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28 浄化

 地下へ降り、複雑に入り組んだ廊下を進む。

 追ってくるゾンビ達の気配を背後に感じる。

「もう少しだ!がんばれ」

 本庄さんに励まされ、アタシ達は必死に走った。


 突き当たりに鉄製のドアが見える。オフィスビルでよく見かける何の変哲もないアイボリーに塗装されたドアだ。

 本庄さんは首からぶら下げているパスケースを美緒に渡した。

「僕が食い止めるから、君の指紋で開けてくれ。暗証番号は分かっているよな?」

「はい!」

 キーボックスの蓋を開けた美緒が、長い暗証番号を打ち込み始めた。

 廊下の先から現れた十数人のゾンビ達が、こちらへ向かって来た。

 本庄さんが防犯ブザーを鳴らして遠くの方へ投げると、ゾンビ達がそちらの方へバタバタと走っていく。でも、そのうちの数体がブザーを無視して本庄さんを目掛けて襲って来た。

 警棒で殴り、タックルや蹴りで後方へ押し返す。


「もう少し。もう少し……」

 必死に暗証番号を打ち込む美緒が、震える声で呟く。

 本庄さんが襲ってくる3体のゾンビを警棒で押し返した。

 指紋認証が完了した小さなアラーム音と共に、カチャリと解錠した。

「開きました!」

「中へ入れ!早く!」

 雪崩れ込むように扉の向こうへ走る。そして再び鍵を閉めた。

 激しく扉を叩く音が聞こえる。

 座り込んでハアハアと荒い息を繰り返すアタシ達。

「やられちまった」

 本庄さんが自分の右手を眺める。見ると、小指の下に噛まれた痕があった。

 アタシと美緒は息を飲んだ。

「報告では、噛まれると3分から5分ほどで症状が出ると言われている。君達は早く僕から離れるんだ」

「そんな……そんな」

 美緒が激しく首を振る。

「向こうにも扉があるけど、同じ要領で鍵が開く。さあ、僕を置いて行け。ぐずぐずしていると手遅れになる」

 アタシは本庄さんの手を握った。

「今から浄化するわ」

「やめろ。早く逃げるんだ」

「黙って」

 アタシは337の腹式呼吸を繰り返して瞑想した。


 安田さんが呪いの傷を負った時に治した時のことを思い出す。あの時は細胞の一個一個に取り憑いた呪いをまとめて潰していったけど、今回は違う。

 浄化だ。

 やった事ないなんて言ってられない。一刻も早く処置しないと本庄さんを失ってしまう。

 傷に集中して、念を送り込む。

 血管や筋肉に入り込んだ極小の異物を探し出して引き寄せた。

 広がるのが早すぎる。

 ううん、駄目よ。弱気になるな。

 アタシはこの人と一緒に見たいの。あの光の先にあるものを!希望を!

 数十万、数百万の細胞に散らばった呪いを、霊力の網でたぐり寄せるのよ!

「傷口が熱い……痛みが消えた」

 本庄さんの呟きが聞こえた。


 気がつくと、アタシの手の中には砂のようなものが溜まり、広げるとパラパラと床へ落ちた。

 咬み傷は塞がり、うっすらと跡のようなものが見えるだけだった。


 彼はゾンビにならなかった。


 その後、皆で地下通路を進み、何重にも張り巡らされたセキュリティを抜け、御所の近くにある秘密の出入口へ辿り着いた。

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