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22 隠伏

 自習室まで走ると、美緒はアタシを机の下へ押し込んだ。

「ちょ、ちょっと待って。どうしたっていうの?」

「手荒な真似をしてすいません。実は私、大学でアオイさんの警備を任されているSPなんです」

 辺りをキョロキョロと警戒しながら、小声で言う美緒。

「ずっと、あの双葉という女を警戒していたのですが、やっと正体を見せました。アイツはK国の工作員。あなたの能力に目をつけ、拉致しようと近づいてきたのです」

「……全然気がつかなかったわ」

 開いた口が塞がらない。


「彼らは隣国の感染症騒動に乗じて、あなたを誘拐しようとしています。きっと増援して襲ってくるでしょう。しばらくここに隠れていてください」

「あ、あのアタシ、本庄さんにマンションへ行くように言われていて……」

「そこに辿り着くまでの繁華街が危険です。どこに工作員が潜んでいるか分かりません。ここで助けを待つ方が賢明です」

 そっか、なるほど。さっきみたいに車が来て無理やり乗せられたら最悪だもんね。


「本庄さんには連絡しておきました。少し時間はかかるかも知れませんが来てくれます」

「国内でも感染者が出るから、早く逃げた方が良いんだけど」

「あれはC国内での話であって、まだ他国での感染の報告は聞かれていません。我国も昨夜から強力な水際対策を始めたので……」

「いきなり江戸川区で感染者が出て暴れ出すんだけど、それが合図のように全国へ広がっていくわ。この大学の近くでも騒ぎが起こる。もうすぐよ」

「どうして分かるんですか?」

「アタシと師匠が見た予知よ。感染したら、脳をやられて猛烈に人を襲いたくなっちゃうの。ニュースで暴れている人たちを見たでしょ?」

「あれは、政府に反発しているデモ隊と治安維持部隊の衝突なのでは……?」

「感染者よ。絶対に噛まれちゃダメだからね」

 無言になった美緒が、困惑したように私の顔を見つめた。


 5分後。

 スマホを見ていた美緒が「あ」と呟いた。

「江戸川区で暴動が起こっているそうです」

「ほらね……って、自慢する事じゃなかったわね。それ、暴動じゃなくて感染者が他人を襲っているの。この後、全国で分単位に感染者が増えるわ」

 突然、チャイムが流れて構内放送が始まった。

「校長より学生諸君へお伝えします。先般よりテレビニュースなどで報じられている通り、C国内にて発生した新たな感染症が爆発的に広がっていますが、当大学そばの繁華街で感染者がでたという情報が警察から入り———」

 アタシと美緒は黙って聞き入った。

「———よって、校内の混乱防止を鑑み、本日は午後全ての講義を休講にし、明日と明後日は全面的に臨時休講にします。生徒諸君は速やかに帰宅し———」

 放送終了と同時に緊急を知らせるサイレンが鳴り響き、数秒で静まった。

 しばらくバタバタと歩く音や学生達の話し声などが聞こえ、廊下の照明が消されていった。そして校内は静寂に包まれた。

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