25 犠牲
アタシ達は廊下の途中にある、大きな観葉植物の影に隠れて周囲の様子を伺った。
壁の至る所に血しぶきが付着して、割れたガラスも散乱している。校舎のあちこちにゾンビが蠢いており、時々、遠くから悲鳴や呻き声が聞こえた。
きっと、校舎を閉鎖する間も無く感染者がなだれ込んで来たのだろう。
「本庄さんと正門前で落ち合う手筈になっていたんですが、これでは外に出られませんね」
忌々し気に美緒が言う。
「美緒。脚、刺されたのに、走って大丈夫なの?」
「平気……ではありません。けっこう痛いです」
刺し傷から血がドクドクと流れている。
「やばいじゃん。止血しないと」
「その時間はありません。一刻も早くここを離れましょう」
脚を引きずりながら歩く美緒。廊下には血が点々と落ちていた。
とりあえず玄関へ向かったけど、途中、至る所にゾンビがいて何度も進路変更をした。
廊下を歩いて柱の影に隠れる、を繰り返しながら先へ進み、やっと1階フロアに辿り着いた。
でも、そこにもゾンビの集団がいて、とても先に進める状態ではなかった。
「2階へ行き、避難用ハシゴを使って脱出しましょう」
そう言った美緒だったけど、すぐに立ち止まった。
前方に数体のゾンビがいる。
口の周りを血だらけにしたそいつらが、こっちを見ている。先頭にいるのは田中先輩だった。
「……あいつ、まだ追いかけて来るつもりなの?」
彼らはアタシ達を発見すると、唸り声をあげながら近づいてきた。
ゾンビなんだから、目の前にいる人間に片っ端から噛み付きたくなる筈なんだけど、彼の行動には明らかな拘りがある。
狙いは間違いなくアタシ。
「アオイさん逃げましょう!」
そう言う美緒の顔色は真っ青。血を流し過ぎて立っているのもやっとなのね。
アタシは彼女の腕を掴んで、近くにある警備員室の中へ押し込めた。
「な、何を!?」
「アンタはそこにいて」
「何を考えているんですかアオイさん?!襲われてしまいます」
美緒がドアを激しく叩く。
「奴の狙いはアタシよ。ここで食い止めなきゃ、どこまでも追いかけて来るわ。アンタは逃げて」
「ダメです!ここを開けてください!」
「SPだろうと何だろうと、アタシと友達になってくれてありがとね。マジ感謝」
ぞろぞろと群れをなして迫ってくるゾンビ達。
先頭を歩く田中先輩がアタシを襲おうと、血で真っ赤に染まった両手を伸ばしてきた。




