23 捕縛
20分後。
叫び声や走り回る音、ガラスの割れる音が聞こえ始め、アタシと美緒は無言で顔を見合わせた。
あの動物のような唸り声は、感染者のものだ。
ついに、アタシ達の世界に地獄が溢れた。
誰かが自習室へ入って来る。
本庄さん———ではなかった。
3人のスーツ姿の男を引き連れた双葉だった。
「あら、ここにいたのね。探したわよ」
警棒を振りかぶった美緒が挑んでいく。だけど、男の一人が銃のようなものを構え、その直後にパンという音と共に彼女の背中へ電線が突き刺さった。
「うあああっ!」
美緒が硬直し、鋭い叫びと共に机の上へ倒れた。
「さっきのお返しよ。テーザー銃の電撃でビリビリしちゃってなさい」
ふざけたように言い、倒れた美緒の右太腿へ小さなナイフを突き刺した。
「あああっ!」
悲鳴を上げる美緒。アタシは思わず彼女に覆いかぶさった。
「ちょっと、なんてことするのよ!やめなさい!」
「あら、優しいお姫様ね。でも、こちらの仕事を邪魔されちゃ困るのよ。ここで殺してもいいけど、どうせならゾンビの餌になってもらうわ」
そう言うと、双葉はアタシの腕を乱暴に掴み、男達へ引き渡した。
背中にテーザー銃を突きつけられ、歩くように促された。
自習室を出て廊下を進む。
背後を歩く双葉に尋ねた。
「アタシをどこへ連れていくの?」
「ちょっと離れたところの港に船を待たせてあるの。それに乗って我らの国へ。分かるでしょ?」
「嫌だと言ったら?」
「悪いけど拒否権はないわ。っていうか、あなたの場合すごいVIP待遇なのよ。指導者様をお守りする名誉ある仕事に就けるんだから、むしろ感謝しなさいよね」
「ずいぶん勝手なやり方ね」
「批判や議論は不毛よ」
背中を小突かれ、仕方なく歩いた。
薄暗く長い廊下を進んでいると、唸り声のようなものが聞こえて足を止めた。
見ると、数人が階段を上がってくる様子が、逆光のシルエットの中に見えた。
ゆらゆらと体を揺らしながら歩き、ときおりビクビクと痙攣したように手足を震えさせている。
女子生徒の集団だ。
破れた服と乱れた髪。そして口の周りは血だらけ。
「もう、ここまで来たの?聞いていた感染のスピードより早いわね」
舌打ちする双葉。
血だらけの彼女達がこちらを振り返り、獲物を見つけた動物のように唸り声を上げ、そして走って来た。
双葉が男達に向かって外国語で何かの指示を出した。
すると警棒を手にした2人の男がアタシ達を守るように前に出て、女子生徒達を殴り始めた。
「こっちに来なさい。別のルートで玄関まで行くわ」
双葉が乱暴にアタシの腕を引いた。