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6 用談

 居酒屋の個室では既に本庄さんが座っていて、ジョッキを口へ運んでいた。

「やあ。待ちきれなくて先に始めていたよ」

「仕事中にビール飲んで良いんですか?」

「ノンアルだから大丈夫」

 アタシには本物ビール、枝豆と数本の焼き鳥がテーブルに並んだ。


「さて、始めようか」

 本庄さんが手持ちのバッグからタブレットを取り出して資料を表示させた。

「これが先月の仕事内容だ。やはり呪詛祓いが一番多いね。全体の5分の2くらいがそれだよ」

 二本の指で円グラフを拡大表示する。

「呪念攻撃とかそういう陰陽師的なものがこんなに多いなんて思ってもいなかったわ。まあ、そのお陰でアタシが知らなかった世界を垣間見れたし、色々と体験できたけど」


 本庄さんが恐縮そうに頭を掻いた。

「色々と大変な思いをさせてごめんね。という訳で、先月のバイト代はこれ」

 表示された金額を見て、つい「うおおっ」とオッサンみたいな声を上げてしまった。

「こんなに頂いていいのかしら。バイトの範疇を越えていると思うんですけど」

「スタッフ全員が君に感謝している。特に夜間の呼び出しに対応してくれるのは本当に助っているんだ」

「スタッフといっても、みんな爺さん達だもんね」

「神職の世界も後継者不足で、みんな老体に鞭打って昼夜頑張ってくれているんだ……っていうか、アオイ君の強さが規格外なんだよ。みんな君の事を霊能姫なんて呼ぶようになったよ」


 象徴と言われる人には敵も多くて、昔から呪詛やら念みたいな悪意ある霊的攻撃がバンバン来るそう。だから、皇居には風水的なすっごい結界が張られていて、祓役(はらいやく)という特別な神職の爺さん達が常に防御している。

 でも、たまに防ぎきれない強力な呪詛攻撃に見舞われる事があるんだけど、そんな時にアタシが呼ばれる。


「ん?」

 本庄さんから独特の微かな残り香が漂ってくる事に気づいた。誰かが放った呪詛が結界にぶつかった際の焼け焦げた匂い。

「何かアタシに隠しているんじゃない?」

 そう言うと、視線を泳がせた本庄さんが、頬をひくつかせながら愛想笑いで誤魔化そうとした。

「い、いや。大丈夫だよ。気にしないでくれ」

「そういう訳にはいかないわ」

 詰め寄ると、頭をかきながらポツリと話し始めた。

「実は、今日の昼過ぎから呪詛攻撃が始まったんだ」

「やっぱり。なんでアタシに隠そうとするの?」

「君は連日連夜の出動で、きっと疲れているだろうからって上司が気にしていて……」

「いまさら何を遠慮しているのよ」

 アタシはジョッキを傾けると喉を潤し「ぷはあ」と行儀悪く口の周りを拭った。

「ちっとも疲れていないし、つーか能力バリバリで有り余ってるわ」

 そう言って立ち上がろうとすると、本庄さんが「ちょっと待ってくれ」と、アタシの肩を掴んだ。

「実は、上司が心配している事は他にもあるんだ。君の悪霊祓はほとんど捨て身のバトルだそう

じゃないか。自分の身を壊しかねない危険なやり方だ、と。僕も同じ意見だ」


 まあ、確かにそうかも。

 こないだも、悪霊を自分の体に憑かせて焼き殺したり、怨念の炎を握り潰して火傷しちゃったりと、派手にやった。

 ヘタすりゃ命を落とすのは分かっているけど、あまり怖くないの。アタシって一度死んだ人間———そう。ゾンビだから。

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