2 師匠
幸子おばさんって、近所に住んでいる独り身の人なんだけど、霊能業界ではかなり力があるらしい。マスコミ関係には一切顔を出さず、レジ打ちのパートをやりながら除霊の仕事をしているという、ちょっと変わった人だ。
アタシは弟子入りした。っていうか、おばさんが勝手に弟子認定して修行をつけるって宣言したの。まあ、アタシも師匠なんて呼んで、それなりに楽しんでいた。
小学生の頃は、ほとんどの時間をおばさんの家で過ごしていたかもしれない。彼女は学校の勉強や社会常識、それから霊能力の使い方を教えてくれた。
世の中にはエクソシストとか陰陽道とか、色んな霊能関係のものがあるけど、おばさんが教えてくれたのは呼吸法と瞑想法だけだった。でも、それがアタシ的にバッチリ合って、霊能力はますます強くなった。
中学では周りに合わせてギャルしていた。
その頃になると、だんだん生と死の境界が曖昧になって、死ぬのってそんなに怖くないんじゃね?って思い始めた。
だって、幽霊とか怪異がそこら辺を歩き回っている様子なんて日常だし。それに、アタシは一度死んでいる人間だからって考えると、恐怖心が薄くなるのよ。
実際、この頃になると悪霊や怨霊は敵じゃなくなった。
アイツらってば、こっちが未成熟な女子だと思ってわんさか寄って来て、取り憑こうとする。
だから望み通り、一旦憑かせる。で、その後、自分自身を祓うの。
そんなアタシの様子を見て、幸子おばさんは怒った。
「おバカ!どうしてそんな無茶な事するのさ」
「勝手に向こうから寄って来て、憑きたがるんだもん。まあ、ちょっと霊障が出るけど熱が出る程度だから大丈夫」
「アイツらは恨みの塊なんだから、下手すると魂を持っていかれるんだよ」
「死ぬのなんか怖くないよ。親に殺されかけて、あの世の入り口を見ちゃっているし」
ケラケラ笑うアタシを見て、幸子おばさんは本気で心配していた。
「今のアンタは刹那的に生きている。本来、人は死を恐れるものなんだ」
アタシはおばさんの勧めで除霊とか厄払いの仕事を受けることにした。いろんな人と関わったり世の中の役に立つ事をしたら、死生観にも変化があるんじゃないかって言われたから。
始めてみると、それがけっこう依頼が来るもんで、放課後はあんま友達と遊べなくなった。
その代わり、めっちゃ稼げた。中学高校の6年間で、ン百万は貯まった。
今思うと、小金持ちだけど青春エンジョイできない陰キャ味の強い女子だったかもしんない。
おばさんや依頼者に褒められると、いちおう嬉しかった。だから、どんどん依頼を受けた。
ときどき、政治家とか経営者みたいなオッサン連中が来たけど、あいつら、ライバルや商売敵を呪い殺してくれって平気な顔して言うからウザかった。
札束積まれても、そういう仕事は断った。
お金の為にやっているんじゃねーっての。
色々な人の悩みを聞いたり祓ったりしたけど、結局、自分の死生観に変化は起きなかった。
むしろ、今の自分って生きているようでいて、実は死んでいるんじゃね?なんて思う事が増えた。
確か、生きているように見える死人って、ゾンビって言うんだよね。