19 屍徒
未来予知の事を本庄さんに話したくて電話したけど、コールが鳴るだけだった。
どうしようか迷って、大学へ向かうことにした。アタシの数少ない友達、美緒と双葉へ逃げるように言わなくちゃ。
彼女達の姿を探して、大学の構内を歩きまわった。
食堂へ向かう途中のラウンジ前を通りかかると、テレビの前に人だかりが出来ていたので、アタシもその中に入る。
全てのテレビ局で通常の番組は中止になり、臨時ニュースが流れていた。
「C国政府は、感染症の緊急対策として現地時間の○○時より各都市のロックダウンを行うと発表しており———なお、暴動と感染者との因果関係は不明で———C国の広報官は近隣各国に対して、これ以上の感染拡大はないと話し———」
これはヤバイなぁ。アタシの直感が究極のヤバさを感じている。
その時、電話が鳴った。幸子おばさんからだ。ものすごく焦った様子が電話口から伝わって来た。
「すぐ帰っておいで!」
「ど、どうしたのよ一体?」
「アンタ、こないだ白昼夢の話をしていたでしょう?さっき私も同じものを見たわ。間違い無く未来予知よ」
「あー、やっぱりね。実は今日も見ちゃったのよ」
「ウイルスが今日中に日本へやってくるわ。っていうか、そっちの大学の近くで暴動が始まるわよ。噛まれたりすると病気に感染するし、めちゃくちゃなスピードで広がる!」
「今日中に?ってか、早くない!?」
「アンタが言っていた通り、餓鬼道が溢れて滅茶苦茶な世界になるわ。だから、急いでこっちに帰っておいで!東京みたいに人が多い所なんて大変よ」
「まあ、アタシは大丈夫。最後まで本庄さんの力になりたいし」
「最後までって……死ぬつもり?!」
「本庄さんがアタシを必要とする限り働こうと思っているだけ」
上京してまで霊能の仕事をしたけど、結局、死生観は変わらなかったし、役に立っているという実感は湧かなかった。
きっと自分の中の鬱憤を、悪霊退治という大義名分の下で発散していただけなのよ。
もうすぐ地獄の釜が開いて死人の世界が溢れる。
そうなったら、おとなしくゾンビの仲間になるわ。
「大丈夫よ。心配してくれてありがとうね」
「ちょっ……アオイ!」
電話を切った。