27 通路
本庄さんの車は正面玄関の窓ガラスを破壊して、廊下まで侵入していた。
ゾンビ達から逃れたアタシ達は、間一髪で車に乗り込んだ。
タイヤをスピンさせながら急発進する車。振り返ると、追いかけてくるゾンビ達が遠く離れていく様子が見えた。
車内で、アタシは美緒と本庄さんからこっ酷く怒られた。美緒なんてボロボロ泣きながら抱きついて来て「2度とあんな事をしないで」と怒鳴っていた。アタシも泣いた。
車の窓からマンションやビルの窓から炎が上がっている様子が見える。
街は酷い状態だった。
渋滞のまま放棄された車が乗り捨てられ、血だらけの人達が道端に倒れている。それらの隙間を縫うようにゾンビ達が蠢いており、アタシ達の乗った車を見ると走って追いかけてきた。
本庄さんがハンドルを操りながら言う。
「C国から連絡が途絶えたのは、全土が壊滅状態になったからなんだ。ベトナムやラオスにも感染者が拡大中。欧米にも飛び火しているよ。我国はどれだけもつか……」
「政府からの指示は?」
後部座席から乗り出すように尋ねる美緒。その問いに本庄さんは首を振った。
「Jアラートを発出する隙も無かったらしい。もう、どこの省庁も機能していないんだ。離島や北海道の一部などでは、まだ感染者は出ていないようだけど、恐らく時間の問題だろう」
カーラジオから、アナウンサーが必死にニュースを読み上げる声が聞こえる。
「ロイター通信によりますと、フランスとドイツで感染者が確認されたとの情報があり、周辺国政府が軍を出動させて国境の閉鎖措置を行っています。また、未確認情報ですが中東では侵攻の準備を進めている国もあるとのことで……」
「これからどうするの?」
アタシが尋ねると、本庄さんは「皇居へ行く。沈静化するまで、引きこもり作戦さ」と答えた。
「門は全て閉じてバリケードで固めた。でも、こういう不測の事態に備えていくつかの地下トンネルがあり、外部と行き来できるようになっているんだ。それの一つを使う」
車は半蔵門近くの、あるビルへ辿り着いた。
ゾンビがウヨウヨしている。
「美緒君にも話したけど、奴らは音に集まるらしいからこれを探していたんだ。君達の救出が遅くなったのもそのせいさ」
本庄さんの手には、小学生がランドセルにつける黄色い防犯ブザーがあった。
「僕が合図したら、車から降りてビルの中へ走るんだ」
————それっ!と合図する本庄さん。
アタシ達は一斉にドアを開けて車外へ飛び出した。それに気がついたゾンビ達がこちらを見る。
本庄さんが防犯ブザーのピンを抜くと、アラームが鳴り響いた。それを遠くの方へ投げると、ゾンビ達がそちらへ走っていった。
「今だ。行こう!」
アタシ達は走れない美緒を左右から抱え、地下通路へと向かう階段へ急いだ。




