7 仕事
アタシ達を乗せたミニバンは皇居前広場の近くで止まり、そこから坂下門まで歩いた。
夕焼けの空に映える薄緑色の結界ドームへ、紙テープのように長く赤い呪詛の束が、ガシンガシンとぶつかっている様子が見える。
その派手な攻防シーンに、思わず「おお〜」なんて声を上げてしまった。
「君にはどう見えているんだい?僕はこんな仕事をしているけど、能力者じゃないからどうにも歯痒くて……」
本庄さんが口をへの字に曲げ、悔し気にため息をついた。
「私には祓役の爺ちゃん達が作る結界は、おっきな薄緑色のドームで、呪詛は赤くて長い紙テープの束に見えます」
本当は、呪詛にはおどろおどろしい感情みたいなものが乗っかっているけど、何と言って説明したら良いのか分からなかったので割愛した。
本庄さんは、ムムムと唸って皇居を眺めていたけど「やっぱり分からん」と肩を落とした。
「じゃあ、始めますね」
眉間に人差し指を当て、337の呼吸法と共に軽く瞑想する。アタシの意識はドローンのように浮遊して結界にぶつかり続ける呪詛の束へ向かった。
試しに、そいつへ霊波をぶつけてみた。
でも、無視された。
何度も霊波を投げる。間違い無く当たっているはずなんだけど、やっぱり無視された。奴はこっちのことなんかお構いなしに、結界ドームを破壊しようと体当たりを続けている。
「ムカつく〜」
つい、言葉に出してしまった。
本庄さんが、ギョッとしたようにこちらを見た。
霊波では効果が無い事が分かったので、作戦を変更することにした。アタシ自身が恨みの対象に見えるように仕向けよう。
けっこう無茶ぶりな祓い方なんだけど、早く確実に終わらせるためにはこれしかない。
アタシは瞑想を深め、こっちが恨みの対象だよ、という念を込めた。
すると反応があった。呪詛の束がこちらに気付き、引き寄せられるように向かって来る。
よしよし。餌に食いついたな。
よく見ると、その赤い紙テープの先端には男の顔がついていた。そいつは憤怒の表情でこちらをギロリと睨みながらアタシの周囲を回り、噛みつく真似をして威嚇してくる。
右手を出すと、そいつは勝手に絡まっていった。
「痛たたっ!ヤバイヤバイ 」
ビリビリと電気に似たショックを受けて、思わず叫んでしまった。
「どうしたアオイ君!大丈夫か?」
「こっち来ちゃダメ!いま、めっちゃ生気を吸い取られてる。普通の人なら死んじゃうから離れていて!」
赤黒く腫れ上がっていくアタシの右腕を見た本庄さんが、青ざめた顔で心配そうにオロオロと右往左往していた。




