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第二話「俺と一緒」

 朝、俺がベッドから起き上がると、目の前には椅子に座って頬杖をついてるウスイさんがいた。

 どうやら昨日起きた非現実的な出来事は夢じゃないらしい。


「目が覚めたか、タイヨウ」


 彼は足で床を蹴って、くるくると回転椅子を回しながらそう言った。

 めっちゃ暇してそうだ。

 

「おお、おはよう」


 俺は身体を起こしながら目覚まし時計を見た。

 時刻は11時半過ぎ、もう昼だ。

 いつも明日はもっと早く起きようと思っていても、またこんな時間に起きてしまった。

 いや、昨日はウスイさんと話してたら夜遅くなってしまったんだ。

 元々はやく寝るつもりだったし、うん、今日は仕方ない。


「さて朝ごはん食お、ああと、ウスイさんの分も用意しなきゃな」


 でも今日は土曜日だよな。

 オヤジ仕事休みだよなー、鉢合わせたくねー。

 ウスイさんをオヤジにあわせるのも嫌だな。

 どういう関係だとか、なんやかんや説明しろって言われるだろうし。


 そう俺が思っていると、ウスイさんから思わぬことを聞いた。


「余はもう食べた」

「え」

「タイヨウの母君と父君と一緒にな」

「……は……どゆこと」


 なに、おふくろとオヤジと朝ごはん食った?


「ど、どういう成り行き」

「今朝、トイレに行ったのだが、その時鉢あった。あ、ちゃんとタイヨウに言われた通りにトイレはしたぞ」


 いっや、トイレの仕方は教えたけど、聞きてーのはそこじゃねーよ。

 オヤジと鉢あってから一緒に朝食取るまでの間に何があったんだよ。

 おはよう、朝ごはん一緒に食べよかーってならねーだろうがよ。 

 もしかして、ウスイさんってコミュ力お化け?

 いや、だとしてもウチの頑固おやじと一緒に食事なんて、居心地悪くて仕方ないはず。打ち解けられるとは思えない。

 

「……オヤジになんか言われた?」

「父君からは特に重要なことはないな、母君からは伝言を頼まれた。

 『お母さん、お父さんとポケット怪獣カムやりに散歩しに行ってきます、朝ごはんは台所に置いてあるから、食べといてください』と言っていた」

「お、おう」


 オヤジのことだから、なんか嫌味の1つや2つ言ってそうだけど、ウスイさんの様子からして、本当に特になんも言われてねーのかな。

 まあいいか、とりあえず下に行こ。


 部屋を出て階段を降りる。

 すると、後ろをついてくるウスイさんが言った。


「朝食はパンっていうものに、薄く切られた肉と目玉焼きを乗せ、ソースとやらをかけたものだ、とても美味だったぞ」


 なんだ、ハムエッグトーストか、俺べつにそんな好きじゃねーんだよな。

 トーストって角が硬いし、口の中パサパサになるし。


「あのようなものを普段から食べているとは、この家は裕福なのだな」

「そんなことねーよ、普通だよ普通ー。一般家庭ならどこも似たようなの食べてるよ」

「そうか、あれが普通か……」

「そ!」

 

 俺は1階のリビングのドアを開けて、台所に向かい、台の上にあったサランラップされてるハムエッグトーストを手に取る。

 あと、コップと冷蔵庫から牛乳もだ。

 

 そうして、必要なものを揃えて自分の部屋に戻ろうかと、思っていたその時。

 

「ここで食べないのか?」


 ウスイさんにそう言われた。


 俺はどうしようかと迷った。

 別にここで食べてもいいけど、いつからか自分の部屋でご飯を食べるようになっていたから、自然と身体がそうしようと動いていた。


「余もお昼を取るから一緒にどうだ」

「そういうことなら……」


 俺は久しぶりにリビングで食事をすることにした。

 先に席について、ウスイさんが何を食べるのか見ていると、彼は何やら冷蔵庫から皿を取りだした。


 見ると作り置きされた焼きそばだった。

 それを慣れた手つきでレンジに入れ、600ワットで1分半と、ボタンをポチポチと素早く押した。


 俺はあんなこと教えてねーぞ。

 冷蔵庫も電子レンジもなんで知っていて、扱えてるんだ?

 昨日なんて、トイレの形に、キレイさに、流す仕組みに目を見開いていたのに、一体誰に教わったんだ、まさか……。


「オヤジに教えてもらったのか?」

「ああ、だがほとんどはタイヨウの母君から教わったがな」

「もしかして、異世界から来たって言っちゃった!?」

「いや、余がいたところはこんなモノはなかった、とは言った」

「まあ、それぐらいならいいか……」


 とんでもねぇド田舎から来たって事にすれば、説明がつくか? ほんとに? この現代日本でそんな誤魔化し方は無理ある気がするけど、そうするしかないよな。

 でも、俺がいないところでウスイさんの素性を深掘りされたら終わる。

 ウスイさん喋れば喋るほど、この人なんかおかしいぞってなるからな。

 釘を刺しておかねーとな。


「ウスイさん、おふくろやおやじに地元どこ? 

とか聞かれても絶対に答えないでね、異世界から来たとか勘づかれたらヤバイし」

「余が別の世界から来たことを知られてはまずいのか?」

「そりゃそうだろ」

「なぜだ」

「なぜって、そりゃ……そりゃ……騒ぎになって、通報されて、国に捕まるてきな? ことになるかもだし……」


 はは、何言ってんだ俺、漫画の読みすぎだ。

 そんなことになるわけがない。

 でも自分でもなぜ、おふくろ達にバレちゃいけないのか、分からなかった。

 ただ、何となくバレちゃいけない、そう思った。

 そんな咄嗟に出た言い訳だからか、ウスイさんは俺をじっと見つめてくる。

 相変わらず無表情で何を考えているか分からないが、その視線が怖くて、俺は思わず目を逸らしてしまった。

 

 すると、ウスイさんは俯いている俺に言った。


「タイヨウ、あの2人はそんなことはしない」

「……あ、ああ、そうだよな」


 すげぇキッパリと言われた。

 なんか悪いことして怒られた気分だ。


「2人ともタイヨウと同じ、見ず知らずの余に手を差し伸べてくれる、お人よしだ」

「い、いや、俺は別にそんなじゃ……」


 そんなじゃない。

 俺はただ、嫌な現実から目を背けたくて、ウスイさんを見ていると現実が遠のいていく気がしたんだ。

 たぶん、そう。


「だが、タイヨウの言うことにも一理ある。

 他の者には素性を悟られないようにするとしよう」

「え、そ、そう」

「して、故郷はどこかと聞かれたら何とな答えれば良い?」

「えーと、沖ノ鳥島とかかな」


 沖ノ鳥島って言えば、冗談って思われるか、言いたくないんだなって、思われるだろう。

 

「分かった」


 理由とかは聞かれなかった、ウスイさんは淡々と一言そう言った。

 そして、とっくに出来上がっていた焼きそばをレンジから取り出し、俺の正面の席に座った。


「さぁ、食べようか」

「お、おう」


 ウスイさんはさっそく箸を使って麺を頬張った。


 その手つきを見て、何故かすごく綺麗に感じた。

 別に俺はあっち系じゃねーよ? 女の子めっちゃ好きだし、ソシャゲのガチャで男キャラなんて引いた事ねーもん。

 つまり俺が言いてぇのは、そんな俺から見て、ウスイさんの箸の扱いはすげー綺麗だ。

 いや、上品? んと上品とも違うな、なんて言うか、道具の扱いが上手い……のか?

 まあ、そんなことはどうでもいいんだよ、俺もさっさと食べよ。


「いただきまーす」


 そう言って俺は右手でテレビのリモコンを操作し、左手でトーストを手に取り、かじった。

 

「……」


 その間、一瞬だけウスイさんの手が止まった気がした。

 もしかしてテレビに驚いたんかな。

 きっと、箱の中に人がいるぞ、って驚くんだろうな、見ものだ。

 

 しかし、どうやらテレビのこともおふくろに見せてもらったらしく、知ってましたって顔をされるだけだった。

 じゃあ一瞬動きを止めたのはなんだったんだろう。


---


 食後。

 俺の部屋に戻って、ウスイさんがこれから働くために何をすればいいのか、話し合うことになった。


 ウスイさんはこれを作戦会議と呼んでいる。

 そんな大層な話し合いじゃないと言ったら、『なにかを為すには策を立てねばなるまい、余もこの(よわい)にしてそれが多少分かってきた』といわれた。

 

 この齢って言われてもウスイさんっていくつなのか分からない。

 すげー気になる。

 

 だから俺は聞いた。


「ウスイさんって、何歳なの?」

「確か、24だ」

「俺と同い年!?」


 でも言われてみれば、確かにそれぐらいに見える。

 昨日は冒険者みたいな服装と槍を持ってて、貫禄みたいなのが感じられたから、怖くてそれどころじゃなかった。

 でも今は、俺が用意したパジャマを着せてる。

 三角形と四角形、それと丸形の絵柄があって、背中にはケツだけ星人のジャガイモ小僧が描かれている。

 その姿を見ると、恐怖をまるで感じない。

 ただのごろ寝大学生だ。


 ちなみに、槍とか防具とかもろもろ、俺のベットの下に放り込んで隠してる。


「まだ若くて良かったね、歳を重ねるほど就職するの難しいから」

「若くは無かろう、もう折り返しだ」

「は?」


 折り返し?


「なに、ウスイさんの世界では50歳ぐらいでみんな寿命なん?」

「寿命かはわからん、だが、その齢になると亡くなる者が多い。60でよう生きたと言われ、70で人かどうか疑わしいとされる」


 すげー世界だな。

 いや、日本も昔はそんな感じだったか。

 やっぱり戦争のありなしが、長生きできるかどうかに影響しまくりらしい。


「まあ、この国ではまだ若いとされるから大丈夫」

「そうか」


 でも、新卒ほやほやだった俺が無職なんだ、あんまし年齢と関係ねーかもな。


「じゃーウスイさん、第1回作戦会議の議題は、就きたい業種を決めます」

「……わかった」


 そう返事したウスイさんは険しい顔をした。

 たぶん業種ってなんなのかわかってねーんだと思う。

 

「業種ってのは金融業とか、製造業だったりーー」


 ダメだ、こんな説明じゃ伝わらない。

 ウスイさんがより険しい表情をするようになった。


「ーーえと、農業、つまり農家!」

「農家!」

「そう! まずは農家をやるかやらないかを決めます。

 米なのか、果物なのかとか、なんの農家をするのかはあとで決める」

「そういうことか、そうだな、米農家の経験はある、なに農家でも構わん」


 あれ、この人、一国の王だよな、なんで米農家経験あんの?

 まあいいか、とりあえずA4用紙にウスイさんは農業ありって書いとこ。

 書記なんてやったことねーけど、俺がわかればいいんだから、どうにかなんだろ。


「タイヨウはどうなのだ?」

「え、俺?」

「タイヨウも職を探してると言ってたではないか、紙に書かないのか農家はアリなのか、ナシなのか」

「え、俺が書いた字読めんの!?」

「ああ」

「ふ、ふーん」


 普通に日本語読めるんだ。

 もしかしたら、別世界じゃなくて過去の日本っめ可能性も出てきたな。

 いや、ねーな。

 俺の部屋にある日本列島の地図見ても、なんも反応無かったし、俺も昔の日本にウルスって国があるなんて聞いたことがない。

 なら偶然だろう。


「ーーヨウ、タイヨウ。聞いているのか? どうなのだ」

「ああ、わりぃ、わりぃ、えーと農家だっけ、俺はちょっと嫌だな」

「なぜだ」

「やっぱ、大変なイメージがあるからさ、肉体労働はキツイって」

「……確かに大変だったな。山から(けもの)が降りてきた時、特に熊が降りて来た時は危なかった。命懸けの戦いになる。」


 俺が考えてる大変と、ウスイさんが考えてる大変の度合いが全然違うわ。

 そりゃやべーって、熊なんて人間が相手にできる動物じゃないって。

 しかもウスイさんの世界では剣が主流だろ? ああ待て、確か魔法もあるんだったか、ならいけんの?


「この国で、そんな命懸けの戦いはたぶん起こらねーと思うけど、俺は身体を動かすのは苦手だから嫌なんだ」

「……そうか、ならタイヨウな頭を使う仕事を探してるのか? 王都に住まう商人のような」

「商人? と言うと金融業か? んー、給料はいいらしいけど、聞くところによるとストレスがやばいって話だな」


 そもそも金融業なんて高学歴ばっかで、俺みてーなのは面接どころか、エントリーシートで落とされるわ。


「自分でお店を開くってんなら別だけど、なんもアイデア湧かんし、やってけねーだろ」

「……そうか」


 しっかし、職を業種からまず探すなんて、一体いつぶりだろうかね。

 ……せっかくだし、俺ももう一度、やりたい職業探してみっか。

 なんかウスイさんと一緒に探すの、楽しいから。


---


 俺たちの第1回作戦会議は夜遅くまで続くであった。

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