出されるかと思った。

 マダムの懐の深さに感謝しよう。


 俺はこれ以上ウスイさんが変なことを言う前に、立ち上がって手招きをした。

 ウスイさんはそれに気がつき、すぐにやって来て、俺と向かい合うように座った。

 

「ウスイさん、ああいうオカマの人に性別聞いちゃダメだよ」

「そうなのか、それはすまない」


 今日が、ウスイさんにとって初めての外出だから、仕方ないところはあるよな。

 気を取り直して、美味いもん食べよう。


 俺はスマホで店のQRコードを読み取り、メニューを開いた。

 ズラリと料理が並んだ画面をスワイプしながら、ウスイさんに見せる。


「ウスイさんはどれにする?」


 ウスイさんは俺のスマホを眺めていると、

 ある瞬間、ピタッと人差し指で画面を止めた。


「余はこれにしよう」


 どれどれ。

 にんじんホットケーキね。

 良いのを選んだなー。

 俺の古今東西ホットケーキランキングで、堂々の1位だよ、それ。


 じゃあ俺は、王道のナポリタンにしよっと。

 食後のコーヒーも付けてな、もちろん砂糖とミルクは必要。

 

「ウスイさん飲み物は何にする?」

「タイヨウの家で飲んだ緑茶はあるか?」

「待ってね、うーん緑茶は無いね、抹茶ならあるよ」

「それにしよう」

「ちなみに、マダムが直々に抹茶を点ててくれるんだよ」

「ほう」


 すげぇこだわりだよな。

 客が全然いないのがおかしいぜ。

 でも個人的にはいなくて嬉しい、俺だけが知ってる、知る人ぞ知る店ってのがたまらん。


---


 料理を待ってしばらく経った頃だった。


 チリンチリンーー。


 入店ベルが鳴った。

 来客だ。


 2人の女性か。

 この店を選ぶとは、なかなか見る目があるやつじゃないか。


 ……え、文京(ぶんきょう)さん!?


 チラッと見た2人の客のうち、1人は知っている人だった。

 中学校、高校、一緒だった文京(ぶんきょう) 春夜(はるよ)さん。

 運動も勉強もできて、すげぇ可愛いし、すげぇ美人。

 何度、彼女とデートする妄想をしたことか、数え切れない。


 だが、俺から話しかけることはない。

 なぜなら知り合いではないからだ。

 俺が一方的に知ってるだけ。

 話したことは2回ほどある。

 まあ教室に入った時の挨拶を、話したことに含める、ならばだけど……。

 

 さて、目が幸せになったところでご飯を食べよう。

 ちょうどホットケーキとナポリタンが運ばれてきた。


 ウスイさんなんて、マダムが運んでるところからずっとホットケーキを目で追ってる。

 意外と甘いもの好きなのかな。


「今日が初めてのハンサムボーイには、サービスあげちゃう」

「……どうも」


 お、ウスイさんラッキーだなー。

  にんじんホットケーキ、普通は3枚重ねところ、5枚重ねだよ。

 ただ、1番上に旗が刺さってるんだけど、マダム本人の絵がプリントされてる。

 すげぇな、どうやって作ったんだ?

 

 だが残念、マダムがいなくなった途端、

 ウスイさんが旗を無表情で取り除いちゃった。

 

「いただきます」


 俺はフォークを手に取った。

 スプーンは使わないぜ、あんなの子供が使うもんだ。


「もしかして、板橋くん?」


 俺がナポリタンをホークで華麗に巻き取り、口に運ぼうとしたところで話しかけられた。

 この声は、まさか!


「ぶ、文京さん」


 俺のイマジナリー文京さんじゃない。

 ちゃんと本人がテーブルの横にいた。


「え、覚えててくれたの、嬉しいー!」


 それは俺のセリフだ。

 まともに話したことないのに、なんで俺のことを覚えているんだ。

 

「高校ぶり? 同窓会は来てなかったよね?」

「あ、ああ、うん、そうだね」


 やめてくれ、

 そんな悪魔の宴会行くわけないだろ。

 中高6年間で同じクラスになった高校3年生の時以来だ。


「ちょっとハルヨー、トイレ行ってたんじゃないの? どしたのー?」


 俺たちのテーブル席から2個隣の方から声がした。

 どうやら文京さんの友達が、彼女の帰りが遅くて心配になったらしい。


「うん、あ! ごめんね板橋くん、またね」


 そう言うと、文京さんはお友達のいる席に行ってしまった。


 正直、文京さんとまた会えるとは思ってもみなかった。

 俺と同じ、24歳だよな。

 さらに可愛くなってた。

 そのせいか、すげぇ緊張したぜ、心臓バックバク。


 一旦ナポリタン食べて落ち着こう。

 そう思って、視線を自分の皿に戻す。


 すると、ついでにウスイさんの皿も目に入った。

 もうそこにパンケーキは無い。

 ウスイさんはちり紙で口元を優雅に拭き終わったところだった。


 完食すんの速すぎだろ。

 この俺が遅い側だと?


「美味である、気に入った」


 美食の審査員みたいなこと言うなー。

 

「さすがに目指すか、十傑第一席」

「……俺の漫画読んだ? 食戟読んだよね、絶対」


 この人、この世界の娯楽すごい勢いで吸収してる気がする。


---


 ふぅ、食った食った。

 あまりの美味しさにおかわりもしちまった。

 まあ、それはいつものことだ。

 

 でもまさか、ウスイさんがあんなに食べるなんてな。

 パンケーキを平らげたあと、パフェとクレープも食べるとは、

 板橋家のフードファイターである俺を脅かす存在だ。

 

 帰り際には、文京さんの席を通ったんだけど、見ると、文京さんと目が合ってドキっとしたぜ。

 しかも俺が頼んだのと同じナポリタンだった。

 ちょっと、いや結構嬉しい。


 だが、俺のわがままボディを文京さんに見られてしまった。

 さすがにだらしないって思われたかな。


 ぐおおお、痩せようかな。

 

 そんな一時の思いつきで、

 俺はすぐに家には帰らず、遠回りした。

 来たのは河川敷。

 何かしら運動をしようと思った。例えばジョギングとか。


 だが、ジョギングする気はもう無くなった。

 だって眠いもん。

 食ったばっかだぜ? 運動なんてむりむり。

 さっきは文京さんに見られてたからやる気が出ただけで、今は無愛想な王様が隣にいるだけ。


「ウスイさん、水切りってやったことある?」


 男が2人、遊ぶに決まってるよね。


「なんだそれは」

「ここら辺に落ちてる石を川に投げて跳ねさせる遊び、できるだけ平らな石がいいよ」

「ほう」


 俺がまず手本を見せてやろう。

 あれ? 隣でウスイさんが先に構えてる。

 だが、まさかのオーバースロー。

 普通はサイドスローのはずだが、なにか勘違いしてないか?


 次の瞬間。


 川が割れた。

 まるでモーセが海を割ったみたいに……いや、モーセが海割るの見たことないけど。

 もしかしたらこんな風に割ったのかな。


 まあそれはいいとして、

 とにかく凄まじかった。

 ウスイさんが石ころを投げてから川が割れるまで、タイムラグ一切ないし、

 投げた瞬間の風圧で俺は仰け反ってしまったし、

 隣にクシャルダオラが降りてきたのかと思った。


 てか、今の誰にも見られてないよな。

 俺は恐る恐る辺りを見回したが、俺ら以外に人はいなかった。

 運がいい。


「どうだ」


 どうだと言われても、石が跳ねたところ見てない。

 

「ウスイさん、全然ダメ」

「そうか、跳ねさせたんだがな」

「こうするんだよっ!」


 俺は脳内で何度も甲子園優勝を果たしてるピッチャーだぜ。

 見よ、この美しいフォームを、『きゃー素敵ー!』っと脳内で文京さんの黄色い声援が聞こえる。

 

 俺に選ばれた石は、水面をぴょんぴょん跳ね、15回目で対岸に到達した。

 もっと広ければ記録は30超えは間違いないな、フッ。


「……すごいな」


 ウスイさんの口から賞賛の声が漏れ出てきた。

 

 でも正直に言うと、アンタがやった事の方がすげぇよ。

 ウスイさん、魔法は使えないとか言ってたけど、じゃあ今のは素ってこと?

 それとも身体強化の魔法は魔法のうちに入りませーんってこと?

 

 どちらにしろ異世界こえーなー。

 俺、やっぱり異世界転移したくないかも。

 石ころ投げられただけで死んじまうよ。

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