29 希望
今は、みんなで我慢の籠城生活を過ごしている。
食料と燃料をできるだけ節約し、雨水を溜めて凌いだ。
生活が一気に戦前になったと安田さんが苦笑いしていたけど、悪いことばかりじゃなかった。
街灯やネオンが無くなったので、都心なのに星が綺麗に見える。
空気も澄んでいる。
それから半年が過ぎ、季節は冬になった。
感染者達は凍死や餓死したみたいで、街中がひっそりと静まったけど、ウイルスはまだそこにいるかもしれないから、アタシ達の籠城はまだしばらく続く予定。
世界中の多くの国家が消滅した。
無線を使って生き残っている人達との連絡も続けている。帰って来た返事は少ないけど、アタシ達以外の人間がいなくなった訳じゃない。
その人達に呼びかけ、何とかして日常を取り戻す道を探そうとしている。
アタシの中に宿った赤ちゃん。小さくて可愛い未来の子。
自分には希望が残っているってことを、君に教えられたよ。
死生観なんて簡単に変えられないけど、アタシは本庄さんや君のために全力で生きることに決めた。
だから安心して出ておいで。
少し大きくなってきたお腹を撫でながら、アタシは毎日そんな事を語りかけている。
完




