3 勧誘
高校二年の終わりころ、高級車が施設の前に停まった。
また政治家?って警戒したけど、現れたのは宮内庁って所から来た若い兄ちゃんだった。
それが本庄さん。
すごく腰が低くて、お土産にケーキを持ってきてくれた。それが流行りのデパ地下スイーツだったから超嬉しかった。これだけで好感度が爆上がりだった。
彼は、アタシを宮内庁の外部霊能力者の1人として迎えたいと言った。
まあ、簡単に言えば、霊能力を使って皇族を守って欲しいということ。今までの担当者はお婆さんで、半年前に老衰で亡くなったから、代わりの人を探していたんだって。
アタシの噂を聞いて、この数ヶ月こっそり観察していたけど、恐らく日本で5本の指に入る霊能力者かもしれない、と。
「君の安全は僕が保証します。東京に来て日本を裏から支える仕事を手伝って下さい」
そう言って本庄さんは頭を下げた。
突然のことだったのでアタシはポカンとしてしまったけど、幸子おばさんは自分の事みたいにめっちゃ喜んだ。
「ついにアオイの力を日本の役に立てる時が来たわね。弟子が出世して私も鼻高々よ」
そして、本庄さんの事を、
「良い男じゃん。運命の人かもよ」
なんて言ってアタシをからかいながらムフフと笑った。
高校卒業後の進路は白紙状態だったから、丁度良かったのかもしれない。国を守りたいなんて殊勝な志は皆無だったけど、いろんな人と出会ったり、デカイ仕事をしているうちに自分の歪んだ死生観を変えられるかもしれない、なんて思った。
スカウトにOKを出し、いちおう大学生をしながら霊媒師の仕事をするって事に決まった。
上京の日が近くなると、幸子おばさんは急に心配し始めた。
「東京は怖い所だから、十分気をつけるんだよ」
「アタシには警備が付くらしいから大丈夫だよ。外国のスパイが狙って来る事もあるんだってさ。ウケるよね」
笑っていると、おばさんは真剣な表情で言った。
「霊的に心配なんだってーの!未練とか恨みを残した怨霊も怖いけど、餓鬼には特に気をつけて欲しいのよ。最近、たまに見るかけるようになったから……」
餓鬼って六道輪廻の中に出てくるアレ。
実際に目にするまで仏教の中だけの存在だと思っていたけど、本当にいる。
食べても食べても満たされず、もっともっと欲しがる。しかも他人には分け与えず、自分だけ独り占めする醜い鬼だ。




