8 作戦
スマホを握りしめた本庄さんが言った。
「すぐに応援を呼ぶよ!このままでは危険だ」
「もうすぐ終わるから大丈夫。これ、作戦だから」
「作戦……?」
「国を転覆させたいとか、体制反対とか、アタシはそういう思想的なのはよく分かんないし、呪詛攻撃までやっちゃう人の考えを理解しようとは思わない。だけど、仕事の依頼が来たら全力で戦うわ。だってアタシは正義の霊能姫だもん」
フフンと胸を張ると、本庄さんが困った顔を見せた。
「頼むから、危ないことはやめてくれ」
この長い呪詛の束を辿っていけば、術者の元へ行けるはず。
アタシの霊視ドローンは、上空から一気に降下して街の一角へ向かった。
すると———いた。アパートの一室で、一心不乱に祈っているおっさんが。紙テープの先端に張り付いていた顔とそっくりだ。
机の上には直筆の禁呪符と呪いの言葉が記されたメモ帳。そしてなぜか藁人形まである。
最近、増えたんだよなあ、こういう俄な呪師モドキが。ネットで検索した呪術式を見て、安易に手を出しちゃう人が多い。
「〇〇通り、3丁目21番地。〇〇ハイツ301号室。40代くらいの男性。部屋の中メッチャ汚い」
アタシの言葉を素早くメモした本庄さんは、電話で部下達へ指示を出して現場へ向かわせていた。
「証拠を残しておきたいから、そのまま穏便に終わらせてくれ」
本庄さんが両手を出して、抑えるようにというジェスチャーをする。
「わかりました」
と、いいつつも、おっさんに少しだけ意地悪をしようと思った。
気合を入れると、アタシの右腕に絡んだ赤い呪詛の束が風船のように破裂した。
今ごろ、あのおっさんの部屋にある全てのガラスが粉々に割れ、電化製品がショートしているだろう。
「ふう」
派手な祓い方をした為か息が切れ足元もふらつく。右手の爪の間からは、血が少しだけ滲んでいた。
次からは仕事の前のアルコールはやめよう。
本庄さんが慌ててアタシを抱きかかえてくれた。
めっちゃ嬉しい。




