4 上京
以前、幸子おばさんから聞いた事がある。
人間って他人を羨んだり憎んだりするし、逆に自分を蔑んだりもするけど、霊能の世界では、その根っこにあるのは「飢え」なのだ、と。
それは単なる空腹とは違うらしい。
金銭や物欲。支配したい、陥れたい、殺したい。そういうものの総称が「飢え」だ。
餓鬼はその飢えに喰らい付き、心を支配する。
餓鬼が餓鬼を呼び、飢えはより大きなものになっていく。
それが現代社会では広まりやすくなっているのだそう。
アタシは地元を離れた。
大学の授業はそこそこ楽しいし、本庄さんもけっこう良くしてくれている。
皇居って閉鎖的なイメージがあって、アタシみたいなパンピーが入れる所じゃないと思っていたけど、実際に行ってみると結構オープンだし一般参賀や観光客もバンバン来ている。
あそこって、霊的防御のレベルが高いんだけど、人が集まる所なので霊障や呪いを受けやすいみたい。
だから、アタシの仕事はけっこう多い。
まあ、その分給料も入ってくるから家賃と生活費の両方を自分で稼げちゃう。
上京してから2年半が経つ今でもちゃんと大学生活できているのは、悪霊退散の仕事が順調だからだ。
ギャルはとっくの昔にやめた。
宮内庁ってハイソな感じだし、大学にもギャルファッションの娘は皆無だから、周りに合わせなきゃと思ったの。
髪は黒ショートボブ。服装もふわっとしたフェミニンで揃えた。目指したのは清楚なお嬢様系コーデ。
「いいねえ。すごく似合っているよ」
アタシの姿を見て鼻の下を伸ばす本庄さん。やっぱ男ってこういう女子的な格好が好きな人って多いよね。